大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第20回

2013年08月06日 14時34分06秒 | 小説
『みち』 目次

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『みち』 ~未知~  第20回



その時 以前から疑問に思っていたことを ふと思い出し聞いたみた。

「あの、会長と社長って 親子ですか?」 すると森川が

「違うわよ。 会長は創業者で社長は元社員で、えっと・・・社長になって5年くらいになるかしら。 その前は会長が社長だったの。 今の社長は会長が起業した時からの社員だったのよ」 

「あ、そうだったんですか。 親子にしては歳が合わないなと思ってたんです」

「普通なら息子が継ぐんでしょうけど 会長は離婚しているから子供が手元にいないからね。 何度も断る社長を説き伏せて やっと社長になってもらったのよ。 年齢的に仕事をするのに疲れてきたらしくて社長に任せて、言ってみれば隠居状態を選んだのよ。 まっ、私が入社して25年くらいになるかしら。 会長がまともに仕事をしているところなんて見たことないけどね」

「え?」

「殆どの事を昔から社長がしていたのよ」

「どういう意味ですか?」

「当時は平社員だから 普通の仕事は勿論してるんだけど・・・何て言えばいいのかしら。 責任者の仕事って言えばいいのかしら。 何かトラブルがあったりしたら全責任を持って戦ったり謝りに行ったり。 一度裁判沙汰になったこともあったんだけど その時も一から十まで社長がやってたわ。 弁護士との話も、相手との示談の話も。 会長には出来ない事でね、性格的にも知識的にも。 それに裁判沙汰になったのは 会長が相手を怒らせたのが大きな理由なの。 ま、そんなだから会長は社長に頭が上がらないっていう所もあるんだけどね」

「ああ、やっぱり社長って頭がいいんですね」

話は逸れたまま終わってしまったのだが 琴音の中で ヤレナイ という文字は薄れていった様だ。 それに

(あ、今ずっと白いものは見えなかったわ) 見えなかったことに気付いた。


それからは森川を見ると10センチから15センチくらいの幅で白いものが見えたり見えなかったりという日が続いていたのだが ある日、森川だけに納まらず他の社員にまでも見え出した。

「ああ、どうしよう まともに会話が出来ない」 森川に見えるほどはっきりと見えるわけでも無く眩しくも無いのだが 見えること自体に気持ち悪さを覚え始めた。


そんなある日の土曜日、部屋で本を読みながらくつろいでいると 携帯の着メロが鳴った。

「あら? これは後輩の誰かね」 前の職場の後輩達を一まとめにして 皆同じ着メロにしている。 

キッチンのテーブルに置きっぱなしにしていた携帯を見ると

「理香ちゃんだわ」 以前、可愛いメールを送ってきた後輩だ。

「もしもし 理香ちゃん?」

「あ、先輩! 大変なんです!」

「何? どうしたの?」

「課長が亡くなったんです」

「え、何? 何? どういう事?」

「課長が 今日、亡くなっちゃったんです」

「亡くなったって、ちょっと待って落ち着いて」

「・・・はい」

「深呼吸して」

「はい」 素直な理香だ。 携帯の向こうからは 言われたとおり大きく深呼吸をしている息が聞こえる。

「いい? 落ち着いた?」

「はい、ふぅー。 先輩には私が連絡するって言ったら 先輩が気を使うだけだから しない方がいいって言う人も居たりで迷ったんですけど」

「教えてくれて有難う。 知らなかったほうが寂しいわ」

「良かった。 大きなお世話だったらどうしようかと思って」

「そんなことは無いわよ。 それより亡くなったってどうしてなの?」

「朝、奥さんが起こしに行ったら 亡くなっていたらしいんです」

「それって寝ている間にっていう事?」

「そうらしいです。 たしか脳溢血? 違ったかな? みんながそう言ってたと思います」

「じゃあ、闘病があったりとかっていうんじゃないのね」

「それは無かったです。 昨日も来てましたから」

「そうなの・・・。 今、家のほうは大変でしょうね」

「そうだと思います」

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