大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第55回

2017年03月02日 22時10分32秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~Shinoha~  第55回




「なにを・・・」 顔が真っ青になる。 そのトデナミを無視してトデナミにしがみついているトマムを見て言う。

「なぁ、トマム。 俺は今日すごく気分がいいんだ。 だから仲直りしないか?」 子供達の中に居るトマムに話しかけるが、トマムは返事どころか顔も向けてこない。

「なんだよ、無視かよ」 言うと小首をかしげ、周りの子供達をトマムから剥がすように子供達の手を引っ張った。

「さ、お前らちょっとどけや」 トデナミから子供達を引き離そうとする。

「子供達に触るのではありません!」 子供達に手をまわすが5人の子達全員には充分に手をまわしきれない。

「おい」 ファブアが2人の男たちに顎をしゃくって立ち上がった。

男たちは仕方がない、といった感じでそれぞれ、トデナミの手から片手で子供を持ち上げた。

「何をするの!」
トデナミが立ち上がり、男たちから子供を取り返そうとするが、男たちがすぐにもう片方の手で子供を持ち上げた。 2人の男がそれぞれ2人の子供を手にかかえる。 
子供達は何がなんだか分からないようで唖然としている。

「離しなさい!」 トマムはまだトデナミにしがみついている。

「トデナミ、そんなに言わなくても何もしやしないさ。 村の子供なんだぜ?」 トデナミがキッと睨む。

「今は私と居る時です。 子供達を離しなさい」 

その時

「ねぇ、村に連れて行ってくれるの?」 かかえられているナイジャが男に聞いた。

「え? 村に行きたいのか?」 

「うん。 でも、疲れた」 

「なら、このまま連れて行ってやろう。 トデナミ、そういう事だ。 安心しろ」 言うと歩き出したので、もう一人の男もそれに従った。

「ナイジャ! サンノイ!」 

「トデナミ、村に連れて行ってもらうだけだから、心配しないで」 ナイジャの声だけが残った。

トデナミがその姿を目で追っていたが、視線の先をファブアに変え睨みすえた。

「おいおい、それはないだろ? 村の子供をどうにかしようなんて誰も考えるわけないだろう。 何を考えすぎてるんだ?」 両の眉を上げ首を少し傾げる。 

確かに子供達には何もしないであろう。 が、その姿が不気味に感じる。
ファブアがトデナミから視線をはずし、足にしがみついてるトマムを見た。

「さて、トマム。 お前はどうする?」 トデナミの足にひたすら顔を付け、ファブアを見ようとしない。

トデナミがしゃがんでトマムを抱え込む。

「この前殴ったのは悪かったよ。 ちょっと虫の居所が悪くてさ。 仲直りしようじゃないか」 ファブアがトデナミの前にしゃがんでトマムに話しかける。

「ファブア、いい加減にしなさい!」

「え? どういうことだ? たとえ相手が子供とは言え、村の中でしこりがあるのはいいことじゃないだろ? それともトデナミはこのままずっと、俺とトマムがこの状態でいいって言うのか?」

「・・・何を企んでいるの」

「企むだなんて、俺も信用がないなぁ。 何も思っちゃいないさ。 ただ・・・」 話すファブアをトデナミが睨みすえる。

「トマム、よく聞けよ。 お前が素直に俺と話をしないと、俺はトデナミを殴ってでも、お前をトデナミから離して話をする」 トマムの肩がピクリと動いた。

「何を言ってるの!」 トマムが顔を上げトデナミを見た。

ファブアがトマムに言葉を重ねる。

「トデナミを殴ってでも、お前をトデナミから離すんだが、それでもいいか?」 嫌な笑いを口元に浮かべた。

「・・・トデナミ」 トマムの細い声。

「トマム、いいのよ、何も考えないで」 言うとファブアをキッと睨んだ。

「それが大の男のやり方?」 その言葉にファブアが両の眉を上げた。

「やり方? どういうことだよ。 俺はトマムと仲直りをしたいのに、トデナミが邪魔をしてるんだろう? なっ、トマムどう思う?」

トデナミの背中に一筋の嫌なものが走る。 不快という虫が足をなして背中を下から上に這っているような気がする。
トマムが上げていた頭を下げ、トデナミから離れようとトデナミを押した。

「トマム!」 すぐにトデナミがトマムをギュッと抱きしめた。

「・・・トデナミ、離して」

「そうだよな。 男同士の話し合いってヤツがあるよな。 それに安心しろ。 今日は気分がいいんだ。 それなのに俺だってトデナミを殴りたくない。 そうだ、お前も村に行きたいだろ? 一緒に行こうぜ。 歩き疲れたんなら抱っこしてやるしさ。 その間に仲良くなろうぜ」 

言葉を重ねられたトマムが、それを聞いていたかどうかは分からない。 が、

「・・・トデナミ、トデナミが殴られたらイヤ。 だから離して」

「トマム・・・」 

殴られてでもトマムを離したくない。 トマムがどれだけファブアを恐がっているのか、さっきの様子で充分に分かっていた。 でも、もしここで自分が殴られたら、一生トマムの傷になるかもしれない。 ナイジャが馬を恐がった時、年下のトマムがナイジャを守った。 「トマム、男だもん」 と言って。 その心を折るかもしれない。 それに、ファブアの言うとおり、村の子供をどうにかするはずはない。
抱きしめている手の力を緩めた。 ゆっくりとトマムが顔を上げ、そっとトデナミから離れた。

「そうだ、トマム。 こっちにこいよ」 トマムが向きをかえると、すぐ目の前でファブアが手を出している。

「村に行くか?」 頷く。

「抱っこしてやろうか?」 首を振る。

「歩くのか?」 頷く。

「じゃ、行こう」 手を繋げと差し出すが、それを無視して歩き出した。

「けっ、それで仲直りなんて出来ないじゃないか」 ワザとらしく言うと、トデナミをチラッと見て立ち上がった。

「トマムに何かするわけじゃない。 村に連れて行くだけだ。 安心しろ」 トデナミは目を合わせない。

「ふっ、それじゃあな」 まだしゃがんでいるトデナミを見下ろし、片方の口の端を上げた。

しゃがんだまま黙って森を出て行く二人の後姿を見送ると一人きりになった。
気が抜けて尻餅をついてしまった。 膝を立てたままその膝に顔をうずめ、地についていた両の手で膝を抱いた。

(ファブア・・・いったい何を考えているの・・・) 膝の中で目を瞑り、上がっていた肩を降ろす。

(疲れた・・・) 日頃出さない大きな声を出し、張っていた気が肉体さえも疲れさせた。

頭の中がジンジンする。 
何もしたくない。 
何も考えたくない。
膝にうずめた目は明かりをとらず、暗い瞼の裏さえ見えなくなるような気がする。
どれだけの時をこの状態でいたのか分からない。

(・・・誰もいない・・・一人っきり・・・このままじゃ、またシノハさんを怒らせてしまう・・・) 瞼さえも重く感じながら、膝の中でゆっくりと目を開けた。

(・・・森の奥に帰らなくちゃ)
膝から顔を上げゆるりと立ち上がった。 が、頭の中がグラグラと揺れ、目の前が真暗になってしまい、また座り込んでしまった。 両の手で目と額を押さえる。

(あれくらいで、情けない・・・) 
座り込んだ身体が横に揺れる。 身体がいう事を聞かない。 揺れる身体を支えようと、前屈みになって片手を地についたが、まだ身体が揺れる。 思わず横座りの状態になって片手でその身体を支えると、やっと身体の揺れが止まった。 頭の中の揺れはまだ続いている。
無理はしないでおこう。 頭の中の揺れが収まるのを待っていよう。 

(焦ってもまた同じことになるかもしれない・・・)
暫くすると頭の揺れがおさまった。 

(良かった・・・もう少ししたら立てるかもしれない)

そう思っていると、走ってくる蹄の音が聞こえた。 
そして蹄の音が横で止まった。

「どうした?」 その声が誰のものかすぐに分かった。

(ドンダダ・・・) 馬から下りた気配がする。

「何でもないわ」 片手はまだ額を押さえている。

(覚られないように、自然にしなくちゃ)

「なんでもなくないだろう。 大丈夫か?」
トデナミがゆっくりと立ち上がった。 その顔が青白い。

「おい、顔色が悪い。 馬に乗れ、連れて行ってやるから」

「大丈夫よ。 ドンダダはどうしたの? 村にいなくていいの?」 衣に付いた砂を払う仕草で、目を合わせないようにした。

「ああ、コイツが逃げ出してきたみたいで森に繋ぎにいくんだ」

「そう、私は大丈夫よ。 早く馬を繋ぎに行って。 村でみんなが待っているんでしょう?」 目を逸らす。

「・・・トデナミ」

「早く行って」

「そんなに顔色が悪いのに置いていけるかっ!」

「大丈夫だって言ってるでしょ。 それより村のことが何よりも先決です。 用を終わらせて早く村に帰りなさい」 

青白かった顔色にほんの少し赤みが蘇ってきた。 ただそれは良い意味ではない。 今の心の状態で声を出すことに血が上ってきただけであった。 いずれはそれも一気に下がり、今以上に立てない状態になるだろう。

「顔色が良くなってきている。 少しは具合が良くなったのか?」

「だから、私は大丈夫だって言ってるでしょ。 それより、自分のやらなければならないことをしなさい」

「ああ、分かってる」

「それなら、早く馬を走らせなさい」

「・・・その前に・・・俺の話を聞いてほしい」

「何を言ってるの。 今は話などする時ではありません。 早く馬を繋いで村に帰りなさい」

「僅かな時だ」

「その時すらも惜しい―――」 抱きしめられた。

「なにを! ドンダダ離しなさい!」 突っぱねようと押すが、ドンダダの身体はびくともしない。

「離さない。 どうして俺を見てくれない」

「離しなさい!」 今度は抱きしめられている手を剥がそうとする。 が、指一本も剥がせられない。

「俺が何を言いたいか、分かっているだろう?」

「私は“才ある者”! 知っているでしょう! 私に触れるのではありません! 天に背く様な事をしてはなりません!」 大きな声を出してまた頭の中がクラクラしだして、力が抜ける。 力が入らない。

「トデナミ・・・我の子を産んでくれ」

「なにを・・・」 力なく言い返した。


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