鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1319~インゼル文庫

2017-01-30 12:17:39 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、インゼル文庫です。

以前から気になっていたインゼル文庫。
図版印刷の美しさからファンが多い、ドイツのアンティーク文庫です。
文庫本サイズでありながら高価な値がついていることと、その巻数の多さから、できるだけ近寄らないようにしていました。
ところが今回、とある出来事がきっかけで、初めて購入しました。

ある日いつものようにネットオークションで、美しい手仕事のアンティーク図鑑を検索していて、1冊の本が目に留まりました。
出品されていたのは、インゼル文庫Nr.351「熱帯の植物」でした。
題名からは気づきませんでしたが、図版を見ると、マリア・シビラ・メーリアンの「スリナム産昆虫の変態」を元本にしていました。
「スリナム産・・・」は、昆虫の変態を表現した美しい図版で有名です。
荒俣宏の「ファンタスティック12 第8巻 昆虫の劇場」ですでに十分鑑賞していたので、インゼル文庫を買う気はありませんでした。
ただこの機会に、「評判の図版印刷」がどれほど素晴らしいのかを知りたくて、図版を比較しようと思いました。
オークションの商品説明に図版のアップがなかったので、別のHPでアップを探し、「昆虫の劇場」と比較しました。

ショックでした。
同じ図版同士を比べて、色彩の美しさが際立って違うのです。
花も蝶も。
いくらインゼル文庫が印刷の美しさで評判だといっても、差があり過ぎ。
この差が元本の違いによるのか、印刷技術の差によるのか、はたまたその他の原因によるのかは現時点では分かりません。
ただし最低でも「スリナム産・・・」の図版の本当の美しさを知らなかった可能性が出てきたことは確か。
という訳で本書を落札して、実際に手に取り、鑑賞することにしました。

早速届いた「熱帯の植物」を開いて、もう一度びっくり。
色彩に際立った美しさがない・・・!
これなら「昆虫の劇場」と同程度です。
なぜこんなことに?
いろいろ調べて分かりました。
今回届いた「熱帯の植物」は再版だったのです。
以前見たHPを再度確認すると、タイトルページに「1954年」という発行年が印刷されており、今回の本にはそれがなかったので分かりました。
それにしてもがっかりしました。
「昆虫の劇場」と同程度の色彩ならわざわざ落札しなかったのに・・・。
インゼル文庫が発行年をほとんど記載しないため、出品者を責めることはできません。
改めてネット取引の怖さを知りました。

ところで初版と再版で、なぜこんなに色彩に差があったのか、を考えました。
①初版と違う元本を使って制作した
②石版画を描いた画工の腕が違う
③元本に比べ、初版は色彩を過度に鮮やかに描き、再版はおとなし目に描いた

自分としては①が原因ではないかと考えます。
初版と再版の色彩は大きく違いますが、再版と「昆虫の劇場」の色彩は酷似しています。
印刷技術に誇りを持つ画工は、初版と違う元本を正確に再現したため、このような結果になったのでしょう。
そして再版の元本は、偶然「昆虫の劇場」と同じ版だったのではないかと思います。
画工の腕が落ちたとか、元本と全く違う色彩に描いた、などということは、インゼル社のプライドが許さないのではないでしょうか?

・・・どうでも良い話かもしれません。
でも、いろいろ推理して、楽しかったです。
これも色彩トラブルのおかげです。

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お気に入りその1318~向田邦子②

2017-01-27 12:16:56 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、向田邦子②です。

先日、向田邦子の第一エッセイ集「父の詫び状」を読みました。
そして今回読んだのは、第一創作集「思い出トランプ」です。
40年近くも前に発行された作品ですが、今も人気です。
発行当時、私はテレビも新聞もない生活をしていたこともあって知りませんでしたが、著者はこれで直木賞を受賞したのですね。
初めて発行した小説で直木賞のような大きな賞を受賞したことも驚きですが、本書収録の短編が雑誌に連載された時点ですでに直木賞候補になっていたということにも驚かされました。
しかも受賞の翌年、著者は飛行機事故で亡くなっています。
ドラマづくりの達人だった著者は、人生までドラマチックでした。
なるほど、だから「向田邦子」は「伝説」になったのですね。
山口百恵や白洲次郎のように。
・・・といった話は世間一般には常識で、私だけ知らなかったという可能性が高いですが、そ知らぬふりで、このまま本書の感想を書きたいと思います。

いつものようにAMAZONの内容紹介を引用します。
=====
浮気の相手であった部下の結婚式に、妻と出席する男。
おきゃんで、かわうそのような残忍さを持つ人妻。
毒牙を心に抱くエリートサラリーマン。
やむを得ない事故で、子どもの指を切ってしまった母親など――日常生活の中で、誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、後ろめたさを、人間の愛しさとして捉えた13編。
直木賞受賞作「花の名前」「犬小屋」「かわうそ」を収録。
=====

「かわうそ」、深いなぁ。
夫の死に涙を流しつつ、「おだつ」妻の姿が目に浮かびます。
いるいるこういう人!
著者の観察眼は驚異的です。

先日読んだ雑誌に「かわうそ」のことが書かれていました。
「かわうそ」の原稿の中に「いたち」と取り違えて書いている箇所があり、それを著者に指摘すると「区別がつかないのよ」という返答。
何とも大ざっぱな性格だったのですね。
他にも、何だかんだと理由を付けて引き伸ばし、ぎりぎりになるまで原稿を書かなかったというエピソードも面白かったです。
原稿の遅れなんて他でもよく聞く話だと思ったら、業界内でも並ぶ者がいないほど徹底していたそうです。
森繁久彌のラジオ番組で、この大御所を待たせながら放送直前まで原稿を書いていた話。
寺内貫太郎一家の収録中に、その回の後半部分をスタジオの脇で書いていた話。
関係者は青ざめていたことでしょうが、原稿の出来があまりに優れていたため、文句が言えなかったそうです。
笑ってしまいますね。

「犬小屋」
本当はその家の娘が目当てなのだが、犬の面倒をみることを理由にして通い続けている男。
両親不在の日、シャワーを浴びた後に、ワインを飲み、ガウンのままうたた寝をしていた娘。
そんな無防備な娘に男はつい抱き着きますが、抵抗されて諦めます。
ちょっと無理のある設定です。
これだけなら、とても直木賞の対象にならなかったでしょう。
年月が経ち、男とその家族を偶然見かけ、その妻も自分も妊娠していることから回想シーンに入る、という構図が評価されたのでしょう。

「花の名前」
外では妻のことを先生と呼ぶ男。
勉強以外の知識がない男は、社会を生きるために、妻に花の名前、魚の名前などの一般常識を教えてもらっていたのです。
そんな夫に愛人がいた・・・。
愛人は妻とは正反対の少々ぼんやりした人で、皮肉にも花の名前がついていました。
男の妻に対するせめてもの抵抗と、それに気づいた妻、という構図はお見事。
この作品が評価されたことは、おおいに納得できました。

この他、「大根の月」「ダウト」も気に入りました。

初めて書いた短編集がこのレベルだと、誰でも将来を期待してしまいます。
直木賞の審査中に、今年は見送って来年以降でどうか、という意見があったそうで、それも十分理解できます。
その後多少強引に直木賞受賞が決まったそうですが、翌年著者が事故死したことを考えると、神様のシナリオのように思えます。

今回、第一エッセイ集と第一創作集を続けて読みました。
エッセイは伸びやかに書いており、小説は肩に力が入っていたように思いました。
いずれにしても、お気に入りの作家に仲間入り。
その内に必ず読みたくなるでしょうから、脂が乗っていたと評判の第3エッセイ「霊長類ヒト科動物図鑑」を用意しておくことにします。




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お気に入りその1317~向田邦子

2017-01-25 12:17:31 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、向田邦子です。

向田邦子のエッセイ集「父の詫び状」。
昭和51年に発行されてから、どれだけ多くの人々に読まれてきたことでしょう。

あまりに有名ではありますが、念のためAMAZONの内容紹介を引用します。
=====
明治の父を中心にした日本の典型的家族風景の息遣いをまるで間近に聞くような鮮か且つユーモア溢れる筆で描き、世評高かったTV界の第一人者初めてのエッセイ集
=====
宴会帰りの父の赤い顔、母に威張り散らす父の高声、朝の食卓で父が広げた新聞…だれの胸の中にもある父のいる懐かしい家庭の息遣いをユーモアを交じえて見事に描き出し、“真打ち”と絶賛されたエッセイの最高傑作。
また、生活人の昭和史としても評価が高い。
航空機事故で急逝した著者の第一エッセイ集。
=====

本書は一昨年から読み始めたのですが、いつの間にか行方不明になっていました。
それを先日見つけました。
厚い革のコートのポケットに入っていたのです。
その日はマイナス10℃を下回り、ここ札幌でも久々の寒い日でした。
新年会に着て行くために一番温かいものを、と思って1年ぶりに袖を通したのがこのコートでした。
そう、昨年新年会に向かう地下鉄で読んで以来、ポケットに入りっぱなしだったのです。

いざ読み始めると1年のブランクもなんのその、一気に向田ワールドに突入しました。
歯切れの良い向田節がポンポン飛び出して、昭和の空気が見事に伝わってきます。
著者初めてのエッセイ集ながら、すでに最高傑作の域に達しているという評には、納得するしかありません。
その日は新年会が2つ続けてあり、間に1~2時間あったものですから、喫茶店でゆっくり読むことができました。

父の転勤に合わせて4度転校した小学生時代。
思い出に残る同級生たち。
寺内貫太郎一家を彷彿させる家族たち。
倒産寸前の出版社時代。

著者の手にかかれば、これらの思い出が、24編の魅力的なエッセイに早変わり。
それにしても随分細部まで覚えているものだな、と感心しながら読んでいると、「何十年も自分の都合の良いように温め続けてきた思い出は確認しに行かない方が良い」と断言。
ナルホド、そういうことか、と納得。

単行本発行の5年後、文庫化され、その解説は沢木耕太郎。
解説を書いている途中で、著者の訃報を知ったとのこと。
惜しい才能を失ったことを、解説者ととも残念に思うとともに、もう一度向田節に触れたいと思いました。
著者は脚本・小説・エッセイのそれぞれの分野で大成功をおさめました。
次は直木賞受賞作が収録されているという短編小説集「思い出トランプ」を読もうと思います。


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お気に入りその1316~雑草のくらし

2017-01-23 12:29:21 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、雑草のくらしです。

昨年末の慌ただしいさ中、お気楽なはずの雑学本「身近な雑草の愉快な生きかた」を読み、意外と為になったことは、すでに書きました。
そういえば「雑草」の絵本があるけれど、まだ読んでいなかった、と思い出し、読みました。

甲斐信枝著「雑草のくらし ~あき地の五年間~」
1985年発行、2015年第13刷。
ほぼ2年に1刷という地道な売れ行きの絵本です。
著者は京都の畑あとを5年間観察した後、この絵本を描いたそうです。
正真正銘の「観察絵本」。

まずは絵の感想。
微妙な色合いの違いを実際の通りに描いたのでしょうが、私のような赤緑色弱には判りづらかったです。
茶色と緑色だけの世界では色の区別がつかないものですから・・・。
せめて要所要所をアップで描いてくれると輪郭などで植物同士の区別がつきやすかったかもしれません。
残念!

文章については、5年間の観察記録をまとめた後に、感想を書きます。

1年目
メヒシバとエノコログサが育ち、たくさんの種を落とします。

2年目
背の高いオオアレチノギクとセイタカアワダチソウが育ち、種を飛ばし、地下茎を伸ばして仲間を増やします。

3年目
夏の初めにカラスノエンドウがまきひげを伸ばしておおいつくし、たくさんの種を飛ばします。
その後、波のようにうねるつる草の一団が支配します。
クズとヤブガラシです。
秋の終わりにはセイタカアワダチソウが種を飛ばし、地下茎を伸ばします。

4年目
種を残したあとも、根っこで生き続ける草が畑あとを奪います。
クズとヤブガラシのたたかいです。
命の短い草は、命の長い草にすみかを奪われてしまいました。
つる草や背の高い草だらけでボウボウの草むら。

5年目
あき地は掘り返され、草はすっかりとりのぞかれました。
そして再び、メヒシバとエノコログサの種が眠りから覚めて、どんどん育ちます。

いかがでしたか?
つる草と背の高い草に支配された畑あと。
圧倒的な力の差はいかんともしがたく、彼らの支配は永遠に続くのか?
そう思った5年目。
あまりに鬱蒼とした畑あとに見ぬふりをできなくなった人の手により草は一掃されます。
「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉が浮かびます。
「おごる平家は久しからずや」という言葉も。
庶民としては、力の劣るメヒシバとエノコログサの時代が再びやってきたことが、うれしかったです。
力の劣る者たちも、待ち続ければチャンスが来る!
それは今回のような人の手によるものだけではなく、自然災害や気候変動も引き金になることでしょう。
このような自然界の多重性は、人間社会にも通じるように思います。
神のみぞ知る環境の変化。
それに対応するものだけが生き残る。
ただの雑草をわずか5年間観察しただけの絵本ですが、その中に真理が垣間見えた気がします。



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お気に入りその1315~クレーの絵本

2017-01-20 12:44:47 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、クレーの絵本です。

谷川俊太郎著、パウル・クレー画「クレーの絵本」を読みました。
クレーの絵はさっぱり理解できないので、これを読めば少しは理解できるかな?と思ったものですから。
また「40点の絵と14編の詩が奏でる二重奏」という魅惑的なコピーにも惹かれました。

表紙を飾った「黄金の魚」に添えられた詩が素晴らしい。
「食物連鎖の中で魚はいきている
 いのちは命をいけにえにしてひかりかがやく
 幸せは不幸せをやしないとして花開く
 どんなよろこびの深い海にも
 ひとつぶの涙が とけていないということはない」
この詩により、この絵が人の世と重なる深い意味を持つことを理解しました。

「雪の降る前」
絵のタイトルが、黄色や赤色に変わった葉が空に手を伸ばしている様子を見事に表現しており、ぴったり。
理解しがたいクレーの絵の中で、こういうシンプルなものもあるんだ、と思いほっと一安心。
詩も理解しやすかったので紹介します。
「紙は白 紙は冬
 絵描きは太陽 雪をとかす
 絵描きは春 緑を塗る
 絵描きは夏 青を塗る
 絵描きは秋 赤を塗る」

「惚れた女のための風景」は赤が基調。
「世捨て人の庵」は青が基調。
これもわかりやすい。
しばしの間、自らの恋愛と失恋を回想しました。
我に返り、これがクレーの魂の力なのか?と思いました。

「死と音」
「死んで骨になる私
 何もたずさえていけない
 せめて好きな歌だけ きこえていてほしい」
葬送の儀に楽曲がつきものである理由に納得。
自分のときはどんな曲がいいかな?と想像をめぐらせました。

また理解できない詩も。
「まじめな顔つき」
「まじめな人がまじめに歩いてゆく かなしい
 まじめな人がまじめに泣いている おかしい」
なんじゃこりゃ?

あとがきに、谷川俊太郎のクレー評が書かれていました。
「言葉でクレーの絵をなぞることはできない。
 言葉になる前のイメージ(魂)によって秩序を与えられている」

イメージ(魂)を感じることが重要であり、言葉にできないのは当たり前、といわれるとほっとします。
そういう気持ちで改めて作品集を鑑賞すると、より魂に伝わった気がします。




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お気に入りその1314~安永一正

2017-01-18 12:50:23 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、安永一正です。

科学と芸術を融合した細密画が大好きです。
前回も中西章の絵本で特大の細密画をたっぷり鑑賞したことを書いたばかりです。
そして今回、古本で4000円もする高価な細密画集を入手しました。

「安永一正の昆虫」(廃刊)

前回鑑賞した細密画の絵本は、絵が大きかったのですが、絵の数が少なくてちょっぴり物足りませんでした。
ところが今回見つけたのは、120ページというボリュームを誇る細密画集。
たっぷりの細密画をきっと鑑賞できるんだろうな、と想像し、その誘惑に負け、大枚をはたくことにしました。

絵本ナビから内容紹介を引用します。
=====
昆虫画の第一人者として著名な、安永一正初の画集。
精緻なリアルイラストレーションで描かれた静謐な昆虫の世界をまとめました。
=====

本書には博物画、生態画、昆虫のいる風景などがたっぷり収められていました。
作品のひとつひとつが素晴らしかったことは間違いありませんが、末尾の「道具と技法」を先にご紹介します。
そこには、細密画を描くことがいかに根気のいる作業であるかが書かれていました。

わずかのスペースに途方もない時間を費やすこと。
長時間筆を持つと手が痛くなるため、持つ部分に包帯を厚く巻いていること。
イタチの毛が擦り切れて使えなくなった筆を捨てられず、たくさん持っていること。

120ページにものぼる細密画集は、長年の仕事の集大成であることはもちろんですが、画家が費やしてきた濃密な時間の結晶でもあることを知りました。
本書を鑑賞することで、とても贅沢な時間を過ごすことができました。
科学的にも美術的にも優れた作品集、という前評価以上の素敵な細密画集だと思います。

さて作品の中で一番気に入ったのは、表紙にも使われている「河原にいるバッタ」。
これは絶品!
バッタだけでなく石ころまで本物と見まがうばかりの細密さで描かれています。
最前列の石に彩色していないことで、ようやく写真でないことが分かる、という見事な仕上がりです。
これはぜひ間近で鑑賞してもらいたいです。

さらに植物画も細密そのもの。
画家は、昆虫と植物はセットなので植物画も修業した、と述べています。
植物画だけでも十分食べていけると思いますが、昆虫が大好きな画家はそんなことは考えていないでしょう。

そういえば本書を読んで驚いたことがありました。
画家は子どものころから昆虫を観察し、描くことが好きでしたが、雑誌「アトリエ」の「細密画の基礎技法と展開」を読んだことを契機に、その著者である立石鐵臣の「細密画工房」というアートスクールに入って本格的に修業をしたそうです。
何を隠そう、私が細密画の世界に興味を持つようになったも、まさにその本なのです。
画家がそのお弟子さんだったとは!
急に親近感が湧いてきました。


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お気に入りその1313~細密画の絵本

2017-01-16 12:23:55 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、細密画の絵本です。

三木卓・著、中西章・画の絵本「ビッグチャム かぶとむし・くわがたむし」

届いてびっくり!
こんなに大きな絵本だったのですね。
1ページがA3判サイズ。
開くとA2判サイズ、つまりポスターサイズというデカさです。
その中央に20cmもある巨大なカブトムシやクワガタムシが描かれています。
この迫力には子どもだけでなく大人まで圧倒されるでしょう。

大きいだけに隅々までほどこされた細密画の技。
こういうのを探していたんです。

これまで細密画家・中西章のHPをのぞいては、ぜひ作品をもっと間近で鑑賞したいと思い、作品集を探していました。
あちこち調べて、どうやら作品集が出ていないらしいことが判りました。
では図鑑や絵本で鑑賞しようと思い、見つけたのが「バッタのオリンピック」と「セミのおきみやげ」でした。
とくにトノサマバッタのアップは惚れ惚れしたものです。

今回の絵本は、AMAZONで画像データが紹介されていなかったこともあり、「中西章」という名前だけを頼りに思い切って購入しましたが、大正解でした!
「バッタのオリンピック」を超える満足感に浸ることができました。
大きな大きな細密画を見ていると、まるで原画展で鑑賞している感覚です。

以前、田淵行男の画文集「安曇野の蝶」に魅入っていたときに、その原画は50cm角の用紙に描かれていた事を知り、いつか記念館で鑑賞したいと願ったものです。

今回、細密画を鑑賞するためのポイントをひとつ学びました。
それは、より大きな細密画が載っている絵本や図鑑を選ぶこと。
これまでそういうポイントで本を選んだことがなかったので、もしかすると今年は新しい出逢いがあるかもしれません。
それもまた楽しみです。
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お気に入りその1312~どくとるマンボウ

2017-01-13 12:36:04 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、どくとるマンボウです。

中江有里のエッセイで紹介されていた一冊、北杜夫・著「マンボウ最後の家族旅行」を読みました。
北杜夫の作品は、高校入学から20代まで、どくとるマンボウシリーズ、文学作品問わず、随分読んだのでとても懐かしかったです。

AMAZONの内容紹介を引用します。
=====
マンボウよ永遠なれ。
大腿骨を骨折したために、娘による「スーパーリハビリ」が始まった。
毎朝、腹筋と散歩。
リハビリのための旅の日々。
娘は言った。
「ハワイから帰国したら、翌日、苗場にスキーに行くからよろしく」。
絶筆となった「又もやゴルフ見学」をはじめ、氏が雑誌連載に遺した二十三編のエッセイほか、妻・斎藤喜美子が語る「マンボウ家の五〇年」と娘・斎藤由香による「あとがきに代えて」収録。
家族との日々をユーモアで紡ぐ最後のエッセイ集。
=====

本書は、雑誌の2010年2月号から2011年12月号に連載されたエッセイをまとめ、2012年3月に発行されています。
2011年10月に亡くなるまで日々のリハビリに加え、ハワイ、苗場、ゴルフ場、箱根、軽井沢、京都などを連れまわされる苦行の毎日が描かれています。
著者は、娘による遠慮のないリハビリ生活が功を奏し、亡くなるその日まで寝たきりにも、ぼけることもなく作家人生を全うできました。

本書には「老いる」とはこういうことなんだ!と理解が進む記述が随所にみられました。
・目的地への移動だけで疲れ果て、ベットに倒れ込み、楽しみは睡眠とマッサージだけ。
・風光明媚な景色や美味しい食事にはほとんど興味が無い。
・最近のことは覚えていないが、昔のことは細かいところまでよく覚えている。
中江有里が紹介したような、つい笑いが漏れる記述には巡り合えませんでしたが、「親の老い」「自分の老い」に直面している今、読んで良かった!と思いました。
ただ私には、娘さんのように強引なリハビリはできないでしょうね、きっと。

著者が本書の中で作家人生を振り返っていたことにも触れます。
文学作品としては「楡家の人々」、エッセイとしては「どくとるマンボウ航海記」を遺せたことに満足している、と述べていました。
また「どくとるマンボウ昆虫記」はユーモアが足りないと不満足ながらも、昆虫学者たちから高く評価され、全国の昆虫展などで紹介されたり講演に招かれたりしたことに満足していると述べていました。
芥川賞を受賞した「夜と霧の隅で」についての記述がほとんどなかったことは、欲のない著者らしかったです。

ここに登場した作品のすべてを読んだことがあり、そうそう分かる分かると相槌を打つことができたことは、著者のファンとして満足でした。
改めて著者のご冥福をお祈りするとともに、こういう機会をくれた中江さんに感謝!


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お気に入りその1311~ルパン

2017-01-12 12:21:44 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、ルパンです。

中江有里著「ホンのひととき」に紹介されていた「ルパン最後の恋」を読みました。

ルパンシリーズは小中学生の頃に随分読んだものです。
本書の表紙デザインは当時と同じ。
懐かしい。

本書は未発表原稿を2012年に発表したものだそうです。
AMAZONの内容紹介を引用します。
====
話題騒然!
発見、ルブラン家の棚奥深くかくされていた未発表作品を「ズッコケ」の作者がてがける。
ルパンの祖父が手にいれた「道理の本」をめぐってのイギリス王家とフランスの争奪戦が、じつは国際的な陰謀へと発展。そこに美しい若い女性がルパンに助けを求めてきて・・・・・。
=====
美しく高貴な女性がルパンに助けを求めてきた。
それには、イギリス王家のあとつぎをめぐる陰謀があり、しかも、ルパンの祖父が手にいれたジャンヌ・ダルクにまつわる本までがからんでいた。
ルパンは、再び冒険と推理、そして愛の世界へ…。
=====

読み始めは「アルセーヌ・ルパン」の紳士キャラがしっくりきませんでした。
きっと「ルパン三世」のおふざけキャラが染みついてしまっていたからでしょう。
読み進む内に、幼いころに読んだ怪盗紳士のスマートな活躍ぶりが徐々に蘇ってきました。

(以下ネタバレ注意)

ルパンは貧民街の生活環境改善のために財産をつぎ込んでいます。
またそこの子どもたちに柔道や水泳を教えながら正しい人になるよう導いています。
反対に悪党には鋭い推理力と抜群の運動神経で立ち向かって懲らしめます。
そして何より女性に対して紳士的で実に優しい。
こんな完璧な男性に「愛してる」と耳元でささやかれたら・・・。
ヒロインに自分を投影して読んだ女性は多いのではないでしょうか?
そしてイギリスの王子との婚約を破棄してルパンに走ったヒロインに共感したことでしょう。

本書は文字が大きい上、ふりがなが振られ、文章がとても読みやすいです。
まさに子ども向けの冒険活劇物。
昔の私同様、男の子たちは胸躍らせて読んだことでしょう。
そして少女たちはラブストーリーとして楽しんだことでしょう。
子どもたちにはこういう本を読んでほしい、と思う典型的な作品でした。
こんな作品が最近まで未発表だったとは・・・。
著者は未完成作を読まれて不本意でしょうが、ファンはそれを理解した上で新作を読むことで十分満足したはず。
子どもたちだけでなく、昔、少年少女だった人たちにもおすすめします。


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お気に入りその1310~うめ婆行状記

2017-01-10 12:38:59 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、うめ婆行状記です。

宇江佐真理・著「うめ婆行状記」を読みました。

AMAZONの内容紹介を引用します。
=====
北町奉行同心の霜降三太夫を卒中で亡くしたうめは、それまでの堅苦しい武家の生活から抜け出して一人暮らしを始める。
醤油問屋「伏見屋」の長女として生まれたうめは、“合点、承知"が口癖のきっぷのいい性格。
気ままな独身生活を楽しもうと考えていたのだが、甥っ子の鉄平に隠し子がいることが露見、大騒動となりうめは鉄平のためにひと肌脱ぐことを決意するが……。
昨年急逝した著者の遺作となる最後の長編時代小説。
朝日新聞夕刊に短期集中連載の後、緊急出版!
=====
僅かな月日でも好きなように生きられたら―。
北町奉行所同心の夫を亡くした商家出のうめは、気ままな独り暮らしを楽しもうとしていた矢先、甥っ子の隠し子騒動に巻き込まれ、ひと肌脱ぐことを決意するのだが…。
笑って泣いて―“遺作”に込められた家族愛、そして夫婦愛の物語。
最後の長編時代小説。
=====

昨年末、北海道新聞に「本書は著者の遺作であり、もう新しい作品を読めないことがとても悲しい」という記事がでていました。
北海道在住の作家であり、代表作が「髪結い伊三次捕物余話」、2015年11月に亡くなったことくらいしか知りませんでしたが、こんなに悲しむ読者がいる著者の作品を一冊くらい読んでみようと思い立ち、選んだのが本書。
朝日新聞の連載小説だった本書は、2016年1月12日に連載をスタートし、故人の遺志により2016年3月15日掲載分で「未完」としたそう。
新聞連載小説っていうのは連載に間に合うように作家が日々書くものと思っていましたが、連載開始の2か月も前に作家が亡くなっているということから、かなり前に作品を書いていたことを知りました。
しかも新聞社が、それを書いていた作家が亡くなった後に「未完」を知りつつ連載を開始したことは驚きです。

という話は横に置いて、本書の感想などを少々。

著者の作品を初めて読みましたが、実に読みやすい文章でした。
さらさら読めました。
主人公うめ婆は、武家の奥方でありながら頼まれごとに対して「合点、承知」と応える気風の良さは、元・商家のお嬢様ならでは。
そのさっぱりした性格のため、重たくなりがちな出来事を後腐れなく解決していきます。

解説者によると、うめ婆の性格は著者のそれと重なるのだそう。
へえ、そうなんだ・・・。
ここで、以前、オール讀物の増刊号「鬼平秘録」で宇江佐真理が語っていたことを思い出しました。
代表作の「髪結い伊三次捕物余話」の主人公・伊三次が、鬼平犯科帳の伊三次と同名だとは気づかなかったと。
時代小説の主人公が、よりにもよって時代小説の巨星「鬼平犯科帳」のメインキャストと同名とは!
決してささいな事柄ではないけれど・・・。
北海道人らしい細かいことを気にしない性格って好ましいなあ、と思ったものです。

まだまだ書ける年齢であり、人気シリーズも継続中でした。
著者とファン、どちらも残念だったことでしょう。

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