ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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[韓国語と韓国文化] 「ドリ」と「スニ」をめぐるいろいろ ④差別語や自嘲の言葉として

2015-10-02 23:52:17 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 → 「ドリ」と「スニ」をめぐるいろいろ ①

 → 「ドリ」と「スニ」をめぐるいろいろ ②

 → 「ドリ」と「スニ」をめぐるいろいろ ③

 「ドリ(돌이)」「スニ(순이)」がテーマなのに、前回の記事ではコンドリ・コンスニのことよりも80年代の<偽装就業者>や孔枝泳のことをたくさん書きすぎてしまいました。で、今回は軌道修正。

 前回少しだけ書いたように、コンドリ(공돌이)コンスニ(공순이)は70~80年代の工場労働者を示す言葉として、また差別的なニュアンスを込めて用いられました。「공」は工場の「工」です。
 そして30年以上経った今。コンドリ・コンスニの語は多少ニュアンスは変わったようです。つまり、工場での機械化が進んだことで労働の質も変わり、現在では専門的な知識・技術を持った人たちが工場で働いているので、とくに劣等感を持ったり差別の対象とされたりといったものではなくなり、<愛称>(?)あるいは<便宜上>(?)として使われる軽い言葉になっているようです。・・・というのは<ナムウィキ>の「コンドリ」の項目(→コチラ)の説明に拠るものですが、「往時(1970~80年代)を経験した年配者は昔の認識のままの人が多いので要注意!」とも記されています。
 また、現在は工学系の学生(理系の高校生を含む)をコンドリ・コンスニと呼ぶこともあるそうです。ただ、工大生同士がこの言葉を使う分にはいいのですが、「他人からそう言われると不愉快」というのもわかるような気がします。※関連でレプトリ(랩돌이)レプスニ(랩순이)という語もあるそうです。「レプ(랩)」laboratory(研究室)の略。研究室通いの理系院生を指す言葉のようですが、一般的な言葉ではなさそう。
 もっと一般的な言葉にはムンドリ(문돌이)があります。こちらは文系の学生のこと。昔からあった言葉ではなく、コンドリが一般化した後にその反対概念としてできた言葉です。コンドリ同様、当初は軽蔑的なニュアンスがあったそうです。(←とくに文系の就職難の時代。)

 以下、コンドリ・コンスニ以外に、時代の変化とともに新しく生まれた「ドリ」「スニ」語を拾ってみました。

ピョンドリ(편돌이)ピョンスニ(편순이)コンビニ(편의점.ピョニジョム.便宜店)のアルバイト店員のこと。週末連続で夜勤とかのきつい勤務もあり、店によってもさはりますが、概して仕事自体は大変ではないとか・・・。しかし最低賃金(時給5580ウォン)さえ支給されないケースもあるようです。

<青年ユニオン(청년유니온)>という青年世代の労働組合にピョンドリ(병돌이)ピョンスニ(병순이)という言葉に関わる記事がありました。(→コチラ)。「병(ピョン)」は「病院(병원)」「病(병)」です。記事の筆者が以前酒の席で、お医者さんを相手に「医師や看護師といったピョンドリやピョンスニ・・・」と言うと、そのお医者さんはすごく怒って「人の命を預かる貴い仕事を蔑む言葉をなんで口にできるんだ!?」と非難されたとのことです。
 筆者にしてみれば、長時間病院でゆとりのない労働をしている、という意味で使った言葉とのことですが、上述のような齟齬があったようです。

韓国で8月から公開されている「危路工団(위로공단)」という映画があります。イム・フンスン監督によるドキュメンタリーで、女性労働者の約40年間の歴史をたどりつつ、現在の彼女たちの置かれている厳しい状況を描いたものです。その中で、ソウル市の120茶山(タサン)コールセンター(120 다산 센터)の担当職員が自分たちのことをコルスニ(콜순이)と言ったそうです。120茶山(タサン)コールセンターは2007年設置されたソウル市の苦情処理担当部署で、120は電話番号、茶山は朝鮮時代後期の実学者・丁若(チョン・ヤギョンの号)です。ところが、その担当職員は市の正規職ではなく、民間委託業者3社からの間接雇用非正規職で、「最低賃金、残業、感情労働の沼」の中で働いているとか・・・。(参考→<レイバーネット>の記事。) つまり、こうした過酷な労働実態がかつてのコンスニと変わらないという意味でコルスニと言っているというわけです。

タンスニ(탕순이)も辞書にない言葉です。この場合の「탕(タン.湯)」とは何のことなのか、私ヌルボ最初はわかりませんでした。いろいろ検索してみると、どうも「증기(蒸気湯)」のことのようです。日本でいうところのソープランド。そこの従業員がタンスニ(탕순이)。つまりはソープ嬢。10年ほど前の記事を見ると、売春で摘発されたとか、また女性専用の蒸気湯が「雨後の竹の子のごとく」増えていて(→コチラ)、男性従業員のことをタンドリ(탕돌이)と呼ぶとかのニュースがありました。また当のタンスニの「タンスニ、タンスニとバカにしないで! タンスニも人間よ!」といった訴えもありました。

チプトリ(집돌이)チプスニ(집순이)「집(チプ)」はもちろん「家」家に籠っている人、つまり「引きこもり」。公式には「은둔형 외톨이(隠遁型一人ぼっち)という言葉があるようですが・・・。

ケムドリ(겜돌이)ケムスニ(겜순이)。これは見ればおよそ見当がつきます。「겜」は「게임(ゲーム)」の縮約語。ゲームにはまってる人・・・でしょう。

パスニ(빠순이)は、カタカナで検索してもそれなりに(1500件くらい)ヒットします。「スターの追っかけ」をしている女性ファンのこと。オッパ(오빠.お兄さん)を追いかけるオッパスニ(오빠순이)が簡略化してできた言葉だそうです。男性の追っかけはパドリ(빠돌이)。なお、→コチラの記事によると昔はバー(바)で働く女性を蔑んで用いた言葉だったそうです。

 上記以外のドリとスニの用例を見てみると、イヌ等のペットの名前はそれなりにあるようですね。
 ようやくこのシリーズも終わり。で、ドリ・スニの意味を一応分類してまとめておきます。
  [1] 伝統的な男性・女性の名前
  [2] 組織・団体や、催しのマスコットの名称
  [3] 低く見られている職業に対する蔑称または自嘲の言葉
  [4] 低賃金・長時間労働を強いられている労働者
  [5] ペット、人形、幼児等の愛称


※自分用のメモ。私ヌルボがスニという名前を記憶に留めた最初は、在日の歌手・李政美(イ・ジョンミ)のカセット「キム・ミンギ(金敏基)を歌う」(1988)に収録されている「川辺で(강변에서)」の歌詞の「우리 순이가 돌아온다(私たちのスニが帰ってくる)」という一節です。
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