自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆能登の「グローカルな風」

2013年03月13日 | ⇒トピック往来
   昨日のブログ「能登の風景を変える人々」の続き。金沢大学の能登における役割を考えたい。能登半島の先端で金沢大学は何を行っているのか、そのメリットは何かとよく尋ねられる。学内からもだ。2006年10月に廃校だった校舎を珠洲市から借り受けて始めた「能登半島 里山里海自然学校」。三井物産環境基金の補助金を得て、生物多様性と地域づくりをテーマにプログラムを展開した。このメリットは、常駐研究員を置いて、レジデント型研究の実績が積み上がったことだった。絶滅危惧種のホクリクサンショウオを能登半島の先端で確認したり、地元でコノミタケと重宝されるキノコがDNA解析で新種と判明し、「ラマリア・ノトエンシス」(能登のホウキダケ)と学名をついたりと、そこに研究者がいなければ、地域の人たちの協力がなければ陽の目をみなかったことが次々と生態学的なアカデミックな場に登場させた。

  次に翌年10月、「里山マイスター」育成プログラムという社会人の人材養成カリキュラムをつくった。文部科学省の科学技術振興調整費という委託金をベースにした。これで、常駐するが教員スタッフ(博士研究員ら)が一気に5人増えた。対外的には、「地域づくりは人づくり」と言い、学内的には「フィールド研究」といい、地域貢献と学内研究のバランスを取った。当初予想しなかったのだが、このプログラム(5年間)の修了生62人を出すことで、大学は大きなチカラ=協力者を得たことになった。この62人は卒業課題論文を仕上げ、パワーポイントでの発表を通じて審査員の評価を得、またプレゼンテーション能力を磨いた若者たち(45歳以下)である。そして、その後もアクティブに活動している。

  ことし、2月20、19日に世界農業遺産(GIAHS)セミナーを珠洲市で開催し、GIAHS事務局長のパルビス・クーハムカーン氏をローマから招いた。2日目、有機農業(個人経営)、企業農業、里山のデザイナー、菓子職人らマイスター修了の若者たち含め6人がそれぞれ10分ほど発表した=写真=。ビジネスベースでは軌道なかなか乗らないものの、里山で取り組む「夢」を真顔で語ったのだ。一つひとつの発表にコメントしたパスビス氏は最後に「あなたたちのその夢をぜひ実現してほしい。その成功が世界の若者をどれだけ勇気づけることか。バイオ・ハピネス(Bio-Happpiness)、自然と和して生きようではないか」と励ました。世界では若者の農業離れが進んでいる。若者を農村や里山に戻すには、新しい価値観が必要、それがバイオ・ハピネスという生き方というのだ。

  GIAHSは国連の食料農業機関(FAO)が認定している。能登など認定されたサイト(地域)は国際評価を受けたことになる。今回の世界農業遺産(GIAHS)セミナーはある意味で、能登の里山で農業やビジネスに取り組む若者たちと、認定機関FAOをつないだことになる。このセミナーを主催した中村浩二教授は「能登の里山は世界の里山とつなっがている。能登の若者たちが世界に目を向けることで、能登の新たな可能性を引き出すことができる。グローバルでもローカルでもない、グローカルに生きよう」と挨拶した。新しい価値観、それは国際ビジネスの最前線に立ち、グローバルに世界を飛び回ることだけではない。それには限界があり、なにしろコストがかかる。むしろ、同じ課題を抱える地域の者たちが世界中から生き抜く知恵を集める作業が必要になると、中村教授はいうのだ。世界の流れはすでにその方向に向かっている。

  不思議なことに。上記を裏付けることがある。「SATOYAMA」と「NOTO」は国際的に通用する言葉になっている。2010年10月、生物多様性条約第10回締約国会議(開催地:名古屋市)で「里山イニシアティブ」採択された。その後、2011年6月、GIAHS「NOTO‘s Satoyama and Satoumi」が認定された。この条約やFAOに関わりのある190ヵ国余りの担当者はこの言葉をマークしている。そして、能登の里山を訪れる海外からの研究者や行政担当者が数年随分と増えているのだ。その受け入れを大学、そして協力してくえる自治体、里山マイスターの受講生・修了生(JICA出身者が多い)が担っている。この現象を「能登のグローカルな風」と個人的に称している。

⇒13日(水)朝・金沢の天気    はれ
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