大福 りす の 隠れ家

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ハラカルラ 第60回

2024年05月06日 20時25分55秒 | 小説
『ハラカルラ 目次


『ハラカルラ』 第1回から第50回までの目次は以下の 『ハラカルラ』リンクページ からお願いいたします。


     『ハラカルラ』 リンクページ




                                  



ハラカルラ    第60回




「おう、お疲れ」

水無瀬をアパートまで送った稲也と茸一郎が村に戻ってきた。

「どんなだった?」

声をかけてきたライにファミレスで耳にしてきたことを話す。

「白門小僧たちは最初こそ警戒してたけどな、その内にイイ感じになってきた雰囲気あり」

「水無瀬君の “当然を実行に移そう” ってのが響いたのかもな」

「それとその前に言ってた、小僧たちは特別なことを言ってない、当然なことを言ってるだけってのに溜飲が下がった思いだったんだろうな」

「そうか。 白門の在り方からすると自分たちがそう考えてしまうことに、落ち着かなさを感じてたのかもしれないな」

「そうかもな。 ライには俺らから言っておくって水無瀬君に言ってあるから連絡はないはずだ。 取り敢えず長に報告してくる」

「ああ、さんきゅ」


稲也達にアパートに車で送ってもらった水無瀬がゴロリと寝ころび考える。
今日から朱門が白門の見張りに付くはず。 もう見張りを始めてから二十日を越しているということになる。 一か月そこら見張られていても白門はどうともないだろうが、朱門黒門にとっては大きく時間を割かれていることになる。
白門の高校生‘Sからの連絡を待つしかないと分かってはいるが、数か月ということは避けたい。 だからと言ってせっつくわけにもいかない。 何か他に動きようがないだろうか。

「ああそうだ、先生が出してくれたのに目を通さなきゃ」

そんな気にはなれないが、それでも目を通さなければ。 雄哉おススメでは家庭が持てないらしいし、教授が出してきたのは雄哉が出してきたものよりランクアップをしている。 細かいところまで読み込まなければ。

翌日、教授の元に向かった。 昨日読み込んでみて “ここなら” というところが見つかり、卒業生の意見などを含めて詳しく話を聞くためであった。

そして翌々日、アパートに戻って来て一週間が経つ。 そろそろ朱門の村に戻ろうか、それなら一度雄哉に声をかけてからと思いスマホを手にしたときラインの着信音が鳴った。
見てみると『いっちー』と表示されている。

「一ノ瀬君だ」

タップをしラインの画面を開く。
『父の弟です』と始まり住所と名前、連絡先が書かれてあり、今でも兄弟で連絡は取り合っているが、弟の方は村に足を運んでいなく、父以外とは連絡を取っていない様子だと書かれていた。
住所を地図アプリで調べると白門の村のある市の隣の市であった。 乗り換えがあるが今日にでも電車で行けなくはない、そう思った時に気づいた。

「ああ、仕事中じゃん」

どんな仕事をしているかまでは書かれていなかったが、自営業であれば時間を問わず会えるだろうが、サラリーマンであるならばご出勤タイムである。
一ノ瀬に返信を入れ取り敢えず夜まで待つことにし、今度は雄哉にラインで連絡を入れる。

『そろそろ朱門に戻ろうと思う。 そっちはどうだ? 上手くいってるか?』

いつもならすぐに返事が返ってくるのに既読さえつかない。 まだ授業の始まる時間ではないのに。

(雄哉に・・・なにかあったのか?)

いや、雄哉には朱門の誰かが付いているはず。 だがそれでも気になる。

『雄哉、どうした』 『おい、返事をくれ』 『今電車に乗ってる時間だろ』 『雄哉!』
全く既読が付かない。 ライに連絡していま雄哉に付いている誰かに連絡を取ってもらって、などと考えているときに一気に既読が付いた。

「あ・・・」

途端、電話が鳴った。 雄哉からである。 すぐに通話をタップする。

『もしもーし、水無ちゃん。 ちょっとは俺の気持ちが分かったか。 それにもう電車は降りてる』

「雄、哉」

『言っとくが俺はもっと長い間心配してたんだからな。 何日も!』

まだ根に持っていたようである。

「悪かったって。 雄哉の気持ちがよくわかったよ」

『で? そろそろ戻るのか?』

大学までの道を歩いているのだろう、バックに聞きなれた音がする。

「一週間ハラカルラに行ってないからな、獅子まで作ってもらったのにこれ以上放っておくのもなって」

『そっかー、俺は当分無理っぽい』

「いや、いいよ。 あっちのことは気にしなくていい。 雄哉はいま雄哉がしなければならないことをして。 三笠木教授も気にしてたぞ」

『ああ、就職室で会ったんだってな』

「雄哉、自分のパンフを探す時間もないらしいな、それなのに俺のパンフを探してくれて」

『わぁー、先生要らないことを言って』

「とにかくまたいつでも連絡をくれ」

『OK、水無ちゃんの声聞いたらパワーが出た。 水無ちゃんトリオンで今日も一日頑張るわ』

だからそれは何なんだ。

一昨日、稲也達に送ってもらったばかりだというのに、今日迎えに来てくれというのは悪いと思いながらもライに連絡を入れると「気にすんな」という返事が返ってきて、夕方になりライ自らが迎えに来た。 二人だけで車に乗るのは初めてである。 それにライと言えば車ではなくバイクのイメージなのだが、後ろにはナギしか乗せたくないのかもしれない。 要らないことは聞かないでおこうと一ノ瀬からのラインの話をした。

「脈ありっぽいな」

水無瀬もそう思う。 それに村を出ているのだからそれなりに話してくれそうな気がする。

「白門の隣の市ってことは・・・。 とにかく今連絡入れてみて」

「え? 今?」

「営業とかだったら出るだろし、会社内でも最近は私用の電話はよくしてるっぽいからな」

「そうなのか?」

「ドラマだけどな」

ドラマ・・・真実はどうなのだろうか。
出ても出なくてもいいという気で電話をかけてみる。 三コール、四コール、五コール目が終わった時。

『どちら様でしょうか』

出ても出なくてもとは思っていたが、まさか本当に出るとは思ってもいなかった。 営業なのだろうか、それともドラマの話は現実の話につながっているのか、はたまた自営業か。

「突然申し訳ありません、水無瀬と申しますが一ノ瀬さんの携帯で間違い無いでしょうか」

『・・・はい』

渋めの声が水無瀬を誰だと疑っているように間が置かれた。

「守り人、と言えば分かっていただけますでしょうか」

『え・・・』

「少しお話を伺いたいのですが、ご都合のいいお時間はありませんか?」

『お電話で?』

この訊き方は話すということを了承したということ。 それに “お電話” と言った。 会社勤めの可能性が高い。

「どちらでも。 ですが出来ればお互いの目を見て話すのが一番かと」

ほんの少しの機微も見逃したくない。
今はまだ勤務中ということで、夜にアポイントを取り付け通話を切った。

「ナビ設定してくれる?」

このまま待ち合わせ場所まで乗せてくれるようである。 車のナビを設定する。
待ち合わせ場所に着くまでに一本のラインが入ってきた。 『GO2』 と示されている。 “後藤” から “ゴトー” そこから “ゴトゥー” をもじったと聞いている。

「後藤君だ」

こちらは母方の歳の離れた従姉らしく、母方も白門の出だという。

「従姉ってことは女性だから結婚して村を出たとしても、まぁ不思議ではないな」

ライの言うとおりである。 だが先ほどのサラリーマン一ノ瀬は堅い印象があった。 それは声が渋いからそう思っただけなのかもしれないが、もし声だけではなく本人も堅ければ何かを訊きだすに容易ではない。 そう思うとこちらの女性の方が訊きやすいかもしれない。 あくまでも白門の在り方をどう理解しているかで違ってくるが。
こちらも名前と住所、連絡先が書かれている。 地図アプリで場所を検索する。

「ん?」

「どした?」

市こそ違うが、サラリーマン一ノ瀬の自宅最寄駅から後藤従姉の自宅最寄駅は三つ離れているだけであった。

「お互い市の端っこに居るってことか。 ってか、その辺りが元白門のコロニーだったりしてな」

そんな美味しい話は簡単に転がっていないだろうが、後藤から見て歳の離れたということは、この二人の年齢はある程度近いのかもしれない。 どこかで偶然会って話していても可笑しくはない。 ただ村を出た理由でそれも左右されるが。

サラリーマン一ノ瀬の自宅最寄り駅である待ち合わせ付近に着いたものの、一ノ瀬との待ち合わせにはまだ二時間ある。 一旦ファミレスに入って時間をつぶしてから待ち合わせの喫茶店に向かった。 ライは水無瀬に遅れること二分で「いらっしゃいませ」という声に招かれ店内に入ったが、水無瀬一人が入り口の見える席に座っている。 それは一ノ瀬はまだ来ていないということ。 水無瀬の後ろのテーブルにつき、背中を合わせるようにして座る。

「いらっしゃいませ」

ライの席に水が運ばれてきた。

「アイスココアとミックスサンド」

(だからなんでだよっ!)

背中に聞こえる声に突っ込みたくなる。
水無瀬の前に「お待たせしました」とコーヒーが置かれ、そのウエイトレスが二、三歩歩いた時に同じ声で「いらっしゃいませ」と聞こえた。
入り口を見てみると、スーツを着た四十を越えているだろう男性が店内に目を這わせている。 高校生一ノ瀬の年齢からしてその叔父にあたる年齢である。
水無瀬が立ち上がるとスーツ男が水無瀬を見止め近寄ってきた。

「水無瀬君?」

身体はがっちりとしていて身長もそこそこある。 元ラガーマンと言われても納得できるような体格である。

「はい、水無瀬鳴海と申します。 ご足労有難うございます」

一ノ瀬がコーヒーを注文すると席に座った。

「一ノ瀬潤璃(じゅんり)です」

フルネームは高校生一ノ瀬である誠からのラインで知っていたが、渋系の声でその名を聞かされると何とも可愛いらしい名前に聞こえる。 だが水無瀬がフルネームを言わなければ一ノ瀬も下の名前を名乗らなかったはず、それを思うと打てば響いてくれる可能性が無きにしも非ず。

「守り人というのは?」

声は殺している。
やはり門のある村の出だけあって守り人というフレーズは気になるようだ。

「僕のことです。 いま表面(おもてめん)はどこの門にも属していなくフリーの状態ですが、実際には朱門のお世話になっています」

社会人相手であるのだからというところもあり、お堅そうな相手でもある。 一人称を変えている。

「表面って。 それにフリーの守り人なんて聞いたことがない」

「はい、烏にもいろいろ言われていますが、烏もそこのところは理解してくれています」

「烏が・・・」

「僕には色々と降りかかったことがありまして。 今日は白門のことでお伺いしたいことがあります」

「・・・」

口を閉ざされた。 このまま噤まれてしまうだろうか。

「水無瀬君はどうして私の携帯番号を知っていたのかい?」

話を逸らされてしまった。 だがこのことは聞かれるだろうとは思っていた。 親戚付き合いもあるだろうから、誠のことは言わないでおきたかったが、潤璃には誤魔化しが利かなさそうである。 避けては通れないようだが誤魔化す以外の手がなくはない。

「ご本人に名前を出す許可をもらっていませんので、そこはご容赦願えませんか?」

こういう時は正直に言った方がいい。

「お待たせしました」

ウエイトレスが潤璃の前にコーヒーを置く。

「義理堅いようだ」

その返事は正直に言ったことをどう受け止めたということなのだろうか。 頭が回らないと判断したのか、一種の誉め言葉なのか。
潤璃は水無瀬が話した後、二呼吸ほど間を置いてから口を開いている。 それはまだ信用されていないということ。
置かれたコーヒーに手を伸ばしカップに唇を付ける。 唇からカップが離されるのを待ってから水無瀬が話し出す。

「僕はつい先日まで白門の村に拘束されていました」

一ノ瀬の目が水無瀬を見てカップをソーサーに置いた。 その視線はチラリと手元を見た以外は外されていない。

「この意味お分かりになりますよね。 僕は水見さんとは血縁でも何でもありませんが、下手に見込まれたようです」

そこで白門が何をしようとしているのかを知り、白門から逃げ出したと説明をした。 そして間違いなく自分には水見並み、又はそれ以上の力があることを最近になり烏から聞いたと話す。
潤璃とて村の出身である、水見の話は知っている。

「最近?」

「はい、さっき申し上げましたが色々降りかかったことがあったというのは、白門に拘束される前は黒門に拘束されていました。 ですから烏に会ったのはその前のほんの数回でしたので、そんな話もしていませんでした。 まずあっちの世界も守り人というのも知らなかったくらいでしたから」

「信じられないな・・・」

そんな人間が水見並み、又はそれ以上とは。

「あ、何よりも信じていただくのが最初ですので、白門のどなたかについ最近まで水無瀬という守り人が拘束されていたかどうかの確認をしていただければ」

潤璃が水無瀬を止めるように軽く手を振る。

「そういう意味じゃなくて。 いや、悪い。 水無瀬君を疑って言ったわけじゃない」

水無瀬にそこまで力があるのかと驚いたことが言葉に出てしまっただけだと言い、名前こそ聞いていなかったが、つい最近まで白門が守り人を拘束していたという話は聞いていたと言う。 それも黒門から奪ってきたらしいと。
目の前にいる水無瀬という青年が言っていることは、潤璃が兄から耳にしたことと同じで疑う余地はないが、それだけでこの青年の話に口を開いていいことにはならない。

「それで? 私に何を訊きたいと?」

第一関門が突破出来た様である。 下手な小細工は無しでこのまま波に乗る。

「率直にお伺いします。 一ノ瀬さんはどうして村を出られたんですか?」

潤璃がほんの僅かに首をひねる。 意外な質問だったということだろうか。

「それを聞いてどうするつもりなのかな?」

「隠し立てなしで申し上げると、僕は白門のしていることを止めたいと思っています。 いや、思っているということだけで止まりたくはないのでこうして動いています」

だが門には門の在り方があり、白門の守り人でもなければフリー状態である水無瀬が一方的に押し付けることは出来ない。 白門の村の中の人々がどう考えているのかは拘束されている間に聞かされたが、村を出た人間が村の考え、門の在り方をどう考えているのかを教えてほしいと続けた。

「察するに・・・私の携帯番号を教えたのは兄かな?」

“察するに” 今の水無瀬の話から察するにということになる。 潤璃の携帯番号を教えたということは高校生の浅知恵とは違い、潤璃とのパイプ役を請け負ったということになる。 それは潤璃の兄であり誠の父でもある、潤璃と同じ考えの持ち主ということが濃厚だと考えられる。

「いいえ、違います」

「それは義理堅さからかな?」」

嘘を言っているのだろう、という言葉が隠されている。

「本当です。 一ノ瀬さんのお兄さんとは、拘束されている間にお会いしたこともないはずです。 僕に接触してきたのは大学生若しくは大学院生でしたから」

「その誰かから聞いたと?」

なかなか話を進ませてもらえない。

「いいえ、それも違いますが、一ノ瀬さんにとってそれが重要ですか? そうでしたら今すぐ名前を出していいかどうかを問い合わせますが」

わざと “問い合わせる” という言葉を使った。 “訊いてみる” と言ってしまっては、同年代若しくは年下が色濃く含まれることになってしまうからである。
潤璃が先程と同じように軽く手を振る。 だが今回は笑みが含まれている。

「いや、悪かったね。 その必要はない」

リラックスしたかのような仕草でカップを手にし一口含むと続けて言う。

「水無瀬君の口の堅さは分かったよ」

決して水無瀬の口の堅さだけを計っていたのではないだろうが、ある程度の信用は置かれたということだろう。
カップをソーサーに戻して続ける。

「私が村を出た理由は・・・」

水無瀬も知っているだろう白門のしていることに賛同できないからだと言う。 だからと言って声を上げることすらなく村を後にしたことは、今の水無瀬を見ていて情けないことだったと続けた。

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