大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

--- 映ゆ ---  第64回

2017年04月03日 22時11分08秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



『---映ゆ---』 第1回から第60回までの目次は以下の 『---映ゆ---』リンクページからお願いいたします。

   『---映ゆ---』リンクページ







                                             



- 映ゆ -  ~Shinoha~  第64回




「タイリンとシノハの言葉、それとさっきの三人の話からの憶測だ。 詳しくタイリンから聞いたわけじゃない。 それにそんなことはシノハが知っているだろうから今考えるに値しないだろう」 

「まぁそうだが、トデナミと言われれば気になる」 クジャムの言葉にシノハの頭が覚醒を戻した。

まさしくつい先ほどクジャムが言ったことを思い出す。
『何かを考えるっていうのはな、考えて何かを思いつくってことは、自分にその考えがあるからだ。 分かるか?』 という言葉を。
今のクジャムには “才ある者” を我がものにするなどと考えられない事であるから、今はその考えに及ばないかもしれないが、万が一にも事実を知ればクジャムがどれだけ暴れるかを考えると、シノハの総身の毛が逆立つ。 いや、もしかしたらそれだけでは済まないかもしれない。 暴れるだけ暴れ、トデナミを抱えどこかに消え去るかもしれない。 それにクジャムだけとは限らない。 サラニンにもバランガにもその可能性がある。

「クジャムそのことは、この村のことですから・・・」 どうやって濁そうかと思っても濁しきれず、そんな言葉しか出なかった。

「では、シノハは何故アイツに拳を向けられた? それはこの村の者ではないお前の話だ。 この村とは関係がないだろう」 問われシノハが思わず苦渋な顔を下に向けた。

シノハが何も言わない事にクジャムの表情が硬くなっていくのを見て、仕方がないといった具合にサラニンが助け舟を出した。

「いいじゃないか。 シノハもこの村に居るんだ。 村のことで動いてるんだろうさ」

「ああ、それに分かっている事に時を使いたくない。 さっさと話を終わらせてシノハをオロンガに帰すことが先決だ。 そうじゃなかったのか?」 バランガに言われ、クジャムが顔を歪めて頷く。

「ああ、まぁそうだが」 

「クジャム、すみません!」 一度クジャムの目をしっかりと見て頭を下げた。

そのシノハの姿を見ると、少し間を置いてクジャムが口を開いた。

「ふっ、お前は色々考えることがあるようだな」 

クジャムの言葉に一呼吸置くと顔を上げ、もう一度頭を下げ、サラニンとバランガにも頭を下げた。 二人がこれ以上話を長引かせないよう謀ってくれたのが分かっていたからだ。

「で、この話をシノハはどうする?」 バランガが話を急かす。

「あ・・・全然気付いていませんでしたから、まだ何も考えられません」

「ホンットにお前はっ!」 バランガの叫びにサラニンがクックと笑っている。

四人の会話をずっと聞いていたタイリン。 あのシノハがこれだけ言いたい放題にされるのを目の当たりにして目が丸くなり、何がなんだか分からなくなっていた。

「明日の戦いもどうなるか分からない、他の動きも見ていなかった。 全く考えがなってないな」 クジャムが呆れてシノハを見る。

「はい・・・」 とっても小さくなっていく。

「仕方ないさ。 戦う事のないオロンガでは考えられないことだ。 おまけに小細工なんて事をシノハは知らないだろう。 ・・・ん? シノハ、もしかして初めて戦うんじゃないだろうな?」 まさかな? という顔を向けながらサラニンが問う。

「あ、初めてです」 即答した顔が少し情けない。

クジャムとバランガが思いっきり大きな溜息をつき、そのクジャムが呆れて言った。

「お前・・・戦うだけじゃなくて、その小賢しいヤツと向き合うのか?」

「はい。 ドンダダとのことを終わらせてオロンガへ帰るつもりでしたが、まさか考えもしないことがあってはまだオロンガへは帰れません」 サラニンとバランガの口元が上がる。

「では、どうする」 問われ、まだ何も考えられないシノハ。 だが、ついさっきバランガに問われた事を今またクジャムが問うているのだ。 答えを出せという事だ。 

「その者が何を考えているのか。 サラニンが言ったように長になろうとしているのか、それが誰なのか。 まずはそれが一番かと」

「ふむ」 言うと顎鬚を撫で「答えにもなっておらんな」 言うとバランガを見た。 そのバランガがクジャムの言葉を引き継いだ。

「シノハ、それは考えずとも当たり前のことだ」 そして仕方ないと言った具合にタイリンに視線を移した。

「じゃあ、詳しいことはタイリンに話してもらおうか」 言うとタイリンをとっても不気味な目で見遣った。

殆ど脅しに近い状態でバランガからタイリンが質問攻めにされた。


「ふーん、馬か。 で? 馬はどこから迷い込んだって?」 ジャンムと共に皆に聞いてまわった事を聞かれた。

皆で焚き火を囲んでいる時に、タイリンがシノハとジャンムと共に水を汲みに行っている間にあった出来事を、村人に聞いてくるようにと言われていた。 ついでに今までタイリンの知らなかったことがあったらそれも聞いておくようにとバランガに言われていた。

「結局誰にも分かりませんでした。 それに馬が迷い込んだのを知ってるっていう女は居なかったし、男もほんの数人しか知りませんでした。 でも、どう考えても可笑しいって。 馬を見た男は馬が暴れていた風でもなかったし、走ってきた音も聞こえなかったし、それに手綱を結んでる革紐が簡単に外れるはずがないって」

「馬が迷い込んだらいつも、そのドンダダってヤツが馬を連れて行くのか?」

「まず、馬が迷うってこともありませんし、もしあったとしてもドンダダはそんなことをしません。 ドンダダの周りに居る誰かがすると思います」

「でも、今回はドンダダってヤツが森に帰しにいったんだよな」

「はい・・・。 多分、ドンダダの周りに誰も居なかったからかな・・・」

「あの噂のせいでか?」

「はい。 ドンダダ側の男たちも、まさか長を闇討ちするなんてことがあるなんて思ってもいなかったみたいで、もしその噂が本当なら、その・・・ドンダダがやったって噂が本当ならついていけないって思ってるみたいです」

「蒔いた種の芽が出てきてるってことか」 黙って聞いていたサラニンがポツンと言った。

「その馬をドンダダってヤローに上手く言って森に連れて行かせた。 ってことは、迷った馬ではない。 誰にもわからず用意をしたんだろう。 まぁ、この先は我らも見ていたからいいとして・・・。 トデナミがシノハを探してるって言うことも、馬が迷ってきたっていう事も、ドンダダってヤローが長を闇討ちしたってことも、ほかの何もかも全部一人が流した話だな。 その話にファブアってヤローがうまく使われてるんだろう」

「噂で何もかもを動かしているのか。 根性のないヤツだ」 サラニンが鼻であしらって言う。

「あの、本当にその男は長になろうとしているんですか?」

「この村を考えたときに、それ以外考えられない」

「でも、ドンダダも長になろうとしてるのに、そのドンダダをさしおいて誰も長になろうとは思わないはずです。 ドンダダに勝てる男なんていないし・・・」

「だから、シノハと戦わせたんだ。 さっきも言っただろう。 シノハと戦わせてシノハがドンダダってヤローを負かせば、みなの前で恥を晒されたドンダダってヤローは長になるとは言わないだろう。 それに村の者たちからの信用もなくしてきている。 もし、シノハに負けたにもかかわらず、長になると言い切ってみろ、村の者から白い目で見られるだけだ」

「もし・・・その、有り得ないとは思います。 でも、もしシノハさんが負けたら? さっきバランガさんが種を蒔いてるから、村の人たちの信用が薄くなってるって言ったけど、みんなの前で堂々とシノハさんと戦って勝ったら誰も何も言えなくなります」 

バランガとサラニンが目を合わせた。 そしてバランガいやな目をしてシノハを見るとそのシノハに問うた。

「どうする? この答えはお前が知っているんじゃないのか? タイリンに話してやるか?」 黙って聞いていたシノハが顔色を変えた。 

己が負けても、ドンダダが村人の反感を買うことをその男は用意をしている。
ドンダダがトデナミを自分のものにしようとしている。 いや、さっきのバランガの話だと、ドンダダがそうしやすいようにファブアにお膳立てまでさせている。 それがどれだけ村人の反感を買うことか。 それを成させようとしている。
以前のドンダダであれば、力で皆を押さえつけられただろう。 それに誰も反感をあらわにしなかったであろう。 だが、今のドンダダは村人の信用を失っている。 もし、本当にそんなことが起きれば、己との戦いにドンダダが勝とうと、今までの様に村人は黙っていないであろう。 長を闇討ちし“才ある者” を我がものにしたドンダダを許さないはずだ。
それがその男の狙い。

「タイリン、ごめん。 今は言えない」

ドンダダがトデナミを自分のものにしようとしているなどと、まだ10の歳を少し越しただけのタイリンに言えない。 ましてやゴンドューの三人の前でなど、口が腐っても言えない。
とは言ってもシノハは知らないが、タイリンはこの事を女たちと一緒にザワミドから聞いて知っていたのだが。

「あ・・・俺の方こそごめんなさい」 声が小さい。 

「ごめん。 タイリンを信用してないわけじゃないんだ。 ただ、どうしても今は誰にも言えないんだ」 タイリンが下を向いた。

(くそっ! せっかくタイリンが自信を持ち出したところなのに) 
大きな声でゴンドューの三人と話し出した。 自分に自信が持ててきたのだろう。 その持ちだした自信をまた無くしてしまうのではないかと唇を噛む。

(なにか言葉がないか・・・) 下を向いて頭の中で考える。 と、

「シノハさん、そんなに考えないで。 俺はシノハさんを信じてるから」 思いもかけないタイリンの言葉がシノハに降り注がれた。

思わず顔を上げ、タイリンを見た。 するとタイリンが顔を上げ、笑みをこぼしながらシノハを真っ直ぐに見ている。

「・・・タイリン」

「ったく、お前はどうしようもないな。 言えないならそれで上手く嘘がつけないのかよ」 
二人の様子を見ていたバランガが呆れてシノハに言うと、もう相手にもしたくないといった具合に、両の手を枕にゴロンと寝転がった。

「言ってやるな。 お前みたいに口からでまかせが言えないんだから」

「なんだよ。 俺が嘘ばっかり言ってるみたいじゃないか」 横目でサラニンを見る。

「おい、要らぬ話はいい」 二人を見て言うと、次にシノハを見た。

「我らもある程度は分かっているつもりだが、子細は分からん。 が、シノハは分かっているんだな」 

「はい。 そこは我一人で考えます」

「敢えて聞く。 それは村長は知っているのか?」 

「はい。 長と才ある婆様が知っておられます」 敢えてトデナミも知っているとは言わなかった。

が、村の女たちとタイリンも知っている話だ。 シノハはその事を知らないし、タイリンは己が知っている話だとは夢にも思っていない。

(そっか・・・。 長と婆様しか知らない話だったら俺に言えないのは当たり前か)

「では、そこのところで何かあってもシノハが一人でやるのだな」

「はい」 

「分かった」 言うと、バランガとサラニンを見た。

「お前たちでやってみろ」 

クジャムの言葉にバランガがピュ~と口笛を吹いて飛び起きた。
影の“武人の村” として動く時には、クジャムといるとクジャムが考え、クジャムの指示の元、サラニンとバランガは動いていた。 勿論、他の者が同道する時もそうだ。
だが、今回は二人で全てやれという事だ。

「サラニン、思いっきりやりたくないか?」

「馬鹿か、俺たちだけじゃないんだ、シノハがいるんだ。 派手にやってどうする」


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« --- 映ゆ ---  第63回 | トップ | --- 映ゆ ---  第65回 »
最新の画像もっと見る

小説」カテゴリの最新記事