学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学を研究しています。

『シャルリとは誰か?』再読

2016-11-18 | トッド『家族システムの起源』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年11月18日(金)11時51分52秒

16日から再開すると言いながらまたまた遅れてしまいましたが、この二日間、エマニュエル・トッドの『シャルリとは誰か?』(文春新書、2016年1月、原著は2015年5月)を読み直していました。
トランプ当選について、トッドは昨日付の朝日新聞記事で、

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「トランプ氏は真実を語った」 エマニュエル・トッド氏

 今年夏、米国に滞在しました。そして10月初め、日本での講演で「トランプ氏とクリントン氏の勝率は半々だ」と言いました。彼の当選を予言したというより、可能性を指摘したわけです。
 歴史家として見るなら、起きたのは当然のことです。ここ15年間、米国人の生活水準が下がり、白人の45歳から54歳の層の死亡率が上がりました。で、白人は有権者の4分の3です。
 自由貿易と移民が、世界中の働き手を競争に放り込み、不平等と停滞をもたらした、と人々は理解し、その二つを問題にする候補を選んだ。有権者は理にかなったふるまいをしたのです。
【中略】
 クリントン氏は、仏週刊紙シャルリー・エブドでのテロ後に「私はシャルリー」と言っていた人たちを思い出させます。自分の社会はすばらしくて、並外れた価値観を持っていると言っていた人たちです。それは現実から完全に遊離した信仰告白にすぎないのです。
 トランプ氏選出で米国と世界は現実に立ち戻ったのです。幻想に浸っているより、現実に戻った方が諸問題の対処は容易です。


と言っていますが、これは後出しジャンケンではなくて、『問題は英国ではない、EUなのだ』(文春新書、2016年9月)でも同じようなことを書いていますね。
私は今年2月に『シャルリとは誰か?』を読んでけっこう難解だなと感じ、至るところに「?」マークをつけていたのですが、トッドに非常に魅力を感じたので、その後、邦訳されているトッドの著作をかなり読み、またライシテを中心にフランス近現代史についても俄か勉強を重ねたところ、『シャルリとは誰か?』の二度目では全ての「?」が解消できました。
もちろんトッドがフランス人読者と共有しているフランスの現代社会・政治の動向そのものに私は疎いため、それらについてのトッドの認識が全て正しいと思ったのではなく、トッドの論理が理解できた、という意味です。
私はトッドほど明晰な頭脳は持っていませんが、信仰心が特にないにも拘らず宗教にやたら関心を抱き、また、共産主義に特に共感しないにも拘らず共産党の歴史、共産主義者の個人史についてやたら熱心に調べていたりしていて、思考の傾向はもともとトッドに近いものがあり、トッドの歴史人口学・家族社会学、特に「人類学的基底」の議論を受け入れる素地はありましたね。
一時的に少しトッドに熱く入れ込みすぎたような感じもあって暫く離れていたのですが、ほどよく頭が冷えてきたので、そろそろ『家族システムの起源』も読もうかなと思っています。

『不均衡という病』
松川浦のエマニュエル・トッド
コメント
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