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佐伯恵達『廃仏毀釈百年』

2016-01-13 | グローバル神道の夢物語
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 1月13日(水)09時03分20秒

松岡正剛氏による佐伯恵達氏『廃仏毀釈百年─虐げられつづけた仏たち─』(鉱脈社、1988)の書評、一読してかなり変だなと思ったのですが、読まずにあれこれ言うのも良くないなと思って同書を確認してみました。
私が入手したのは2003年の改訂版ですが、冒頭の「改訂版発行にあたって」によれば、川口敦己という人が「堅苦しくて読みにくかった拙文を、平易な文体に改め写真図版をかえたりなどして」いるだけで、内容的には初版と変わりないようです。
さて、著者の佐伯恵達(さえき・えたつ)氏は「1924年生まれ 高校・短大講師をへて現在各種学校講師 本願寺輔教、布教使、長昌寺住職」とのことで、宮崎県宮崎市にある浄土真宗のお寺の住職さんですね。
宮崎は廃仏毀釈騒動が特別に激しかった地域の一つなので、私は同県内における廃仏毀釈の経緯について詳細な記述があるものと期待していたのですが、そのような記述は分量的に僅かで、しかも『神仏分離史料』に依拠したものが大半でした。
そして数少ない独自情報は学問的な検証を経ていない噂話程度のものですね。
佐伯氏は学問よりは政治的主張が好きなタイプの人で、初版と同じという「はしがき」から若干引用してみると、

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 わが国の二十世紀を顧みるとき、その大半は戦争の時代であったということができます。維新以来約八十年間はまさしくそれでした。考えようでは、幕藩体制までの大和(だいわ)としての王道楽土は、一朝にして対外侵略の修羅場と化していったのが明治維新であったともいえます。尊皇攘夷をかかげての争乱はけっして維新という一時的な事象ではありませんでした。戊辰・西南の役を嚆矢(はじめ)として、賊軍討伐という旗印のもと官軍を絶対化し、天皇を現人神として立憲し、神々をすべて皇祖神の配下として国家神道を創立しました。ために神社は尊皇攘夷思想の権化となって一世紀を風靡することとなりました。それを決定的ならしめたのが、廃仏毀釈(明治初年、仏教を異端邪説として寺院をこわし、僧侶を迫害したこと)であったのです。
 廃仏毀釈、言いかえれば宗教的クーデターによって国家権力化した巨大な怪物は、大日本帝国の名のもとに世界制覇の野望を夢見て、神がかり的なあらん限りの暴威をふるって他を弾圧し、ちには熾烈をきわめた世界大戦にまで突入していきました。
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といった具合で、これだけ読むと浄土真宗の一寺を預かる住職さんというよりは一昔前のかなり硬直した左翼運動家のような印象を受けますが、最後まで読んでもその印象はあまり変わりません。
一応、全体の構成を紹介すると、

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序章 仏教国の仏教ぎらい
第一章 前史─廃仏毀釈への道
 第一節 仏教と政治─中国の仏教弾圧
 第二節 江戸時代の排仏思想
 第三節 平田神道─王政復古の時代思想をどのように準備したのか
 第四節 幕末の水戸藩
第二章 薩摩の一向宗弾圧と宮崎
 第一節 島津七百年のあらまし
 第二節 一向宗(浄土真宗)弾圧の要因
 第三節 薩摩の一向宗(浄土真宗)弾圧
 第四節 薩摩藩からの脱走
第三章 廃仏毀釈─何が行われたのか(その一)
 第一節 王政復古から神仏分離へ─廃仏毀釈は断行された
 第二節 寺院から神社へ─十例にみる廃仏毀釈
第四章 廃仏毀釈─何が行われたのか(その二) お寺を壊して神社を建てた宮崎県
 第一節 薩摩のあおりを受けて─灰となった一千か寺
 第二節 お寺変じて神社となる
第五章 仏教弾圧と国家神道の百年
 第一節 ぞくぞく神社はつくられた(全国篇)
 第二節 ぞくぞく神社はつくられた(宮崎県篇)
 第三節 仏教弾圧の百年
 第四節 傷あとふかく
仏教徒よ蘇れ─「あとがき」にかえて─
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ということで、分量的にさほど多くない宮崎関係の記述に薩摩への言及が多いことが目立ちます。
他地域に見られない宮崎の廃仏毀釈独特の性格は、一言でいえば薩摩による宮崎県南部への「侵略」ですね。
そもそも浄土真宗は神祇不拝ですから理屈の上では「神仏分離」に全く関係のない宗派のはずですが、そのある種「一神教的」性格の故に権力者からは嫌われることが多く、薩摩では従来から特別に嫌われていて、「神仏分離」がもたらした混乱に乗じて浄土真宗嫌いの薩摩人が宮崎で横暴の限りを尽くした訳ですね。
結論として『廃仏毀釈百年』は学問的には特に価値のない本なので、何故に松岡正剛氏がこのような本を素材にして神仏分離を熱く語るのか、その理由が分かりません。
コメント
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