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民主主義科学者協会(略称、「民科」)

2015-05-31 | 歴史学研究会と歴史科学協議会
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2015年 5月31日(日)07時34分6秒

昨日は「松尾尊兌氏に聞く」のインタビュアー、川西秀哉・秋元せき氏について少し悪口めいたことを書いてしまいましたが、読み直したら、まあ、学者相手のオーラル・ヒストリーというのはこんなものかな、という感じもしてきました。
海千山千の政治家・役人・新聞人・経済人などを相手にインタビューを重ねてきた伊藤隆氏あたりと比べると迫力の違いは否めませんが、もともと学者に波瀾万丈の人生がある訳ではなく、インタビュー技術を駆使して真実を追い詰めて行く必要もないですからね。
特に高齢の人が対象の場合、やたらと刺激して興奮のあまりポックリ逝かれでもしたら大変ですから、ほのぼの対談に終始したとはいえ、記録を残してくれただけで充分感謝すべきなのかもしれません。

さて、松尾氏は「民科」と共産党に大きな違いがあるように言っていますが、これは一般的な評価とは相当ズレますね。
この当時の共産党は革命政党ですから、戦略的に中身は共産党だけど表面だけ別の色を塗った団体をいくつも抱えており、「民科」はその代表ですね。
林健太郎氏の『昭和史と私』(文藝春秋、1992)から少し引用してみます。(p193以下)

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 戦後に簇出した多くの雑誌では必ずしもすべて左翼思想が支配的だったわけではないが、社会主義や共産主義に反対する言論というものはなかった。これまで逼塞していたり仮面を被っていた共産主義者がそれらの雑誌で一斉に活躍し始めたのはいうまでもない。そしてこのような復活した共産主義思想家の組織として戦後まもなくつくられたものが、「民主主義科学者協会」(略称「民科」)である。私も「逼塞していたマルクス主義者」であったことはたしかであったから、誰に誘われたかは覚えていないが、早速この会のメンバーになった。しかしこれもその日時ははっきりしないけれども、創立後まもなく、御茶ノ水駅近くにあったある立派な邸宅の庭園で開かれたこの会の会合に出た私は、どうもそれに魅力を感ずることができなかった。それはどうしてかということは今正確に説明できないが、そこにはかつて「プロレタリア科学」「歴史科学」「唯物論研究」などの雑誌で名を知った錚々たる人たちが顔を並べていたにもかかわらず、私はその後この会の通知が来てもそれに出席しようという気が起こらず、また出席しなかったのである。

 この「民主主義科学者協会」が共産党のはっきりした意図によってつくられたものであることは疑いない。それはこれが、「プロレタリア」とか「社会主義」とかを名乗らず「民主主義」と称したように、広い共同戦線の形成を狙っていることは明らかであったが、それでもかつての講座派と労農派との対立がここでははっきりと継承されていたことからもわかる。というのは、ここでは天野貞祐のような自由主義者がメンバーに加えられていたのに対し、山川均とか向坂逸郎というような労農派の人物は厳に排除されていた。これは文学の方で、「新日本文学会」という幅広い名称の組織をつくりながら、旧「文芸戦線」の人々が排除されていたのと相通ずるものがある。
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この後、林氏は自身が共産党嫌いになった直接のきっかけである「歴研クーデター」について語り、それはそれで面白いのですが、長くなりすぎるので省略します。
終戦直後は大きな組織だった「民科」は、その後、政治的混乱の中で各部会の大半は解体され、今でもそれなりの勢力として残っているのは歴史部会と法律部会くらいですね。

民主主義科学者協会
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%91%E4%B8%BB%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E7%A7%91%E5%AD%A6%E8%80%85%E5%8D%94%E4%BC%9A

「民科」歴史部会の全国的な組織は消滅してしまいましたが、京都支部が「京都民科歴史部会」と改称して存続し、「歴史科学協議会の地域組織として同協議会に常任委員・全国委員を派遣し、その活動を支えてい」るそうですね。

京都民科歴史部会
http://kyomin.info/

どうでもいいことですが、「京都民科歴史部会」サイトは全体的にあまり趣味が良いとはいえず、特に色使いがブキミですね。
歴史科学協議会の11ある地域組織のうち、慰安婦声明に参加したのは3つだけで京都は不参加ですが、何故なんですかね。

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