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「十五銃士」になったトッドの家族類型論

2016-11-22 | トッド『家族システムの起源』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年11月22日(火)12時40分57秒

今朝は午前5時59分の地震で目が覚めて、その後、ニュースをこまめに見ていましたが、それほどの被害がなかったようで良かったですね。

>筆綾丸さん
ウィキペディアを見ると麗澤大学教授・黒須里美氏は1962年生まれ、京都大学教授・落合恵美子氏は1958年生まれで、黒須氏は速水融氏の直弟子、落合氏は国際日本文化研究センターで速水氏と接し、「ユーラシア人口・家族史プロジェクト」などで共同研究をされているようですね。
「黒須里美と落合恵美子による一八七〇年の研究」の謎はまだ解けませんが、あるいは1870年の何らかの史料を利用した研究かな、などと妄想しています。

落合「ユーラシアプロジェクトの達成─歴史人口学と家族史」(PDF)

>ご引用の文にある「ル・プレイ的なもの」とは、おそらくこの人のことで、
>Play=Plaiだから、ウィキにある通り、「プレイ」ではなく「プレ」と発音しますね。

まさにその人ですね。
この掲示板でも以前に話題となりました。

「三銃士であったル=プレの家族類型はいまや四銃士になった」
「souche という言葉」(筆綾丸さん)

筆綾丸さんのご指摘を受けて、『世界の多様性』所収の『第三惑星─家族構造とイデオロギーシステム』では「プレ」だったのに『家族システムの起源』では何故「プレイ」なのかな、と思いましたが、前者の訳者は石崎晴己氏ではなく荻野文隆氏でしたね。
なお、下巻の「訳者解説」には、

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 翻訳には、年来の私の協力者、東松秀雄氏を始め、北垣潔、中野茂、片桐友紀子氏の諸氏にご協力を仰いだ。初稿の分担としては、序説、1、2章は石崎、3、4章は片桐、5、6章は中野、7、8、9、10章は東松、11、12章は北垣となるが、文責は、統轄・推敲に当たった石崎にある。また、訳語などについて、慶應義塾大学名誉教授、速水融氏、筑波大学教授、木下太志氏、青山学院大学教授、鳥居正文氏に、貴重なご教示を戴いた。厚く御礼申し上げる次第である。
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とあります。(p838)
ま、名前は細かな話ですが、重要なのは家族類型の数が増えて非常に精妙になった点です。
私の3月19日の投稿「三銃士であったル=プレの家族類型はいまや四銃士になった」も、トッドの類型論に関しては中途半端な整理だったのですが、石崎氏の「訳者解説」によれば、

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 本書においてトッドは、従来の類型体系(『第三惑星』では、類型の名に値しない「アフリカ・システム」を除いて七つの類型)を一変し、一五類型からなる新たな類型体系を提唱している。『第三惑星』の七類型のうち、アノミー的家族と非対称型共同体家族は、完全に却下され、また共同体家族の外婚制と内婚制の区分は、家族類型としては取り下げられた。ただし、内婚制を含む婚姻システムは、本書の主要な検討課題をなしている。一方、絶対核家族と平等主義核家族の区別は、遺産相続規則の違いから生じるが、この区別は「有益」であるとして保持された(明示的な説明はなされていないが、忖度することはできる)。
 この新たな類型体系は、夫婦という最小単位がどの方向に所属するか(方向性)を示す「父方居住」、「母方居住」、「双処居住」の三つの概念の他、「統合核家族」「一時的同居(もしくは近接居住)を伴う核家族」という新たな概念も組み込んでいる。これは、家族システムの定義におけるトッドの新発見とも言うべき新たな視点ないし分析方法によって掘り起こされた概念である。すなわち、世帯そのものを見ると核家族であるが、親族の複数の核家族と近接して居住していたり、集住していたりするケースがしばしば見受けられる。この場合、世帯そのものだけでなく、それらの世帯の集まりという一段上のレベルにも目を向けないと、重大な見落としをする危険がある。【後略】
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ということで(p833)、<いまや十五銃士になった>訳ですね。

>「父系性と母系制のまことに独特な組み合わせ」
すみませぬ。
これは私の打ち間違いで、原文では「父系制」となっています。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

天命というなら、天を変えてしまえー中国共産党 2016/11/21(月) 17:06:32
小太郎さん
落合恵美子氏は上品そうなおばさまですが、共著の題名にある「The Stem Family」がトッドの「la famille souche」にあたる訳ですね。iPS細胞のsと同じですね。

https://en.wikipedia.org/wiki/Pierre_Guillaume_Fr%C3%A9d%C3%A9ric_le_Play
ご引用の文にある「ル・プレイ的なもの」とは、おそらくこの人のことで、Play=Plaiだから、ウィキにある通り、「プレイ」ではなく「プレ」と発音しますね。
「日本の家族構造の知覚」の「知覚」の原語を確認しなければなりませんが、日本語としては「日本の家族構造の認識」でしょうね。「近代化促進者」は「近代化推進者」、「男性長子相続」は「男系長子相続」、「遺産相続規則」は「遺産相続制」でしょうか。「遺産相続規則」というと、何か具体的な規定があるかのような印象を与えてしまいますが、ここは、共同の観念として制度的なものになっている、ということでしょうから。また、「父系性と母系制のまことに独特な組み合わせ」の「父系性」は「父系制」ですね。
多くの研究者が寄ってたかって念入りに翻訳したはずですが、変なところは残るものですね。

https://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E5%AE%AB%E4%B8%80%E5%8F%B7
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B0%A1%E4%BD%93%E5%AD%97
昨日、テレビではじめて知って驚いたのですが、「天」の簡体字は下の横棒の方が長いのだそうで、中文の天宮を見ると、確かにそうなっています。
歴代皇帝の正統性を保証する概念である天命の「天」の字を改変することは、中国共産党にとっては重大なイデオロギー闘争だったのだろうな、と思いました。簡体字の「天」を使って「天皇」と記すと、なんというか、やや不謹慎な感じがしないでもありません。ただのエクリチュールにすぎないのですが。

http://www.rfi.fr/france/20161121-primaire-droite-fillon-juppe-sarkozy-hollande
私は右の人(ジュペ)が中道・右派の代表になると思っていましたが、どうも左の人(フィヨン)のようですね。下品なサルコジが落ちて、エマニュエル・トッドともども、ひとまず、めでたしめでたし、ですが。俊英マクロン(左派)とフィヨンとルペンおばさん(極右)の三人の戦いになるのだろうな。

付記
昨日の日経読書欄(21面)のベストセラー(新書)で、呉座氏の「応仁の乱」が1位になっていて、すこし驚きました。ちなみに、トッドの「問題は英国ではない、EUなのだ」は3位でした。
コメント
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