ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

①韓国文学②韓国漫画③韓国のメディア観察④韓国語いろいろ⑤韓国映画⑥韓国の歴史・社会⑦韓国・朝鮮関係の本⑧韓国旅行の記録

講演会「北朝鮮の現状」に行ってきました。

2010-11-22 21:04:30 | 北朝鮮のもろもろ
 20日(土)横浜YWCAのホールで開かれたアムネスティ主催の講演会「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の現状)」に行ってきました。講師はアジアプレスの石丸次郎氏です。
 4月9日の明治大学での講演会の時は、帰還者2人、日本に残った家族等4人のゲストがいて、その人たちの話がメインでした。しかし今回は石丸氏の外には、少年時代北朝鮮に渡り数年前脱北して46年ぶりに日本戻ってきた在日の方1人だけ。その李さんも質問に答える形で話をされたので、その分石丸氏自身の経験や見解を語る時間が多かったといえます。

 石丸氏は、最初に、なぜ北朝鮮報道に関わるようになったかを中心に自己紹介。1980年代に2年間半韓国に語学留学。その後1993年に中朝国境地帯を歩き、脱北者の話を聞いてショックを受けたことが以後の活動の契機になったとか。それまでは「自主・自立」の道を歩む北朝鮮という国にはむしろシンパシーを持っていただけに、その実態に触れたショックは大きかったそうです。
 以来17年間取材を続けてきて痛感したこと、というか結論なんですが、それは「北朝鮮社会の内部を伝えることは、外国人ジャーナリストでは無理!」ということ。
 北朝鮮当局は、ジャーナリストはなかなか入国させてくれないし、どうしても越えられない壁があるというわけです。そして北朝鮮住民とコンタクトをとって、その内部から情報を送ってもらう形で「リムジンガン」を創刊するに至ります。

 会場の聴衆は50人あまり。「この中で北朝鮮に行ったことがある人は?」との石丸氏の問いに挙手したのは私ヌルボともうお一方。私ヌルボは以前このブログ2009年8月30日の記事等に記したように1991年。もう1人の方は数年前、例のマスゲーム観覧のアリラン祭観光で。ヌルボは9日間で30万円近く、アリラン祭観光の方は5泊6日で27万円だったとか。
※アリラン祭の動画は →コチラたぶんマスゲーム見物の場合もヌルボの時と同様に現地住民とはほとんど接触する機会のない、北当局が見せたい所以外は時間が余っても見せないツアーだったと思います。

 少し前、ある雑誌に「北朝鮮で取材の自由がないのは日本人だから」とか、「北朝鮮に対する偏向報道のたれ流しはやめて、市民のふつうの生活をもっと伝えろ」というような意味の記事を見ましたが、伝えようにも取材の自由もないこと自体に問題があるわけだし、かりに市民にカメラやマイクを向けることができたとしても、住民が自由に個人的意見を述べることからして不可能な社会であるということは、多くの証言から明らかではありませんか。

 ※関川夏央は「世界とはいやなものである」という本の中で、94年4月「何よりも市民同士の関係を正常化することが大切だ」と新聞でコメントを出した小田実に言及して次のように記しています。
 北朝鮮に「市民」がいるという幻想は、北朝鮮を近代国民国家だと見るところから生まれる。北朝鮮には普通のひとびとはあまたいても「市民」はいない。そこは普通のひとびとが異常な体制下に生きている世界である。

 さて、北朝鮮の現在の状況についての石丸氏の話ですが、冒頭から「私にもわからないことだらけ」と前置きしながら、およそ次のようなことを語りました。

 北朝鮮という国に対して、日本人のあいだに大きな誤解がある。たとえば、
①「北朝鮮の人々は、洗脳されたロボットのような存在である。」
②「すべてのことは金正日が決定し、指令する。」
③「北朝鮮社会は停滞したままで、変化に乏しい。」

 ・・・これらはすべて誤解です。

 ①に対して石丸氏は、「たとえば朝鮮国営放送のTV等で流される住民の発言を聞くと、皆金正日体制支持と思ってしまうが、本当に支持している人は10%いくかどうか・・・。大半の人々は変化を求めている」という。一糸乱れぬ行進をしている兵士も、その2割ほどは慢性的に飢えているとか。
 ③については「とくにこの15年の間に(中国以上ともいえる)大変化があった」。つまり「市場経済の蔓延です。」
 1990年代、多くの住民が餓死して以降、発展していった市場経済すなわち闇市の発展は人々の意識をも変えた。配給も滞る国や党を人々はもうあてにしなくなり、また政府のコントロールも効かなくなっているということです。人々が「統一を望んでいる」のは、そうするとこの社会も変わるだろうという期待で、統一でなければ戦争を望むというのも、とにかく変わってほしいという願望がそれほど強いということです。

 この後、8月17日にテレビ朝日「報道ステーション」で放映された「北朝鮮デノミ崩壊」と題したDVD映像を観ました。
 いちばん印象に残ったのは、雑草を集めている女の子の映像。小学校児童に義務付けているウサギ飼育のための雑草だそうですが、たくさん集めてもパン1個の値段にもとどかないとか・・・。テロップを見て驚いたのは、黒くすすけた顔の女の子と思った彼女がじつは23歳とのこと。デノミの影響で現金収入の途を絶たれた両親が餓死。そしてコッチェビ(浮浪児)になってしまったとのことです。(石丸氏の説明によると、この撮影時(6月)からほどなく、彼女の死体が発見されたそうです。)
 また、闇市や路上で住民が保衛員(警察官)に大声で食ってかかっている場面もありました。これも以前では考えられなかったことでしょう。
 市場では食料や日用品に限らず、不動産の闇市場もあることは、「リムジンガン」の記事にもありましたが、労働市場というものまであるそうです。
 住民の願いは、もはや配給よりも、商売をやらせてほしいということだそうで、ヌルボが思うに、ようやく封建時代の末期に達して近代の曙光がちらっと見えてきたかな、という感じでしょうか。

※12月14日の付記
 上記の23歳の女子コッチェビの画像がありましたので載せておきます。

  

 日本に46年ぶりに帰還した李さんの話等については別記事にします。→コチラ

 ※「報道ステーション」で放映された「北朝鮮デノミ崩壊」については、<aoi blog>というブログに、ナレーターの音声や住民の声の字幕等をすべて文字化した記事があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする