大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第107回

2017年08月31日 22時22分41秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~ Shou ~  第107回




渉が磐座の前に姿を現すと慌てて奏和が隠れた。

(そんなに長い間居なくなっているわけじゃないのか・・・。 それにいつも磐座の方を向いている。 やっぱり磐座が関係あるのか?) 

磐座に一つ礼をして振り返ると、手の中の何かを嬉しそうにずっと見ている。

(なんだ? それに昨日と全然様子が違う)

手の中にある何かを握りしめ胸に当てると、小さな流れを一跨ぎして帰って行った。

木の影から渉を見送った奏和がもう一度磐座の前に歩み寄り辺りを見た。

「やっぱり何もないよな・・・。 いったいどうなってんだ」 首を捻ると腕を組んだ。


奏和が山から下りると丁度宮司と鉢合わせたが、抜かりなくゴミ袋を肩から下げている。 適当にかき集めた枯れ葉を入れていた。

「枯れ葉が沢山落ちてました」 白々しく言う。

「そうか。 ご苦労だったな」 

心の中でペロッと舌を出す。

「そうだ、親父。 磐座だけど、下の方の」

「ああ、渉ちゃんが気に入っている磐座か?」

「あれって何かあるの?」

「あれなどという言い方をするな。 何かってなんだ?」

「えっと・・・上の磐座と違って何か特別な力を持ってるとか? 以前に何か思いもしないことがあったとか?」

「特別な? それってなんだ? それに思いもしない事ってどんなことだ?」

(そうか、親父は何も知らないのか・・・)

「あ、いいや。 そうだ、社務所にある宮司日誌を見ていい?」

「ああ・・・べつに構わんが。 いったい何だ?」 今まで神社のことなど顧みなかった奏和からは想像もできない唐突な言葉に一瞬訝しんだが、冷静に答えた。

「うん、ちょっとね。 じゃ、今日は宮司日誌を見るからこれから社務所に居ます」 言うと、枯れ葉が入ったゴミ袋をゴミ置き場に持っていくとすぐに社務所に入った。

「寒っ!」 

急いでストーブに火をつけた。 すぐに火はまわらないが、徐々に火がまわりストーブに当てる指先を暖める。 ジンジンと痺れていた指先が温まってくると、ぎっしり詰まった本棚を見上げる。 本棚には歴代の宮司日誌が並べられている。

「いつから見ればいいんだ?」 ズラリと並んでいる宮司日誌。

「親父は何も知らないみたいだったし、それに思いもしなかったこともなかったようだから・・・」 ストーブにあてていた指を握りしめ、立ち上がり腕を組むと、今度は正面から本棚に並ぶ日誌を見る。

「綺麗に片付いてるな・・・翔か」 今まではこんなことに気付かなかった。 翔が本棚もその周りも片づけていて、きちんと整理されている。

「日誌・・・。 ん? これはなんだ?」 手に取るとそれは本殿や拝殿、境内内などが撮られた写真集になっていた。 何枚もの写真の貼られたページをめくる。

「すっげ。 って、全体的に撮るだけでいいだろうよ」 細かいところまでアップで撮られていた。

「へぇー、山の中まで撮ってんだ。 へっ? 磐座のアップって・・・何考えて撮ったんだよ」 山の中を撮った写真の最後に、磐座の写真が何枚もあった。

「ふーん、この代は写真で残してることが多いんだな」 ふと考える。 デジタルの現代と違ってどれだけ写真代がかかったのだろうかと。

「・・・ん? これは?」 写真集をポンと下に置き、目についた冊子を手に取ると墨で境内が書かれていた。

「うわー。 歴代、どんだけマメなの」 写真を残している代もあれば、こうして墨で境内を書いている代がありと、奏和には考えられないマメさであった。

目についたものを次から次に手にとっては見てみる。


「あ、こんな事をしてる場合じゃない。 日誌。 取り敢えず、親父の代は外すか」 奏和の父親である現宮司の前である先代宮司の日誌を手に取った。

年月を遡って何冊も日誌を読み続けた。

「くっそ、何もない!」 読んでいた日誌を投げ捨て次の日誌へ手を出した時、社務所の戸が開いた。

「奏和、居るの?」 カケルの声だ

「翔か? 居るぞ」 硝子戸をあけて中から顔を出すと、戸口に立っているカケルが目に入った。

「境内を歩いて大丈夫だったのか?」

「うん。 居なかったと思う」 カメラマンの事だ。

「思うって・・・まぁ、順也から連絡がないから大丈夫だとは思うけど。 でも、自分の車で来てることもあり得るからな」 『わ』 ナンバーの車だと限らないと言ったのだが、何故かカケルが笑う。

「かなり用心してきたから。 それより、お腹空いてないの?」

「え?」

「朝も食べに帰ってこなかったじゃない? それにもうお昼なんだけど?」

「え? うっそ! もうそんな時間になってたのか?」 スマホで時間を見ようとポケットを探った。

「あ? あれ?」 我が身のアチコチをパンパンと探る。 その奏和にカケルが笑いながらスマホを見せた。

「忘れてるから。 部屋にあった」 カケルの手の中にあるのは奏和のスマホだった。

「あ・・・全然気づかなかった」 スマホを受け取ると、着信がなかったかを見た。

「大丈夫だな」 順也からの連絡が無かったことを確認する。

スマホをポケットに入れるとカケルを見た。 が、さっきまで柔和な顔だったのに、何故かカケルが鬼の形相になっている。

「しょ・・・翔?」

「奏和・・・」 社務所の中を見渡している。

「どうした?」

「よくもこれだけ散らかしてくれたわね!」 社務所の中は奏和が入ってきた時とは全く違う状態になっていた。


台所では翼と渉が目を合わせ昼ご飯を食べている。 
渉はシノハから貰ったジョウビキのことを思うと嬉しくて、少しだが食欲こそないが、何とか食べることが出来ていた。

「ね、渉ちゃんどうなってるの?」 翼が隣に座る渉に小声で言う。

「わかんない」 こちらも小声で答える。

二人が向かいに座るカケルと奏和を右に左に見る。

「完全に奏ちゃんがやられてる感じよね」

「うん」

その時、ドン! と奏和の前にお茶が置かれた。

「あ。 ども。 有難うございます」

「ヒェー、渉ちゃん。 完全に姉ちゃんが怒ってる」 その翼の声をカケルが聞いた。

「翼! なに!?」 カケルに睨まれる。

「あ、あはは。 なんでもない」 翼の返事を聞くと腕を組んで流しにもたれた。

「翼君、早く食べよ」 渉が言ったものの、渉の茶碗の中のご飯は簡単に減らない。 

チラッと翼を見た。 翼は茶碗を置いて味噌汁を手に持っている。 そして目は隠れながらカケルを見ている。 渉が自分の茶碗の中のご飯をボトンと翼の茶碗の中に入れた。

「渉! なにやってんだ!」 奏和が言う。

「・・・あ」

「翼もボケーっとしてんじゃないよ!」 

「へ?」

「奏和、ウルサイ! さっさと食べなさいよ! こっちは帰るまでに社務所の片付けが残ってるんだから!」

「はい・・・。 すみません」 奏和が箸を動かした。

「ごちそうさまー」 奏和にペロッと舌を出すと、渉が席を立ち茶碗と湯呑を持って流しに立った。

渉の立つ姿を見て翼が茶碗を見た。

「あ、え? 俺、まだこんなにご飯残してたっけ?」 首を傾げると茶碗に入っていたご飯を口にかき入れた。


カケルが社務所内の片付けを済ませると、奏和が三人を駅まで送る為に車に乗り込んだ。

「奏兄ちゃんはまだ神社にいるの?」 助手席の翼が聞く。

「ああ、ちょっと探し物があってな。 それが見つかるまではな」 その言葉に後部座席に座るカケルが睨みつける視線をルームミラーに送ってきた。

「ちゃ、ちゃんと片付けますから、散らけませんから・・・はい」

“片付け” という言葉を聞いて何となく気付いた翼。

「なっ、奏兄ちゃん。 俺が早く神社に姉ちゃんを引き取って欲しいって言う意味分かるだろ?」 助手席から翼が奏和にだけ聞こえるように小声で言う。

「分かりたかないけど、よく分かった」 こちらも小声で答える。

「奏和」 カケルの冷たい声が車内に響いた。

「はいっ!」

「ちょっと、何よそのビビリ方。 失礼な」

「あ・・・。 なんだよ」 上がった肩を落として年上然とする。

「学校はどうなってるの?」

「・・・行ってるよ」

「バンドは?」

「まぁ・・・な」

「なにそれ?」

「色々あるんだよ」

「プッ、母親と息子の会話じゃん」 二人の会話を聞いていた翼がクックと笑いながら言うと、奏和が翼の頭を叩いた。


三人を駅まで送り家に帰ってきた奏和は、その後も社務所に入り込んで、夜になっても社務所から家に帰ってこない。

「お父さん、奏和どうしちゃったのかしら」 宮司から奏和が社務所に入り込んで宮司日誌を見ているようだと聞いてはいたが、こんな時間になっても家に帰って来なければ、今まで神社のことを顧みなかった奏和だけに当然気になる。 

「さぁ、分からん。 でも、神社に興味を持ったのならそれでいいのかもな。 帰ってくるまで呼びに行かんでもいいからな」 雅子の心配をよそに宮司が答えるが、どれだけ年齢を重ねようとも、母親から見ればいつまで経っても息子は息子。 心配は尽きない

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