大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第56回

2017年03月06日 22時51分27秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~Shinoha~  第56回




抱きしめられるその手をはねのけたい。 だが、力が入らない。

(・・・シノハ・・・タスケテ) 力なくの抵抗を試みるが、どれも簡単に抑えられる。
トデナミの目に映るすべてがぼやけてきた。

(どうして・・・) 我が身が思い通りに動かない。

「・・・トデナミ、我の女房になれ」 ドンダダの言う言葉が遠くに聞こえる。

そのドンダダの耳に突然何かが走ってくる音が聞こえた。 トデナミとのことしか頭になかった故、すぐ近くまでやってくるまでその音に気付かなかった。

「トデナミを離せ!」

(・・・シノハ・・サン・・・) トデナミの耳に鮮明にシノハの声が聞こえた。 
残っている僅かな力を腕に込めて、ドンダダを押しやった。


少し前

「オイ、ガガンリ。 子供達を遊んでやるなら村の奥へ行けといってるだろう」 ファブアが言う。

「何でだよ。 奥に入ると丸太があったりして危ないじゃないか」 ガガンリが、眉をひそめる。

「理由なんてお前が知る必要はない。 何でもいいんだよ。 とにかく子供達をつれて奥へ行け」 言うとその場を去った。

その時、シノハとタイリンそしてジャンムが、石洗いと水汲みが終わって村の前を通った。 すると、今日はトデナミと一緒にいるはずの子供達が、村の入り口でガガンリと一緒に遊んでいるではないか。 それに気付いたのがジャンムだった。

「あれ? どうしてサンノイ達がいるんだ?」 両手には汲んできた水の入った筒を抱えている。

「どうした?」 ラワンの手綱を引きながらシノハが尋ねた。

「うん、今日はサンノイ達がトデナミさんと一緒にいるはずなんだけど、あそこにサンノイ達が居るから、トデナミさんも村に来てるのかなぁ?」

「え?!」 顔色を変えたシノハがすぐにラワンに下げていた水の入った筒や石の入った筒、椀や編みかごを下ろしながらタイリンを見た。

「タイリン! トデナミが来ているかどうか聞いてきてくれ! 急いで!」

あまりの剣幕にタイリンが驚いて、両手に抱えていた水の筒をその場に置くと村の入り口まで走って行った。 タイリンがサンノイに駆け寄ると、トデナミは一人で森の中にいるという事だった。 タイリンの血の気が引いた。 すぐにシノハの元に走りながら、大声でトデナミが一人で森の中にいる事を告げた。

「くそっ! ジャンム、あとを頼む!」 ラワンから下げていた物をその場に残し、ラワンを走らせた。

タイリンの大声にファブアが気付いて、まだ村の入り口に居るガガンリの横に走ってきた。

「チッ、またあいつか・・・失敗か」 ラワンに乗って走り去るシノハを見て小声で言う。

「失敗?」 ガガンリが何のことかと尋ねる。

「何でもない・・・って、お前のせいだよ! だから子供達を奥へ連れて行けって言っただろ!」 ガガンリを睨んで怒鳴り散らす。

「なんだよ、いったい何を言いたいんだよ。 分けが分からない」 首を振ってみせた。

「くそっ!」 言うと、また村の中に歩き出した。


森に入る前、噂がファブアの耳に聞こえた。 シノハがトデナミを探していると。 そして、その噂を聞いたカンジャンがトデナミの元に向ったと。
もしかしてその噂をカンジャンがトデナミに言ったら、トデナミが森を抜けてくるかもしれないと思った。 だから策を練った。 どうやってドンダダを森に向わせようかと。 すると馬が1頭逃げ出してきたと声が聞こえた。 これを使わない手はない。 

森を見張っていると案の定、トデナミが現れた。 トデナミを一人にして村に帰るとすぐに、ドンダダには逃げ出してきた馬を森に繋いでもらうように仕向けた。 

いつもならドンダダの周りには人が居て誰彼となく「それなら俺が連れて行く」 という話になるが、ここ最近はドンダダの周りにあまり人が居ない。 その上、今日はたまたま一人で立っていた。 まぁ、一人で居なくとも「お前じゃ馬を走らせるのが遅いんだよ」 とでも言うつもりであった。 

それに万が一にも、またシノハに邪魔されないように、今日はトデナミと一緒にいるはずの子供達を、見つからない所においておこうと思っていたのに、ガガンリが目立つ所で子供を遊ばせてしまった。

ファブアにしてみればシノハとのやり合いで、ドンダダから呆れたような言葉を吐かれた。 それを埋めたかった。 トデナミとのことを自分がお膳立てすれば、シノハとのやり合いでドンダダが吐いた言葉が埋まると思った。 いや、それでも余りあると思っていたのに、ガガンリが要らない事をしてくれた。

「くそっ! したくもない子供の相手までしたって言うのに!」 言葉を吐いて辺りにあるものを蹴散らした。


シノハがラワンに乗って走り出す様子を見ていたタイリンが踵を返し、タム婆とザワミドの元に走り事を告げた。 驚いたタム婆とザワミド。 

「ザワミド! すぐに行け!」

ザワミドがすぐに走り出し、タイリンもその後についた。 
タム婆が二人の姿を見送ると、すぐに地と風に祈りを捧げた。

二人が走り出すのを見ていた数人の女たちが顔を見合わせると、何があったのかは分からないが、取り敢えず大変な事なんだろうと、その女たちも後を追って走り出した。 

「あれ? タイリン?」 ジャンムの横をタイリンとザワミドが走り抜けていく。

タイリンは足を止めてジャンムに説明する間もない。 ただ、ザワミドの後を追っている。

その後すぐに誰が言ったのか「今日は進まない。 終わりにして森に帰らないか?」 と言う話になり、残った者も森に向かおうとした時、先頭を歩く男にジャンムの姿が目に入った。
一人取り残されたジャンム。

「俺一人でこんなに沢山、どう持ったらいいんだよ」 一人眉根を寄せて頭を捻っている姿があった。

「おい、ジャンム。 何やってんだ?」

「うん・・・。 シノハさんがこの荷物を置いてっちゃった。 俺一人で持てない」

「ああ、そんな事ならみんなで持って行ってやるよ」

「え? もう森に帰るの?」 見てみると男たちも女たちもゾロゾロと歩いている。

「ああ、今日はもうやめようって・・・あれ? 誰が言い出したんだ?」 横に立つ男に聞くが、目を丸めて首を振る。

「まっ、とにかく持ってくれるんならそれでいいや。 シノハさんが慌ててラワンに乗って行ったから、完全に置いてきぼりだもん」 

後ろから歩いて来たジャンムのその言葉を耳にした、シノハに教えを乞うている男たち。

「え? シノハさんが? それってどういうことだよ?」

「わかんない。 でも・・・森にトデナミさんが居るのかな?」 後ろから歩いてきた女たちが、ジャンムの言葉を聞いて目を合わせた。

「ちょっと、ジャンム! トデナミさんが一人で森に居るの?!」

「え? だって、今日一緒に居るサンノイたちが村に居るんだもん。 トデナミさんは一人だろ?」

その言葉に女たちが周りを見た。 ドンダダが居ない、まだ村の奥に居るのか? それにしても確かにサンノイたちは居る。 その中でサンノイの母親が声を荒げる。

「サンノイ! あんたトデナミさんを置いてきたのかい!?」 大声で言われたサンノイが驚いて目を見張った。

「どうなんだい!?」 こわごわコクリと頷いた。

「あれだけ! あれだけ言っといたのに!」

「今はそんな事を言ってる場合じゃないわ!」 女が走り出した。

他の女もそれに続く。 が、男たちは何のことだか分からない。

「どうする?」 男たちが目を合わせた。

「放っとけないよな」 言うと互いに頷き男たちも走り出す。

「え? あ、おい! 荷物を持ってくれるんじゃないのかよー!」 が、誰一人としてその言葉に振り返らなかった。

また一人取り残された。 厳密に言うと、まだファブア達がノロノロと歩いて来てはいるが、ファブアとは話す気もない。
ファブアが横目で見ながらジャンムの横を通った。 それを無視するかのように、何とかして一人でどうにかしようと、筒や椀を一箇所に寄せだした。

「せいぜい一人で頑張りな」 嘲るような言葉を背中越しに言う。 ジャンムがその背中を睨みすえる。 

(ファブアのバカヤロー!!) 心の中で叫んだが、すぐ自己嫌悪に陥った。

(これが父さんならすぐにファブアをとっ捕まえて、拳を顔に入れてるんだろうな。 俺にはまだその勇気がない・・・もっともっと、シノハさんに教えてもらわなければ駄目だ) ファブアの背中を見えなくなるまで睨みすえると、向きをかえ腰に手をやり、さてどうしたものかと考える。

「仕方ない。 少しずつでいいから運ぶしかないか・・・」 ふぅ、と息を吐いて、遠くに見える目の先を見た。 向こうの方で青い砂煙が上がっているのが見える。

「あれ? なんだ?」 目を凝らすがまだまだ随分と遠くだ。 砂煙しか見えない。 じっと見ているとその砂煙の前に馬が見えた。 

「馬? 迷い馬?」 よく見る。

「違う・・・誰か乗ってる」 更にじっと見ていると、確かにこちらに襲歩(しゅうほ)で向ってくるではないか。

「え? なんで? 誰が今のトンデンに来るっていうの?」 

今では充分目に見える。 3頭であり、馬それそぞれにしっかりと人が乗っている。 

「すごい・・・すごい。 俺もあんな風に馬に乗ってみたい・・・」 ジャンムの目には、馬に乗る三人の姿が雄雄しく、いやそれだけではない、勇烈にも凛々しくも見える。

最初は目を瞠っていたが、その内その姿に酔ったようにボォーっと見ているた。 するとその馬たちはすぐ目の前にやってきた。

「え?」

馬上の男は手綱を引いてジャンムの横に付いた。 他の2頭はその後ろについている。

「トンデン村の者か?」 馬上からジャンムを見下ろす。

「あ・・・」


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