全国的には大きなニュースになってはいないのだが、金沢ではあるニュースが話題を呼んでいる。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の指揮者で、音楽監督の井上道義氏が北朝鮮の国立交響楽団の招待を受け、現在訪朝している。8日には、ベートーベンのシンフォニー第9番のタクトを振るというのだ。
これに関して、現地で共同通信の記者のインタビューを受けた井上氏は「政治的に解決できないことが(両国間で)あるとしたら、僕らみたいなのが穴をあけ、互いの疎通を図ることが必要だ」「第九は平和を望む内容の曲。(演目として)僕から持ちかけ(北朝鮮側が)すんなり乗ってくれた」「音楽だけでなく、できることがある人は何とかつながりを持ち、この国にいろいろな情報を入れてあげないといけない」と話した(8日付・北陸中日新聞)。
井上氏の訪朝は石川県議会2月定例会(7日、一般質問)でも取り上げられた。自民党の議員が「芸術家であっても北朝鮮に対する厳しい目に気付くべきだ」と。芸術家はそれ(訪朝)を「使命」と言い、議員はそれを「甘え」と言い、この話は結論が出ない。
その北朝鮮は政治の舞台では暴走している。国連安全保障理事会の制裁決議が採択(7日)を受け、北朝鮮側はきょう8日、1953年の朝鮮戦争休戦協定を破棄し、南北直通電話も遮断すると、テレビ画面でアナウンサーが声高にぶち上げた。「停戦白紙化」「ワシントンを火の海にする」など、アメリカの韓国の合同軍事演習を意識して挑発的なアナウンスメントを繰り返している。
まさに瀬戸際外交だが、その裏で、金正恩第1書記は平壌の競技場で北朝鮮とアメリカ人の選手が参加したバスケットボールの試合を、NBAの元スター選手デニス・ロッドマン氏とともに観戦(2月28日)、「バスケ外交」を展開している。
井上氏の第九演奏の指揮もその政治的な外交演出の一つなのだろう。いわば芸術の政治利用と言ってよい。その視点で見れば、井上氏の訪朝は果たして是だったのか…。硬軟織り交ぜた北朝鮮の「仕掛け」には驚嘆する。それにしても、北朝鮮の国立交響楽団による「第九」の演奏が今回初演というのだから、その舞台裏はさぞ…。
⇒8日(金)夜・金沢の天気 はれ