ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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韓国の「ピョンシンチュム(病身舞)」のこと等

2013-02-11 19:10:11 | 韓国の文化・芸能・スポーツ関係の情報
 韓国は、日本に比べると「差別語」のハードルがかなり低いようです。いや、この数十年の間に日本でのハードルがどんどん高くなってきた結果差が開いたといった方が正しいでしょう。

 日本の代表的侮蔑語のバカは、幸い禁止語にはなっていません。韓国語では바보(パボ)で、語源については以前記事にしたことがあります。(→コチラ。他の説もたぶんある。)
 しかし、たとえば漫画家カンプルの作品で映画化もされた「バボ」の場合、この言葉は練炭の一酸化炭素中毒で知的障碍者となった主人公の青年のことを示しています。日本だったらこのようなタイトルはまずつけられないでしょう。
 韓国の歌にも「바보같이(パボカッチ)」(バカみたいに)という歌詞がずいぶん多くみうけられます。また2AMは同じ意味の「바보처럼(パボチョロム)」(バカのように)という歌を歌っています。(→コチラ。いい歌ですよ。) アラ、バブルシスターズも同名の歌を歌ってるの?(→コチラ。)

 バボと違って、明らかに障碍者関連の侮蔑語でよく使われている言葉が미친놈(ミッチンノム)=「狂ったヤツ」병신(病身.ピョンシン)です。
 これらは、日本だと当然「禁止語」の部類なんですが・・・。

 「병신」という言葉でネット検索すると、動画・画像等々も含めいろいろヒットしますが、つい先刻「당신의병신도는?」(あなたの病身度は?)というのがあることを知りました。名前をハングル入力してクリックすると「アナタの病身度」が短いコメントつきで%表示されるというものです。
※ヌルボの場合は、「늘보 의 병신도는 85%이며, 장판을 뜯어먹을 수 있을 만한 병신력을 지녔습니다」(病身度85%で、床を齧って食えるほどの病身力を持っています)との判定。あー、そうですか。
 ・・・つまりは、このようにもおもしろ半分で用いられる言葉というわけです。

 いつものように長~い前書きなんですよ、このあたりまでは。
 やっと本論に近づいてきました。

 「病身」といえば「ピョンシンチュム(병신춤)」=病身舞という伝統踊りが韓国にあります。
 ウィキペディアには、次のような説明があります。

 病身舞は、大韓民国慶尚南道密陽に伝わる伝統芸能の一つ。ハンセン病患者、小人、身体障害者、せむしなど、「身体障害者・病人=病身」として表現される。 
 女流演劇家の一人である孔玉振(コン・オクチン、1931~2012年)が、一人舞台で病身舞を演じてから、マスコミを通じて韓国中に知られることとなり、大衆娯楽化した。 日韓併合とともに、集会取締令の対象の一つとして禁止され、日本の敗戦後に復活する。


 またYOU TUBEには→コチラのような病身舞の動画があるのですが、日時・場所等不明で、いわゆる<嫌韓ブログ>のネタのような取り上げ方もされています。上記のウィキの記述も含めて、注意深く扱う必要があると思います。

 ウィキで名前があげられている孔玉振(공옥진.コン・オクチン)いう女性舞踊家(「一人唱舞劇」演者)は、昨年(2012年)7月9日亡くなったことが「朝鮮日報(日本版)」(→コチラ)で報じられました。
 彼女の動画は→コチラで見ることができます。

 2010年「孔玉振が地方無形文化財保持者に指定された」という朝鮮日報の記事を取り上げたブログ記事がありました。(→コチラ) いろんな情報にのっとった記事で参考になりますが、基本的には否定的な観点で書かれ、とくにコメントには<嫌韓の人たち>が集まってきています。

 このように、病身舞について書いたり論じたりしようとすると「微妙な問題」に否応なくゆきあたらざるをえません。
 私ヌルボとしても書き方が難しいところですが、いろんな記事や動画を見て、この病身舞の主な性格・要素についてわかったこと、思ったのは、次のようなことです。

①病者・障碍者のしぐさ等自体の「滑稽さ」をそのまま演じる「おもしろさ」。・・・これはもちろん「差別」に直結します。
②病者・障碍者を登場させて、両班のような支配階級に対するを風刺・批判。・・・だからといって、問題ナシ、とはならないでしょう。
③病者・障碍者自身の苦悩の表現。・・・30年ほど前に孔玉振の舞踊を見た麿赤児が「これぞ舞踏だと思った。人間の暗く捻れた否定的な動作の舞踏だが、限りなく強烈だった」と感想を述べている(→コチラ)は、おそらくその深い表現力に感じてのことでしょう。

 どんな表現が差別なのか? あるいは「差別」の要素を含んだ表現(芸能・文学等)は禁止されるべきか? 等々、この件については難題がいろいろあります。
 また、歴史事実として朝鮮総督府が「なぜ」病身舞を禁止したのか、も調べてみないとわかりません。
 ・・・まあ、それらは「継続課題」(←便利な言葉です)ということで・・・。

 本論に近づいた、と先に書きましたが、この病身舞のことも実は本論そのものではないんですよ。
 しかし、すでにかなりの字数を費やしてしまったので、今回はここまでにしておきます。

[2013年6月8日の追記] その後、津村喬氏による非常に積極的な病身舞肯定論、いや礼賛論を読みました。→コチラ。  
 ここで津村氏は、「病身舞は韓国の繊細にして大胆な文化が生み出した、伝統文化の精髄なのである」と述べるばかりでなく、「病身舞を前近代的で野蛮なもの」のように取り扱うことに対して、「これを禁止した日帝の侵略者と立場を同じくしているのか。ひとを不安にさせ、禁止しなければならないと思わせるほど権力者たちを脅かしたこれを、さらに国際圧力によって葬り去りたいと思っているのか」と厳しく批判しています。
 私ヌルボは、必ずしも全面的にこの主張に与するものではありませんが、病身舞に関心を持つ方にはぜひぜひご一読をおすすめします。


※つづきの記事は<韓国のタルチュム(仮面舞)とハンセン病者のこと>です。

 → <ハンセン病の元患者、歌人・金夏日さんと、舌読と、ハングル点字のこと>

 → <2005年毎日新聞・萩尾信也記者が連載記事「人の証し」で金夏日さんの軌跡を記す>

 → <ハングル点字のしくみを見て思ったこと>

 → <韓国のタルチュム(仮面舞)とハンセン病者のこと>

 → <ハンセン病と韓国文学①>

 → <ハンセン病と韓国文学② 高銀・韓何雲・徐廷柱・・・、韓国の著名詩人とハンセン病のこと>


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2 コメント

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Unknown (日本人)
2013-09-25 17:21:02
この動画を見てると涙が溢れて止まらない、韓国人の心の醜さ、嫌らしさ、悪寒を感じる様な嫌悪感・・・・・・・・・・
やっぱりこの民族は人間のクズだ。
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この動画について (ヌルボ)
2013-09-25 19:35:53
KoreanTrueという人がupしたこの動画ですが、元が何なのか未確認のままです。

私としては、記事に書いたように病身舞について否定的な気持ちは抱きつつも、文化のありよう等々多角的な観点から考えたいと思っています。また韓国内でもこれにいて考えている人たちも相当数いるようです。

また、障碍者差別に憤る人が、そのことをもって韓国人を蔑視したら同じ穴のムジナになってしまうのではないかと・・・。
人を差別する人間は差別されても当然、とは私は考えません。

お怒りはよくわかりますが、感情の爆発は「寸止め」で抑えましょう。
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