ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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[韓国語]オクスス(トウモロコシ)の別称(←ちょっとギモンあり)は?

2015-10-29 18:27:50 | 韓国語あれこれ
 26日韓国文化院で観た「許三観」はなかなかおもしろかったです。監督・主演のハ・ジョンウもがんばってましたが、原作の力が大きかったかも。中国人作家・余華「血を売る男(許三観売血記)」(河出書房新社)です。同作家の「兄弟」(文春文庫)とともにオススメ!の小説です。

 さて、この映画。舞台は公州で、1953年から始まります。下の画像は、冒頭から少し後の、市場でオンナン(ハ・ジウォン)がポップコーンを売っている場面です。
    
 彼女ホ・オンナンの漢字表記は許玉蘭(옥란)ということに思い至るまで、私ヌルボちょっと時間を要しました。なんせ字幕ナシですいすい意味がわかるほどのレベルにはほど遠いので・・・。美人で愛嬌もあってとくに男たちに大人気。その許玉蘭に一目惚れした許三観(허삼관.ホ・サムグァンが彼女の父親に「同じ許氏だから好都合です!」とか言って彼氏のいたオンナンとちゃっかり結婚しちゃうのですが・・・。

 で、問題はこのポップコーンの売り声。字幕では「ポップコーンはいかがですか」でも、팝콘(パプコン)とは言ってないのです。では何と言っているかというと、カンネギと聞こえるのですが・・・。
 しかし、강내기等見当をつけて辞書を引いてもナシ。そういえば、と思い出したのがネコ(고양이)。単語帳等には<コヤンイ>というカタカナ表記がついていますが実際は<コヤギ>と聞こえますよねー。で、正解は강냉이。ゆっくり読めばカンネンイですが、ふつうはやっぱりカンネギと聞こえます。
 <映画「許三観」制作記映像>という動画(→コチラ)等の字幕にもこのハングル表記がありました。
      
 うーむ、ハジォン、とても3*歳とは思えない・・・。おっと、それはそれとして、ポップコーン=강냉이、これにて一件落着・・・とはならないのです。「朝鮮語辞典」等の辞書で<강냉이>を引くと⇒<옥수수(オクスス)となっています。玉蜀黍(トウモロコシ)の音読みで、オクスス茶等々でよく知られている単語ですね。
 一方、강냉이で画像検索した結果は→コチラで、例外のないほどポップコーンばかりです。
 また、統営市(慶尚南道)にお住まいの方のブログ記事(→コチラ)には「韓国語ではオクススですが、こちらの地方では、カンネギといいます」と書かれていました。

 あれこれ探してみた結果、頼りになるのはやっぱり<ナムウィキ>でした。「옥수수」の項目(→コチラ)を見ると、강냉이関係のことがいろいろ記されていました。要点を略述します。

・本来はトウモロコシ(옥수수)と同義だったが、地域差や現代の意味の変化等もあり、完全に同一視はできない。
・강냉이を油で煎った食べ物(ポップコーン)と思っている人がけっこう多いが、実際にはトウモロコシ(옥수수)と同じ。正確には옥수수の方言が강냉이・・・.とはいえ、実際には地域ごとに異なっている。いくつかの地域では옥수수と강냉이を同じように用い(代表的に北部地域と江原道)、ある地域では煎った옥수수のみを강냉이といい、また、ある地域では옥수수の大きさで区分したりもし、またある地域では色で区分したりもする。あるいは옥수수の実を강냉이と規定したりもしている。きっちりと断定することは難しい。
・강냉이という単語により옥수수の伝播過程を説明することができる。강냉이は江南つまり中国の長江流域つまり華南地方から来たという意味。강낭콩(=インゲン豆)、친구따라 강남간다(人にくっついて同じ行動をする)、강남갔던 제비(遠い南へ行っていたツバメ)等と同じ中国の江南地方に由来する言葉である。


 ところで、元に戻って1953年の公州でポップコーンを「강냉이 사세요(カンネギ サセヨ~)」と売っていたのは、はたして1953年だからか、公州だからか、あるいは今でもフツーの言葉なのか?

 日本でのポップコーンの歴史はというと、終戦後アメリカの進駐軍が日本に入ってきて以来で、韓国でも同様でしょう。しかし市場で小さな紙袋で売っていたのはそんなハイカラ(?)なものでもなし・・・。で、これまた<ナムウィキ>で「팝콘」の項目(→">コチラ)を見てみると、次のような記述があります。

 厳密に言えば、강냉이 뻥튀기(カンネギのポン菓子)のようなものもポップコーン(팝콘)と系譜が同じである。穀物に高い熱と圧力を加えてポンと煎る原理はほぼ同じである。爆裂種特有の殻のため特に強い圧力容器がなくても作ることができ、トウモロコシ(옥수수)の品種が違うので煎った食感が違い、表面に付いた調味料が違うだけである。

 そういえば、映画の中でも下の画像(これは釜山の40階段にある造形物)のようなポン菓子製造器が登場していました。
 これでお米だけでなくトウモロコシのポン菓子を作っていたのですね。 <ウィキペディア>(→">コチラ)によると、20世紀初めアメリカで発明されたお米のポン菓子が大正時代頃から日本に入り、その後日本が統治していた台湾、朝鮮半島、中国東北部にも持ち込まれて広まったとのことです。つまり、この映画のカンネギはその系譜というわけです。
 ・・・ということで、やっと一件落着、かな?

 ※韓国語でポン菓子は뻥튀기(ポントィギ)。直訳すると<ポン煎り>。やっぱり、その音からの命名です。
 
 ※「강냉이」と表示されている、駄菓子っぽいポップコーンの袋。