自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★看板の価値

2013年03月27日 | ⇒トピック往来
  先日、地元の新聞に掲載されたニュースだ。テレビの全国放送などでも取り上げられた金沢市の不動産会社の「名物看板」が市の屋外広告物設置基準に違反しているとして、是正指導を受けて今年秋までに撤去することになった。

  是正指導を受けたのは、私が通勤している金沢大学角間キャンパスの近くにある「のうか不動産」で、学生たちの評判はよい。学生たちが部屋のカギを紛失すると、合鍵を持参して夜中でも対応してくれるというのだ。問題となった看板は、人目を引く宣伝をしたいと2009年1月から設置を開始し、大学周辺を中心に40基ほどある。その看板は私自身も気にはなっていた。

  看板の文言は実によく練られている。その特色をひと言で表現すれば、「場の表現」だ。たとえば、交差点では「右へならえの人生に疲れたあたなも右折してください」と。右折すれば40㍍でその会社がある。飲料の自動販売機の横にある看板では、「ノドが乾いたら、人生が乾いたら」と表現する。強烈なのは、警察の交番に隣接するビルでは、交番の真上部分に、「『苗加』を『なえか』と読んだ人、タイホします」と書かれた看板=写真=がある。金沢の名字で「苗加」を「のうか」と呼ぶ。交番を絡めたこの表現は、ある種のパロディではある。著作権上は問題ないのだが、警察への「おちょくり」ととらえる人もいるかもしれない。また、この表現で警察の気分を悪くしないかとおもんばかる人もいるかもしれない。その看板を見て、人々が微笑むか、考え込むか。良くも悪しくも、これが看板の価値というものだ。

  冒頭の全国放送というのは、2012年11月9日放送のフジテレビ「めざましテレビ」。兼六園の近くのコインパーキングに、「兼六園までほふく前進であと5分」と表記された同社の看板がある。実際の距離はおよそ300㍍。はたして5分で兼六園まで行けるのか、元自衛官のお笑いタレントが実際に匍匐前進を試みた。すると、結果は15分ほど、3倍もさばを読んでいた。そこで、同社の担当者に表記の数字と実際にかかった数字にかい離があると意地悪く質問するという設定。担当者は「まさか本当に匍匐前進する人がいるとは思わなかった。人の印象に残るような看板をつくりたかっただけ」と笑って答えた。もちろん、テレビ局側もそのリアクションを計算しての演出である。

  ところで、全国放送にもなった名物看板が金沢市の屋外広告物設置基準に違反しているとして今秋までに撤去することになった。言葉の表現が問題視されたわけではない。大きいものでは縦横4㍍ほどになる看板もあり、現在ある屋上看板や野立看板、壁面広告30件のうち、25件が設置面積や高さなどで基準を満たしていないというのがその理由。2年ほど前から撤去かサイズ変更の指導を受けてきたという。基準を満たさない屋外広告物は撤去費用が必要なため、新しい看板への更新時や老朽化した場合などに改善・撤去するケースが多い。ただ、同社の看板は有名すぎて、他の違反した業者が市の指導の折に「あの看板の場合はどうなんだ」と引き合いに出すケースがあり、市と同社が協議して撤去となったようだ。

⇒27日(水)夜・金沢の天気    くもり時々あめ
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