鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

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お気に入りその1953~森本草介展図録

2020-11-11 12:13:23 | 鬼平
今回のお気に入りは、森本草介展図録です。
「日本の古書店」というサイトで「生誕80年 森本草介展 図録」を偶然見かけ、即購入しました。
森本草介といえば日本の写実絵画界を代表する画家で、大のお気に入り。
森本氏は寡作のため、画集や展覧会図録は何冊もありません。
一番新しい画集「光の方へ」でも2012年発行です。
いくら何でもそろそろ次の画集が出るだろうと考えていたところ、今回の図録です。
さぞ新しい作品を観ることができるだろうと期待して目を通すと、氏が2015年に亡くなっていたことを知りました。
何てことだ!
お気に入りの画家が亡くなっていたことを今の今まで知らないなんてファン失格。
もっと長生きして素敵な作品をたくさん世に出して欲しかったです。
本書は氏の没後2年である2017年に絶筆「未完のパンジー」を含めた作品を氏ゆかりの地・岩手県一関市で開催した企画展の図録だそうです。
一関市博物館の開館20周年を記念した企画展であることと「生誕80年 森本草介展」という名称から考えて、生前から各方面と準備が進められていたものと思います。
資料によると、氏は1937年に父の赴任先である朝鮮で生まれ、7歳の時に母の古里である一関に疎開し、現在の一関小学校に入学します。
一時朝鮮で家族と過ごしますが、戦後は一関に戻り一関中学2年の途中まで随分楽しく過ごしたようです。
本書の解説部には、幼き日に氏が経験した朝鮮での逃避行について書かれています。
敗戦を知り徒歩で京城を目指した一家の旅は、昼間は隠れ、夜に南へ南へと移動したそうです。
暗くなってから見る木の葉は単純な緑ではなくいろいろな色が混じっていたことが子ども心に印象的だったそうで、生涯セピア色を基調とする作品を書き続けたことと大いに関係がありそうです。
解説にはこれ以上詳しく書かれていませんでしたが、画家の作風を決定づけるほど朝鮮半島での逃避行は壮絶なものだったのでしょう。
藤原てい著「流れる星は生きている」を思い出します。
道端に歩けなくなった人や亡くなった人がいても家族を守ることが精一杯で見捨てるしかなかった。
食べ物と交換する金品が尽きた者は夜に周囲のスキをうかがい盗むことで命をつなぐしかなかった。
衣服や靴を失った者は遺体からはぐしかなかった。
このような辛い旅路の果てに命からがら人々は京城にたどり着いたそうです。
森本氏もきっと近い経験をしたのでしょうが、辛すぎて思い出したくなかったのかもしれません。
その裏返しとして、氏の少年時代を明るく照らしてくれた一関への恩返しの意味で企画されたのが、本書の展覧会だったのかな、と想像します。
布張りの立派な図録には森本氏の生涯がしっかり収められており、制作サイドの熱意が感じられます。
大切にしたいと思います。


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