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「慰安所管理人の日記」をめぐる日韓の報道&読者の反応の無視できない大きな落差(上)

2013-09-02 23:37:36 | 韓国・朝鮮と日本の間のいろいろ
 記事のまとめ方に手間取っている間に、もう26日経ってしまいました。
 8月7日の毎日新聞(&朝鮮日報)で報道された「慰安婦:慰安所管理人の日記発見」についてです。

 当初はその記事について書くつもりでしたが、その後その本の韓国語版「위안소 관리인 일기(慰安所管理人の日記)」が発見者の安秉直(アン・ビョンジク)ソウル大名誉教授の解題つきで8月20日付で刊行されました。
 慰安婦関係では、朴裕河世宗大教授の「帝国の慰安婦(제국의 위안부)」(韓国語)も8月12日に発行されています。
 それらの内容や、報道のされ方、一般読者の反応等々、いろいろ材料を集めたりしているうちにどんどん記事の完成が遅れてしまったというわけです。

 さて、このニュースについて意見を述べる前にまず言っておきたいことは、日韓の報道のしかたに大きな違いがあるということです。

 まず8月7日の「毎日新聞」と「朝鮮日報」の紙面を比較してみます。
 この「慰安所管理人の日記発見」のニュースは、両紙とも1面でトップではないものの、要旨を大きな紙面を割いて載せています。
 また、中の面(どちらも6面)で、その詳細を紙面の半分以上を充てて記しています。

 まず両紙の1面全体を比べてみましょう。
 

  

  

 【「毎日新聞」は左上の流し記事、「朝鮮日報」は中央下の写真入り囲み記事で、かなり大きく扱っています。】

 それぞれの記事の見出しを比べてみると・・・。
    
赤線の大きな見出しは<‘日本軍が慰安婦組織的動員’日記出てきた>緑枠の小見出しは<ビルマ・シンガポールの日本軍慰安所管理人が書いた日記/“1942年7月10日朝鮮人の娘数百名‘4次慰安団’/日本軍用船に乗って釜山港出発、8月20日ビルマに到着/20名ほどずつに分けて日本軍駐屯地に配置された”> 


 上掲の「毎日新聞」1面の記事は→コチラで(今のところ)読むことができます。(コピペするなら今のうち、です。)
 「朝鮮日報」1面の記事は→コチラ。(会員登録(無料)が必要。) (日本語版は→コチラ)です。(これは有料。)

 いろいろなことが書かれていると思われる日記の中から、「毎日新聞」は慰安婦たちが映画見物したことを最初に見出しとして掲げています。記事本文では、慰安婦に頼まれて本人の貯金から引き出したお金を送金したことも書かれていますが、これらは「朝鮮日報」では見出し・本文とも記述されていません。
 「朝鮮日報」の方は<‘日本軍が慰安婦組織的動員’日記出てきた>と、日本軍の直接的・強制的関与を思わせるような文言です。日本語版の見出しは<慰安婦:慰安所管理人の日記発見、性的奴隷の実態明らかに>と、さらに「直接的で強い言葉」を用いています。

 このようなニュアンス以上の差異は、6面の記事内容にも如実に表れています。

 まず「毎日新聞」。
       

 この記事は→コチラで読むことができます。上の画像では切れてしまっている、下段の日記抜粋部分も含まれています。
 しかし、<慰安婦の日常 淡々とですからねー。日記抜粋部分もとくに衝撃的な記述はなく、まさに「淡々と」綴られています。

 次に「朝鮮日報」の6面。
   
 この記事は→コチラで見られます。(日本語版は→コチラ。)
 上の大きな横見出しは<日本軍慰安所ビルマ25ヵ所・シンガポール10ヵ所・・・軍の命令により移動>です。
 (日本語版の方は<慰安婦:安秉直名誉教授、日本軍による組織的動員を立証>という見出し!)
 また、この紙面の右端には旭日旗の写真入りで<‘旭日昇天旗 使用 問題ない’日本 公式化推進>という記事、紙面下段には<日本政府、慰安婦強制動員の文書はないと“関与しなかった”と否認するが・・・>という「関連記事」を載せている点も目を引きます。
 記事の最初の方の写真の女性たちは、戦争末期にビルマと中国の国境地帯で発見され、連合軍の保護を受けている朝鮮人慰安婦とのことです。
 この記事には、「毎日新聞」のような日記の「淡々とした」記述を多くの行を費やして載せた部分はなく、紙面上部中央の日記の写真の下に「ポイントとその説明」という形で載せています。日本語訳は次の通りです。

     

 どちらの新聞もニュースソースは同じなのですが、なんと違うことか。

 また、この日記を公表し、記者たちに説明した安秉直(アン・ビョンジク)教授の話もずいぶん違います。

 まず「毎日新聞」。

    

 この安秉直教授と、木村幹神戸大教授に対するQ&A記事は→コチラで読むことができます。

 ところが、「朝鮮日報」はと見てみると・・・。

 安名誉教授は「41年12月に太平洋戦争が始まった後、日本軍が数度にわたって慰安婦を連れていったといううわさが出回ったが、今回公開された日記でその実態が判明した。日本軍慰安所の運営実態を示すこの日記によって、慰安所が軍の組織編制の末端部に編入されており、従軍慰安婦が『性的奴隷』状態にあったことを再確認できる」と語った。
 ・・・この一文は「毎日新聞」とほぼ共通です。
 安秉直名誉教授は「従軍慰安婦は、徴用・徴兵・勤労挺身隊と同じく、戦争の本格化により日本が戦時動員体制の一つとして国家的レベルで強行したこと。しかも慰安婦は、募集時に自分たちがやることをきちんと説明されず、人身売買に近い手法が利用されたという点で『広義の強制動員』と見ても差し支えない」と語った。
 ・・・このあたりは、「聞く人(読む人)」の立場で受けとめ方が違ってくるような・・・。
 なお「狭義の強制」と言われる、拉致のようなものはなかっただろう」とか、「1990年代初め、慰安婦支援団体が実施する調査活動などを手伝った。だが、「強制連行」と最初から決めつけて証言集めをするような形だったので、運動からは手を引いた」という部分はありません。

 以上のように見てみると、両国の新聞(とくに韓国紙?)とも、ニュースソースが同じでも、それぞれの「一般読者が望んでいるように記事を書いている」ように思われます。それ以前に、取材記者が情報提供者の話を「自分が聞きたいように聞き、解釈している」のかもしれません。
 ※木村幹教授が8月20日ツイッターで「そういえば例の某日記関係で、在韓国日本大使館が安先生に抗議に行った、という話があった。え~、抗議する相手違うんじゃないのぉ、と思うんですが」と呟いています。抗議するなら相手は新聞社ですよねー。

 このようなメディア報道の大きな落差。結局は、それぞれの国の読者が自分の都合のいいようにニュースを受けとめるという当然の成り行きとなります。

 続きは、その(主に韓国の)読者の反応を見てみます。

 こういうネタは、メディアリテラシー教育のいい材料になるかもなー・・・。

[補足その1] 韓国では、8月8日ソウル聯合ニュース(→コチラ)で<일본군 조직적으로 위안부 동원•관리"…자료 공개(日本軍組織的に慰安婦動員管理・・・資料公開)>というニュースが伝えられました。(日本語版は→コチラ。)
 高麗大学の韓国史研究所の朴漢竜(パク・ハンヨン)研究教授が日記の現物を手に記者会見して公開、というハテ面妖な!?記事。これについては→コチラ参照。
 つまり、背景として韓国内での学者間の対立の激しさがあるということ。具体的には、8月6日に資料を公開した安秉直教授は「ニューライト」の学者であり、8日の記者会見で日記の原本を提示して記者会見した朴漢竜研究教授は彼を厳しく批判(非難?)してきた左派・民族主義の側の学者です。
※この件について、後述の木村幹先生の8月6日から数日間のツイートはとてもオモシロイ(←不謹慎!)です。

[補足その2] 「毎日新聞」の記事に登場している木村幹神戸大教授は7日朝「今回の日記資料発見は、全面的に安秉直先生らの学問的功績です。自分は単に公表のお手伝いをしているだけですので、誤解のないようお願いいたします。m(_ _)m」と自身のツイッターで記しています。翌8日には「今回のケースは、韓国においても安先生みたいに、史料を忠実に読み込んでちゃんとした仕事をしてくれる信頼できる研究者と、自分たちのイデオロギー的立場を守る為には手段を選ばない連中と、2種類居る、という事を典型的に示している、と思います」とも・・・。
 また木村幹教授自身はいわゆる「反日」あるいは「嫌韓」といった政治的に鮮明な主張はせず、実証的な研究を旨としている研究者です。(というのもひとつの「政治的立場」ではありますが・・・。)
※7日(19:33頃)のツイッターでは次のようなやりとりがありました。
@matsurowanuご自身ではどうでしょうか。"性奴隷"という語を使用しますか?
@kankimura自分は運動はしませんから使わないでしょうね。
@matsurowanu "運動用語"なのですね……。応答ありがとうございました。
@kankimura何だかいろいろと自分を「試そう」としている人が増えていて面倒くさい。因みに自分は、政治的な運動はしないんですよ。

※最近木村幹教授のメディア登場が多くなっているのはそんな立ち位置からでしょう。「左派」代表=吉見義明中央大学教授や「右派」代表=秦郁彦元千葉大学教授のどちらかのコメントだけ出すとそのメディアの姿勢が問われるので、「中立」的な木村教授を起用するというもの。それでも「木村幹教授は在日か?」等々の噂がネット上に見られるのは、木村教授が紹介する韓国側の考え方を木村教授自身の主張と早トチリした人の大誤解によるものでしょう。
 木村先生、8月6日にはこんなツイートも。
@kankimura 相変わらず、ある国や人の見方を「紹介」することと、その見方を「擁護」することの区別がつかない人が多い。

 →「慰安所管理人の日記」をめぐる日韓の報道&読者の反応の無視できない大きな落差(中)
 →「慰安所管理人の日記」をめぐる日韓の報道&読者の反応の無視できない大きな落差(下)

高校生にすすめる本360冊(1998年版&増補) [5]

2013-09-01 16:13:41 | 高校生にすすめる本360冊

 今回は、伝記・日本語&読書関係の教養書・古典です。
 キョーレツな個性の持ち主の伝記が多いと思われるかも・・・。しかし、伝記になるような人物はたいていそういう人ではないかなー。逆に、品行方正で良識をわきまえていて、人と争ったり人に迷惑をかけたりしない人物の伝記なんておもしろくなさそうではないですか。

☆印はとくに推奨。×印は品切れまたは絶版中の本(多すぎる!) △は絶版・品切れでも単行本なら出ている本。
105杉森久英天才と狂人の間河出文庫105~112=伝記。105は今は忘れ去られた島田清次郎という<天才>小説家、106は大正期の婦人運動家で、大震災の直後夫のアナーキスト大杉栄とともに官憲に虐殺された伊藤野枝、107は歌人与謝野晶子の生涯。106と107の、強烈な個性と波瀾に満ちた生き方にはただただ唖然。カワユサばかり求め安定を望む現代ギャルがますますくだらなくみえてくる。女生徒諸君必読。108、純粋でひたむきな光太郎の愛がなぜ智恵子の心をむしばんだのか? 読みやすい本。109は近代日本経済の礎を築いた大人物渋沢栄一の伝記。読む側まで熱くなる。110は著者の母がモデル。本好きの主人公が読んだ本を通して、大正~敗戦の時代と、その中を生きた無名の知的な女性の人生を描く。111は、単なる美術史のわくを越えて、社会との関わりの中で女性のあり方を考える深い問題提起を含む。112は、学校ではあまり<評価>されなかったものの、自分のやりたいことを追求しつづけてミキサー、ナイフ職人、動物写真家、ソムリエ等のエキスパートになった人たちの青春時代。学校がすべてではない。
113=なぜ生命の危険を冒し、つらい思いをしてまで登山家たちは山に挑むのか? 栄光と悲劇は紙一重、という例は多い。
114・115=日本語と日本文化の奥深さを知るために。115はさまざまなことわざ、言葉遊び等とその背景。伝説・民話、そして雑学にも詳しくなれる。古人の知恵とユーモアには敬服。
116・117=教養とは単に物事を知っているだけのことではない。これらを読めばわかるはず。森本さんの本はどれも深い内容をとてもわかりやすい言葉で書いてくれている。
118~128=日本の古典。現代語でも難解な「源氏物語」や、おじみの「枕草子」だけが古典だと思い込むのは不幸というもの。以下の作品はどれも原文でそのまま読めるはず。118はバラエティに富む説話の数々。弟分の「宇治拾遺物語」(角川文庫)もよろしく。119は美文による絵画的描写がいい。120、時を越えて人情といったものが相通じる思いがする。たとえば鬼瓦を見て上京中の武士がなく。「国で待つ妻を思い出した」というわけだ(笑)。121は戦国時代の歌謡集。現代にも通じる感覚。声に出して読んでみて。-「世間(よのなか)は霰(あられ)よなう 笹の葉の上の さらさらさっと降るよなう」。122は「源氏物語」に先立つ作品で、レッキとした貴族文学だが、音楽を素材にした、スケールの大きい、SFの要素もある物語。原文が難しい古典は現代語訳でけっこう。それなら「徒然草」も全部読める。236段の狛犬の話など何度読んでもおかしい。123こそ高校生向きのテキスト。ぬゎんと、原文で読んで意味がすいすいわかる! おまけにおもしろい!! なぜ岩波は復刊しないんだ!? 私は探しに探して大阪の古本屋で大枚千二百円払って買ったんだぞっ! 124はこれこそグロの極致! 芝居よりも映画よりも怖い! 心底怖い!! 125はパロディ精神に溢れた江戸時代の庶民向け読み物である黄表紙の集成。金があり余って困る話の「莫切自根金生木」(きるなのねからかねのなるき=回文!)など本当に笑える。126も、読むとつい笑い声が出てしまう。電車内で読むときには気をつけよう。127は江戸時代人のユーモアと反骨精神に共感。
128=「うれひつゝ岡にのぼれば花いばら」-蕪村の句には現代人の感覚に通じるものがある。「北寿老仙をいたむ」等の詩も心をうつ。蕪村は絵もすばらしい。いつも溜め息が出る。

106
瀬戸内晴美美は乱調にあり角川文庫

107
田辺聖子千すじの黒髪文春文庫
108駒尺喜美高村光太郎のフェミニズム朝日文庫
109城山三郎雄気堂々新潮文庫
110林真理子本を読む女新潮文庫
×
111
若桑みどり女性画家列伝岩波新書
112立花隆青春漂流講談社文庫
113ウィンパーアルプス登攀記講談社学芸文庫

114
池田弥三郎日本故事物語河出文庫
115金田一春彦ことばの歳時記新潮文庫
×
116
准陰生読書こぼればなし岩波新書
117森本哲郎ことばへの旅角川文庫
118
今昔物語集角川文庫

119

平家物語角川文庫

120

能狂言岩波文庫

121

閑吟集岩波文庫

122

[現代語訳]宇津保物語講談社学術文庫

123
井原西鶴西鶴諸国咄岩波文庫

124
鶴屋南北東海道四谷怪談岩波文庫
125
江戸の戯作絵本教養文庫
126興津要(編)古典落語講談社文庫
127なだいなだ江戸狂歌岩波同時代ライブラリー
128芳賀徹與謝蕪村の小さな世界中公文庫


 父親の蔵書だった「日本故事物語」を読み耽ったのは高校生の時だったかな? 「いすかのはしの食い違い」「洞ヶ峠」等々の言葉を知ったり、「のどが鳴る早や死にかかる松右衛門(「のどかなる林にかかる松右衛門」のもじり)、「ながきよの とをのねぶりの みなめざめ なみのりぶねの をとのよきかな」(回文)のような言葉遊びのおもしろさに目覚めたりと、とくに印象に残っている本です。そういえば、「閑吟集」にある「むらあやでこもひよこたま」という歌も載っていたなー。(彼氏を待ち焦がれる女性の歌。逆に読む。)

 116の「一月一話 読書こぼればなし」の淮陰生が中野好夫であることは後に知りました。

 明治時代以降、近代化が進展するにつれて、それまで音読がふつうだった読書が黙読に変わっていったそうです。
 ここにあげた古典作品も、「声に出して読みたい」と言われなくても、声に出して読みたくなる本がそろっています。