24日付のニューヨーク・タイムズWeb版で気になる記事が出ていた=写真=。「Trump Asks Pompeo to Cancel North Korea Trip, Pointing to Stalled Diplomacy」との見出しで、非核化に向けたアメリカと北朝鮮の交渉で進展が見られないので北朝鮮への訪問(今月27日)を中止してはどうかとトランプ大統領がポンペイオ国務長官に指示した、と。その4日前、ロイター通信社のインタビューでトランプ氏が金正恩委員長と再び会談する「可能性が最も高い(most likely)」と述べたと報じられていた。それが一転した。非核化交渉が進まいことにしびれを切らしたトランプ氏が例の「張り手」を演じたのかと思ったが、どうやら背景はもっと複雑なようだ。
「張り手」とは、横綱・白鵬の「張り手」も以前話題になったが、立ち合いで相手の頬っぺたを叩いてひるませるやり方なのだが、トランプ流は「行かない」「止める」「中止」の脅迫的な言葉でカウンターパンチを食らわせる。予定されていた米朝首脳会談(6月12日)を中止すると発表したことは記憶に新しい。交渉を優位に進めようとするにはそのくらいの手練手管は必要なのだろう。今回の一件で分かったことは非核化交渉は膠着しているということだ。メディアのニュースを斜め読みしただけでも、その背後に中国の存在があるかもしれないと思ってしまう。
その一つ。北朝鮮の9月9日の建国記念日の行事に中国の習近平国家主席が参加するとのニュースが広がっている。金氏はことし、中国を3回(3月、5月、6月)訪問し習氏と会談している。会談の中で北朝鮮訪問を習氏に懇願したであろうことは想像に難くない。それが実現するとすれば、中国国家主席の訪問前に、アメリカに外交成果(非核化交渉)を誇示させることはしたくないと金氏は考えるだろう。非核化交渉の膠着はこれが要因か。
二つ目が肝(きも)かもしれない。互いに高関税をかけあって一歩も引かないアメリカと中国の貿易摩擦だ。アメリカと厳しい貿易交渉を行っている中国は、北朝鮮とアメリカの非核化交渉の進展をただ眺めているだけだろうか。これまでの金氏と習氏の3回の会談で、金氏は自国への経済制裁解除を要求しているはずだ。貿易摩擦をめぐるアメリカと中国の駆け引きの材料の中に北朝鮮への経済制裁の解除が中国の「交渉カード」になってはいないだろうか。簡潔に言えば、米中貿易の交渉でアメリカの圧力が強まれば、中国は北朝鮮への経済制裁に協力しない、と踏み込む。アメリカにとって困ることは、北朝鮮との非核化交渉がさらに膠着化することだ。
敵の背後に回って襲いかかることを「搦(から)め手」と言うが、まさにこれだ。北朝鮮への制裁解除を匂わせてアメリカの譲歩を引き出す戦術だ。アメリカの「張り手」と中国の「搦め手」の壮絶なバトルではないか。勝手な想像なのだが。
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