大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第63回

2017年03月30日 22時50分29秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~Shinoha~  第63回




「それはいつの話だ?」 クジャムがカンジャンに、それはそれは恐い顔を向けて聞く。 途端、カンジャンが震え上がった。

「クジャム、もっと優しく聞けないのかよ。 でないと話が進まないだろうが」 溜息をつきながらサラニンがクジャムに言い、そしてカンジャンを見遣るとカンジャンにも言う。

「お前ももう15の歳を終わってるんだろ? 恐い顔にビビってないでちゃんと答えな」 言うと最後には両の口の端を上げて話を促す。

「はい・・・トデナミと話したのは、えっと、シノハさんとドンダダが戦う前です。 どれくらい前になるかなぁ・・・多分、俺がここでトデナミと話して、ここを出てからすぐにトデナミもここを出たと思います。 で、そのあと俺が村に帰って、そんなに時が経たない内に、シノハさんとドンダダのことがあったんです」

「・・・何故だ」 シノハが片方の拳を口に当て眉根を寄せ考える。 

あの時、トデナミの元にラワンと共に行ったとき、確かにドンダダは居た。 だが、ドンダダが計画的に居たような感じではなかった。 

(・・・ファブアが何かしたのか?)
カンジャンの言葉にシノハは考え込み出したが、サラニンとバランガは目を見合わせた。

「なぁ、今みたいにハッキリとは聞いてないけど、誰かが何かを話してたってことが他になかったか?」 サラニンが三人に問うた。

「あ、さっきまで皆と話してたんですけど、誰が言ったか分からないってことがありました」

「それは?」

「カンジャンも森から村に帰ってきててその後です。 まだ森に帰る時じゃないのに、誰が言い出したのかは分からないんですけど、今日はもう終わって森に帰ろうってことになってみんなで村を出たんです」

「で? 早く村を出て何かあったか?」

「はい、ドンダダとシノハさんの闘いを見ました」

「ふーん・・・」 サラニンが半眼にして顎に手をやる。

「他に最近いつもと違ったことはないか?」 バランガが問う。

「えっと・・・」 三人が困ったように目を合わす。

「言えないことか?」 

「シノハさん・・・言っていいんですか?」 問われ、シノハが首を振る。 村長が闇の中で村の者に殴られたなんて他の村の者にいう事ではない。

「それじゃ、仕方ないな。 まぁ、無理には聞かないさ」

「バランガ、すみません」 シノハが謝る。

「ああ、気にするな。 だが言っておく。 クジャムも言ったが、お前が戦わなかったということは、お前の考えが浅いのではない。 お前は色んな事を考えすぎだ。 今まで我が村で教えた者はすぐに我が村の思いを受け取り、その身を守っている。 だが、お前は固すぎる。 だから色んな事を考えてしまうんだ」

バランガの言葉に何もいう事が出来ない。 そう言えば、トンデンの村長にも言われた 「お前はカタイのう」と。
(これは我の欠点か・・・)


タム婆の小屋の向かいにある、今は誰も使っていないと言われていた小屋にゴンドュー村の三人とシノハ、タイリンが居る。 トデナミが用意をしたのだ。
クジャムは「我らは暑くとも寒くとも野営を当たり前にする故、小屋は要らぬ」 と言ったが、外で話をすると声が響き、誰の耳に届くか分からない。
トデナミが用意してくれた小屋を有り難く使った。


先ほどまでの焚き火の明かりがなく、小屋の中は薄暗く幾つもの油皿の上で灯りが小さく揺れている。

「ヤツに槍を投げて渡したヤツがいただろう。 あの時どこから槍を持ってきたか考えたか?」 片眉を上げ、横目でシノハを見ながらクジャムが言う。

「え?」 思いもしなかった事を問われ考える。 

「そうですよね。 おかしいですよね。 いつもあんな所に槍なんて置いてないし、ファブアだって皆だってずっと見てたんだもの。 森か村まで取りに帰ってないはず」 言うと首を傾げるタイリン。

クジャムにハッキリとした口調で話すタイリンを見てシノハが少し驚いた。 いや、今はその事を考えるときではない、とクジャムの問いに頭を巡らせる。 暫くの間シノハの様子を見ていたクジャム。 サラニンとバランガがニヤリとしてその様子を見ている。

「ふっ、シノハ、お前がいくら考えても分からんさ」 イヤな笑いを浮かべたクジャムが言葉を続ける。

「何かを考えるっていうのはな、考えて何かを思いつくってことは、自分にその考えがあるからだ。 分かるか?」 シノハが首を傾げる。

「お前がどれだけ考えようが、お前の思い当たらない、考えもしない事に対してはどれだけ考えても答えは出ないって事だ。 小賢(こざか)しいことが頭にないってことだ。 お前には小細工が考えられないってことだよ。 だからこの事をどれだけ考えても分からん。 それに、我に言われるまで何故、あの時槍が飛んできたのかも考えなかっただろう」

「はい、確かに。 槍がどこからなどと、全く考えませんでした」

「我が村に来ているくせにいつまで経っても甘いなぁ」 バランガの言葉に苦笑いを送りクジャムが言う。

「我が見たのは森に入る前だ。 森にはいる前、森の中を歩く男を見た・・・とは言っても森の木々に隠れながらだ。 その手に槍の穂先が見えた。 言っておくがあの時、槍を投げたヤツとは違う男だ」

「え?」 シノハとタイリンが同時に言った。

「なんだ、そんなに早くから見てたのか?」 サラニンが言う。

「ああ、お前たちには俺が邪魔で見えなかっただろうな。 ついでにお前たちが見たことも言ってやれ」

「ああ」 と言うと、サラニンが見た事を話した。 二人が戦っている時に、口の端がほころんでいた者がいた事を。

「え!? あの時にですか!? シノハさんのことが心配で俺たちは見てたし、ドンダダの仲間もドンダダが心配で見てたのに、いったい誰が? あ、もしかしてシノハさんが手を出さなかったから、ドンダダが勝つって思って余裕で笑ってたとかじゃないんですか?」 タイリンがサラニンをみて言った。

「あの時は拳で戦っていた時だ。 シノハが手を出していないとは言え、誰もがヤツが押されていたことはヤツの焦りから簡単に見て取れたさ。 だから槍を投げたんだろう。 それに誰、と言われてもなぁ。 まだ村人の名も知らんからなぁ」 とぼけて答える。

「待ってください。 それが誰であっても何故? 今までこの村を見てきました。 まだ全てがわかったわけではありませんが、ファブアは自分一人でドンダダから信用を得る事をしようと思っているはずです。 人が用意したものを利用する事はないはずです」 サラニンとタイリンの話を聞いてシノハが言う。

「そこが甘いってんだよ」 バランガがすかさず言った。

「どういう事ですか?」

「そのファブアってヤローは、槍を用意しました使ってください。 そんな事を言われて使うヤツじゃないんだろ? でもそこに槍が転がっていたらどうだ?」

「え? ・・・でも、それも不自然に思うんじゃないですか?」

「誰かが、なんでこんな所に槍があるんだ? って言ったらどうだ?」 バランガの言葉にサラニンが言葉を足した。

「その辺に転がっているってのは考えにくいよな。 でも、ほんの近くに誰かが忘れたように置かれていたらどうだ? それを切羽詰ったときに言うんじゃなくて、その前に言ったらどうだ? こんな所に誰かが槍を置き忘れている。 なんて聞こえよがしに言ったら、その言葉が頭の中に残っているだろう。 そして切羽詰った時に聞いた者はそれを思い出す」

「あ・・・」 混乱しかけた頭の中を整理するが、どうしても整理しきれない。 シノハの頭の中が清廉潔白すぎるから。

「えっと・・・情けないですけどワケが分かりません。 その男はファブアに槍があるって事を教えたんですよね。 それでファブアがドンダダに槍を投げた。 あの時、もし我が槍で突かれていても、ファブアはドンダダにどうやって槍を手に入れたかなんて言いません。 それは村の者も分かっている事です。 わざわざ隠れるように用意までして、その男にどんな利があるんですか?」

ブゥワハハー! バランガが笑った。 クジャムがバランガに笑うことを先取りされ鼻を鳴らす。 サラニンは静かに口元に笑みをこぼしたが、すぐにバランガに問うた。

「お前、何を知ってんだよ」

「くくく・・・、タイリンが色々と教えてくれたからな」 名を出されタイリンが目を丸くした。

「え? 俺? 俺ですか?」

「ああ、馬に乗りながら話をしただろ?」 

「え? でも、特に何も話しませんでしたよ」 言うタイリンを見たバランガの目が口元が、どことなく怖い。 

そしてタイリンが教えたという事を、さっきのトンデンの三人が話したことと関連付けてバランガが話しだした。

「一に、村に内紛が起きている」

「え!? 俺そんな事言ってません!」

「タイリン、お前が言わなくてもおまえの言葉の端々と、さっきの三人の話から俺にはそうだと分かるんだ」 言うとタイリンに言葉を挟むなと言ったいった顔を送り話を進めた。

「一に、誰が言い始めたか分からない事が多々ある」 ここでサラニンが片方の口の端を上げた。

「一に、ドンダダってヤロウが長を闇討ちしたって噂が流れている」 言い終えたバランガの不気味な笑で言葉が終わった。

「赤子のような手だな」 鼻であしらうようにサラニンが言う。

「え? 待ってください。 タイリンその話は本当か? ドンダダがやったって噂が流れてるのか?」

「はい。 だから最近ドンダダの周りに人があまり居ないんです。 でも、俺バランガさんに闇討ちされたのが長だって言ってません」 上目遣いにチラッとバランガを見た。 

見られたバランガは両の眉を上げタイリンのその目を見て言う。

「だから言っただろ? お前が全部言わなくても分かるんだ。 って」 そして言葉を続けた。

「我が見るに、一人の誰かがトデナミとドンダダってヤロウを会わせた。 噂を流したり、誰に言うでもなくどこかで聞こえるようにして、話を流して身を潜めているヤツだからな。 シノハの話からすると、多分ファブアってヤロウを上手く使ったんだろう。 
そしてそこにシノハを行かせるように仕向け戦わせた。  シノハが勝つとドンダダってヤロウが大きな顔が出来なくなる。 ドンダダが勝っても、既に撒いてある種が芽を出してきているから、村人からの信用が薄くなってきている。 それに、シノハを行かせることが出来なくなってても、それはそれで利があるんだろう。 小賢しいやつの考えることだ」 

最後の言葉にシノハの顔が青ざめた。

「はっ、その後にそいつが村長にでも納まろうとしてるのか」 サラニンの言葉に青ざめたシノハの頭の中が真っ白になりかけた。

「多分な」 バランガが言うと、クジャムが顎に手をやり眉根を寄せ、誰に聞くとはなく言った。

「だが・・・トデナミとドンダダってヤツを会わせた、っていうのはどういう事だ? そこにシノハを行かせる? それが戦いになるとはいったいどういう事だ?」


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