鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその870~相模湾産後鰓類図譜

2014-02-28 06:58:20 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「相模湾産後鰓類図譜」です。

「相模湾産後鰓類図譜」がネットオークションに出品されていました。
 ※「後鰓」は「こうさい」と読むそうで、ウミウシのことだそうです。
調べてみると本書は昭和天皇の最初の著書らしいということがわかり興味が湧き落札しました。

平成になって26年にもなりますが、自分の人生ではまだ昭和時代の方が長いためか、いまだにとっさに天皇というと昭和天皇の穏やかなお顔を思い浮かべます。(それなのに皇太子といわれると、現・皇太子のお顔を思い浮かべます)

昭和天皇が生物学に造詣が深いことは、晩年に粘菌の研究をしていたことで知っていましたが、ウミウシをはじめとした相模湾の動物相や、那須や下田須崎の植物について多くの著書を発表していたことは知りませんでした。
さすがに「学者天皇」「生物学天皇」といわれただけあります。

本書は皇居内生物学御研究所を編者として昭和24年9月に岩波書店から発行されました。
序文は編纂主任の理学博士 服部廣太郎が書いています。
その一部を抜粋してご紹介します。

・相模湾の生物相は南方系統の特色をも交えてすこぶる変化性に富んでいることは、つとに内外諸学者の等しく認めるところである。
・今上陛下が年々葉山御用邸に行幸になり、そこに御滞在の期間には常に相模湾頭の動植物を親しく御採集になって御研究の対象と遊ばすのが恒例となっている。
・御蒐集になった貴重な研究資料は著しき数に達し、その中には学問上未知の新種として諸専門家の名のもとに既に学会に発表された報文も少なからず存在する。
・この図譜に採択した種類は、すべて陛下が親しく御採集になって一旦御検討になったものを、当時生物学御研究所員だった故真田浩男と加藤四郎とが直ちに写生に着手し新鮮にして生きながらの色彩と容姿とを努めて精細に描写した原図と後鰓類の専攻家理学博士馬場菊太郎はこれに解説を付けたものとを併せて編纂した。
・収録した種類は陛下の御採集品のみに限定した関係上、諸学者の研究によって相模湾に産することがすでに知られている種類でも一切省略することにした。
・今回生物学御研究所の最初の試みとして、刊行したこの図譜
・特殊の一部類の種類のみをかくも相当に多数に網羅した図譜は、我邦のみならず欧米の諸国にあっても未だその類例をみないものである。


また(財)水産無脊椎動物研究所の機関誌「うみうし通信」創刊号に、日本貝類学会 波部忠重会長が本書に関して記述していますのでそれも抜粋してご紹介します。

・陛下は、馬場菊太郎の奉仕で「相模湾産後鰓類図譜」を発表された。
・陛下は昭和6年から底引網で相模湾の改訂生物の採集をはじめられた。
・御関心が深かったものにウミウシ類がある。陛下はこれらの形や美しさを愛されて、これらの生きているときの姿を所員によって写生図をつくらせた。
・昭和21年3月GHQ天然資源局長が生物学御研究所へ参上し、これらの美しい図を見て陛下の御研究の深いことに驚き、御発表になることをすすめた。
・馬場菊太郎がお手伝いして「相模湾産後鰓類図譜」が出版された。
・相模湾は珍奇な生物が多いことで世界に知られ、外国の学者も研究したが、陛下の御採集によって、一層相模湾の生物が解明されつつある。


うーん、陛下の著作と言い切るには弱いな・・・。
どちらかというと陛下が採集したウミウシ類の資料を学者が図鑑にしたと言った方が良いのではないかな・・・。
でも一般的には、陛下初の著書はこれ!といわれています。
悩んでいても仕方がないので、とりあえず本書が昭和天皇の初めての著書ということで納得して、ありがたく読むことにしました。

実際に読んでみたら、解説文は研究者が読むようにお堅くてとても読みづらかったです。
そのため解説文は、名前が気になったり、姿が美しかったりしたもののみ拾い読みしました。
本書は学者向けのまさに専門書。
残念ながら素人が楽しみにページをめくるような本ではありませんでした。
「学者天皇」の最初の著書として、世界に出しても恥ずかしくないようにと力が入っていたのではないでしょうか。

本書は、前半にウミウシ155種?の解説、後半に50ページ170枚の原色図版という構成。
本書の原色図版を期待して鑑賞しましたが、正直いって上手いのか下手なのかよくわかりませんでした。
色鮮やかだったり地味な色合いだったりというのは種類によって違うのでしょうが、どれも平面的。
どの図版も立体感が欠落しているように見えました。
ウミウシって相当凹凸があるはずなのに・・・。

本書の原色図版の原画は、国立科学博物館の企画展「日本の博物図譜」に出品されたそうですし、何と言っても皇居内生物学御研究所の所員が描いたのですから、自分に見る目が無いのでしょうか?

という訳で本書は原色図版を鑑賞すると上手に見えずにがっかりし、解説文を読むと堅すぎて面白くないという二重に残念な結果に終わりました。
きっと素人が手を出すべき本ではなかったということでしょう。

話は変わりますが、昭和天皇は忙しい公務の傍らウミウシや貝、ヒドロ虫などの海洋生物や、変形菌(粘菌)やキノコ類などを研究しており、貝類で110種類ほどの新種を発見し、他の生物も100種類近くの新種を発見したそうです。

以前、鳥類図版で有名なグールドのことを調べているときに「ジョン・グールド鳥類図譜総覧」という本に行き当たりました。
山階鳥類研究所および玉川大学教育博物館が所蔵するグールドの鳥類図譜全巻のリストをまとめたものですが、その著者は平成天皇の長女 清子様でした。
さらに山階鳥類研究所の創設者、山階芳麿も元皇族。
代々天皇家の方々って生物学に興味があるのですね。

最後に。
本書を読んだことは、生物学者としての昭和天皇を実感する良い機会になりました。
(雲の上の存在であることに違いはありませんが・・・)
陛下本人が実際に解説文などの文章を書いた著書がもしあるのなら読んでみたいな、と考えています。


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お気に入りその869~ファーブル昆虫記②

2014-02-26 12:29:01 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「ファーブル昆虫記」②です。

2巻目を読み終わりました。
思っていたよりもサラサラ読めます。
これは昨年末に読んだ、同じ集英社少年向けシリーズ「ダーウィン先生世界航海記」全5巻と比べての感想。
(訂正 「ダーウィン先生世界航海記」は平凡社発行でした)
「航海記」では博物学者としてビーグル号に乗り込んだダーウィンが南米各地の生物や地質、原住民など博物学全般について書いています。
多方面に渡る科学的記載にはイメージしやすいものとしづらいものがあり、それがランダムに登場することがサラサラ読めない理由でした。
それに比べ「昆虫記」は昆虫一本でとてもシンプル。
また奥本大三郎が荒俣宏よりも一層、子どもたちに語って聞かせるような文体で書いていることもサラサラ読める理由でしょう。

第2巻は「狩りをするハチ」。
へーっという話が次々出てきて面白く読みました。
と書けば簡単ですが、ファーブルが長い長い年月をかけて導き出した研究結果です。
若い頃になかなか観察できなかったあるハチが、20数年も経ってから自宅敷地内の堆肥の中に無数にいることがわかり、研究が一気に進んだというエピソードもありました。

他の面白かったエピソードもいくつかご紹介します。

甲虫を狩るハチには、ゾウムシを狩る種類とタマムシを狩る種類の2種類がいます。
なぜこの2種類の甲虫なのか?
ハチが運べるサイズの甲虫を解剖して比較したところ、ゾウムシとタマムシでなくてはならない理由がわかりました。
昆虫のムネ付近には神経節が3つあります。
その神経節同士が接近していてハチの麻酔針の一撃で麻痺させることができるのがゾウムシとタマムシだけだったのです。

ハチの幼虫がハナムグリの幼虫を食べる順番には厳格な決まりがあります。
ハチの麻酔針で麻痺させられたハナムグリ。母ハチは決まった場所に卵を産み付けます。
ふ化した幼虫は、すぐにかみついて傷口から出る体液を飲みます。
次に内臓の外側の脂肪、皮膚の裏側の筋肉、内臓と順番に食べ進みます。
驚くことにこの時点まで、食べられているハナムグリは生きています!
最後に、神経と呼吸器を食べられてハナムグリは死にます。
最後の最後まで生きているエサを食べ続ける高度な技術。
まさに神のなせる業です。
「環境に適した生物だけが生き残る」というダーウィンの進化論だけで説明できるのか?
ファーブルが進化論に懐疑的だった理由がこれです。

これら驚きの秘密をファーブルは解き明かしました。
しかも子どもにもわかるとてもシンプルな論理の積み上げと簡単な比較実験だけで。
なるほど本書が世界一の「昆虫記」といわれる訳です。
次の巻を読むのが楽しみです。

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お気に入りその868~ソチオリンピック

2014-02-24 17:42:45 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、ソチオリンピックです。

ソチオリンピックが閉幕しました。
開催中は競技が気になって読書や映画鑑賞がなかなか進みませんでした。
特に今回は冬季オリンピック。
道産子選手がやたら多く出ていたので、なおさらでした。
逆に言うと、冬のスポーツにあまり縁がない地方の方にとっては、夏のオリンピックほど興味がなかったかもしれませんね。

印象に残った日本人選手ベスト5について書きたいと思います。

第5位 スノーボード女子パラレル大回転 銀メダリスト 竹内智香
4度目のオリンピックでついにメダリストに。
日本の強化方針に反発し、強豪スイスに単身乗り込み、腕を磨いた。
スイスでは彼女の受け入れに賛否両論があり、毎年論議になっていたそう。
そんな環境の中で己を貫いた彼女のハートに脱帽。
また勝利の為にボード制作まで行ったことも素晴らしい。

第4位 カーリング女子 5位 小笠原、船山、苫米地、吉田、小野寺
参加10チームの中で、世界ランクで日本は9番目。
しかも参加チーム中、最下位の韓国には目下3連敗中。
総当たりで全敗の可能性もあった。
しかも主戦力のひとり小野寺がソチでインフルエンザを発症。
心の乱れがストーンの乱れに直結するカーリングでは絶体絶命のピンチ。
でも母となり神経が太くなった?小笠原がチームを牽引。
結果は4勝5敗。
彼女たちのハートの強さに感動した。

第3位 ジャンプ男子ラージヒル個人 銀メダリスト 葛西紀明
41歳で現役、しかもトップレベルのジャンパー。
海外の選手たちからレジェンド(伝説)と呼ばれ、尊敬される存在。
彼が7回目のオリンピックでようやく手にしたメダル。
貧乏な少年時代からずっと彼を支え続けた家族や仲間たちにも拍手を送りたい。

第2位 ジャンプ男子ラージヒル団体 銅メダリスト 葛西紀明、伊東大貴、竹内択、清水礼留飛
「葛西が泣いた!」という新聞の見出しがすべてを物語る。
あれほど苦労して手に入れた個人のメダルよりも喜び、涙した姿は実に美しかった。
あんな先輩がいる後輩たちは幸せ。
若武者、中堅、ベテランとバランスがとれたチーム。
病気やケガ、重圧を乗り越えて栄冠を勝ち取った彼らに拍手を送りたい。
女子を含め日本ジャンプ陣の未来は明るい!

第1位 フィギュア女子 6位 浅田真央
もし浅田真央が今回で引退したら伝説になるだろう。
長嶋茂雄、山口百恵・・・記録より記憶に残る有名人たちと並ぶ。
そんな記憶に焼きつく見事なフリーだった。
ショートはガチガチ。誰もが予想していなかった16位に沈んだ。
たった1日で立て直せるか?
皆の心配をよそにフリーでは用意したプログラムをほぼ完璧にこなし、自己ベストを更新。
他の選手たちは安全確実なジャンプを完璧にこなすことで高い得点(=メダル)を狙った。
でも彼女は自身の代名詞となったトリプルアクセルをはじめとした6種類のトリプルに挑戦した。
メダルを競う場においてさえ理想を追い求めたその姿に、人々は求道者でありファイターを見た。
プルシェンコやクワンら有名スケーターたちが称賛したのも当然だろう。

これほど心に響き、涙したオリンピックはかつてなかったと思います。
メダルの数など関係ありません。
上村愛子、高梨沙羅、浅田真央、長島圭一郎・・・メダルが獲れなかった彼らのインタビューこそ感動的でした。
オリンピックに参加できた選手たち、惜しくも参加できなかった選手たち、そのすべてに拍手を送ります。



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お気に入りその867~竹鶴政孝パート224

2014-02-21 12:05:44 | 竹鶴
今回のお気に入りは竹鶴政孝パート224、「ほろよかブレンド」です。

先日「ラム&ライ ほろよかブレンド」を初めて味わいました。
このお酒は「樽熟成したラムとライスピリッツを、絶妙なバランスで組み合わせたブラウンリキュール」という風に説明されています。
つまりウイスキーではなくスピリッツ。
1992年に発売開始されたそうで、すでに20年以上経過していますが、この製品の存在自体を知りませんでした。
度数は25度。
いつもウイスキーをトワイスアップで飲んでいるので、これならストレートで丁度良さそう。
一口味わうとこれがなかなか美味しい。
ラム&ライというキーワード通りソフトですが、それだけで終わらない何かがあります。
???
ソフトなだけなら「ブラックニッカクリアブレンド」と同じで特徴のないお酒になりますが、もっと締まった味わいです。

ネットで「ほろよかブレンド」を調べてみると次のような記事をみつけました。
=====
ヘビーユーザー向けのリキュールがニッカウヰスキー㈱から1992年11月中旬新発売された。
「ラム&ライほろよかブレンド」で、同品は同社が行った過去三年の調査で、そのコンセプトが固められた。
調査ではウイスキー好きな点の上位に挙がったのは①コクと香りがある②ゆっくり長時間飲める③悪酔しない‐‐などであった。
その結果をもとに同社では「やわらかく、気持ち良く酔える、変にお腹の張らない、それでいてゆっくり長く、落ちついて味わえる酒」の開発に取り組んだ。
この結果、新製品は「ラム」と「ライスピリッツ」という素材を厳選し、bMで長時間熟成、最終的にバーボンでも高品質化技術として使用されるチャコール・メローイングを行うことにより磨きをかけた、まろやかな味わいのなかにも後味にキレのある酒となった。
=====

なるほど、チャコール・メローイングによる後味のキレですか、分かったような分からないような・・・。
とりあえず、まろやかでかつ後味にキレがあるお酒という言葉に間違いはないようです。
スピリッツといえどもバカにできない美味しい仕上がりです。
さすがはニッカさん。
こういう低価格帯の製品でもなかなかやりますね。

ちなみにいつも晩酌で竹鶴や余市、ピュアモルトのシリーズに大容量のボトルがないことを嘆いていますが、今回の「ほろよかブレンド」には2.7Lボトルがあるそう。
鞍替えする気はありませんが、うらやましい・・・。

話は変わりますが先日当ブログで「フロム・ザ・バレル」を味わったと書き、今回「ほろよかブレンド」を味わうまでの間に、実はもう1本別の銘柄を味わいました。
それは「ザ・ブレンド・オブ・ニッカ」。
重厚かつシンプルなデザインのボトルに収められたブレンデッドウイスキーの名品です。
「ベスト・ジャパニーズ・ブレンデッドウイスキー」である「フロム・ザ・バレル」に負けない美味しさでした。
どちらもモルトの力強さが全面に出ている味わいに大満足です。
ピュアモルト、シングルモルト、ピュアモルトばかり飲み続けてきたため、ブレンデッドウイスキーを下に見る悪い癖が付いていたようです。
ブレンデッドウイスキーだってブレンダーが美味しさを求め、苦労して作り上げた作品。
美味しいに決まっています。
下に見るなんてとんでもない勘違い。
これまで努力を続けてきたニッカのブレンダーチームにお詫びしなくてはなりません。

久しびりに読んだ「ザ・ブレンド・オブ・ニッカ」の紹介文は次の通りでした。
=====
モルトウイスキーを主体にした「モルトベース」の贅沢なブレンデッドウイスキーです。
グレーンウイスキーではなくモルトウイスキーをベースにすることで、ブレンデッドでありながらモルトの個性を楽しめるウイスキーをつくりあげました。
味や香りといったモルトウイスキーの個性と、軽やかなグレーンウイスキーの飲み口の良さが味わえます。
=====
モルトの豊かな味わいとグレーンウイスキーの飲みやすさを両立したモルトベースウイスキー。
芳醇な香りとスムースな口当たりです。
1986年発売開始 660ml 45度
=====

思い出しました。
私は確かに竹鶴17年のファンであり余市10年のファンですが、それよりも何よりもニッカウヰスキーのファンなのです。
これからは考えを改めてブレンデッドを含めたいろいろな銘柄を積極的に味わうことで、ブレンダーチームの腕前を称賛し続けたいと思います。

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お気に入りその866~ファーブル昆虫記

2014-02-19 12:25:32 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「ファーブル昆虫記」です。

今更ながらですが「ファーブル昆虫記」を読み始めました。
1991年に集英社から発行された少年向けシリーズ全8巻です。
奥本大三郎が翻訳しています。
以前ご紹介した「ダーウィン先生世界航海記」全5巻と同じ集英社の少年向けシリーズで、見慣れた水色の装丁です。
(訂正 「ダーウィン先生世界航海記」は平凡社発行でした。似ていますが集英社発行ではありませんでした。)
10歳の子どもから大人までを対象としており、解説や図版が豊富でとても読みやすいです。
ちなみに今回は妻の蔵書なので、買わずに済みました。

このところ横山光夫著「日本蝶類図鑑」の詩情溢れる名解説が忘れられず、いろいろ古い図鑑に手を出していました。
しかし望んでいる名解説にはなかなか巡り合えず、北隆社の原色少年図鑑シリーズ3冊でかろうじて多少やわらかい解説に出会えた程度でした。
理想としては「見事な手仕事による博物図版」と「詩情溢れる名解説」が一体となった図鑑を探し求めているのですが、なかなか巡り合えません。
仕方なく図鑑のジャンルを離れ、単に名文を味わうため、串田孫一の「わたしの博物誌」に手を出したりしていました。

そうこうしている内、ネットで「詩情あふれる」「昆虫」をキーワードに検索すると、「ファーブル昆虫記」が先頭に出てくることを知りました。
そう、昆虫に関する詩情あふれる文章を読みたければ有名な「ファーブル昆虫記」があるではありませんか!
しかも妻の本棚に。
図鑑ではありませんが、かなり近いジャンルで、求めていた名文に出会えそうです。
「ファーブル昆虫記」には複数の訳者がいますが、これについてはすぐに奥本大三郎に決めました。
奥本大三郎といえば、小学1年生のクリスマスにプレゼントされた「ファーブル昆虫記」で昆虫採取にはまり、果ては「ファーブル昆虫記」を翻訳するためにフランス文学者になったとも言われている人。(真偽のほどは不明ですが・・・)
そんな人が子ども向けに翻訳した「ファーブル昆虫記」ならば、本家ファーブルの文章をより輝かせているに違いない!
期待に胸を膨らませながら読み始めました。

第1巻はスカラベ(糞虫)。
今は半分くらい読み進んだところです。
ここまで読んで気付いてしましました、本書と完訳「ファーブル昆虫記」の違いを・・・。
本書は少年向けにするためにファーブルが主人公の物語形式にしています。
ファーブルが地元の子どもたちや牧童、息子などに協力してもらいながら実験や観察を続け、スカラベの謎を解き明かしていく様子が描かれています。
ということは本書は奥本大三郎の言葉で語られており、完訳版のようにファーブルの言葉で語られていないということ。
ファーブルの詩情あふれる文章を読みたいのなら、完訳版を選択するべきでした。
・・・でも奥本大三郎が子どもたちに語りかける文章は限りなくやさしく、これはこれで魅力的。
またファーブルをこよなく愛する奥本のことですから、ファーブルの美しい表現を生かしつつ書くのは当然でしょう。
という訳で、このまま全8巻を読み続けたいと思います。

最後にここまで読んできてスカラベの生態について面白かった話を2つご紹介します。

スカラベは栄養が少ない糞(ふん)を食べるため、大量に食べなくては必要な栄養を摂取できません。
ファーブルは12時間も食べ続けるスカラベを観察しています。
その間、スカラベは食べながら自身も黒くて艶のある糞をし続け、12時間後に測ったその長さは2m88cmにも達したそうです。

スカラベにはオスメス共同で糞玉を運ぶ種類がいます。
オスメスが共同で糞玉を作り、運び、巣穴を掘ります。
巣穴に糞玉を納めるとオスはメスを巣穴に残し蓋をします。
メスは巣穴の中で糞玉の最後の仕上げを行い、卵を産み付けます。
すべてが完了しメスが巣穴から出てくると、待っていたオスがどこからか出てきて、再び2匹は糞に向かうそうです。




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お気に入りその865~ながい旅

2014-02-17 12:32:11 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「ながい旅」です。

大岡昇平著「ながい旅」を読みました。
東海軍司令官 岡田中将の戦犯裁判「法戦」を克明に描いた作品。
・・・といってもほとんどの方は何のこと?と思うでしょうから、内容紹介を引用します。

=====
第二次大戦中、空爆を行った米軍搭乗員の処刑を命令した容疑で、B級戦犯として起訴された東海軍司令官 岡田資中将は、軍事法廷で戦う決意をする。
米軍の残虐な無差別爆撃を立証し、部下の命を救い、東海軍の最後の名誉を守るために。
司令官として、たった一人で戦い抜いて死んだ岡田中将の最後の記録。
『レイテ戦記』を書き終え、戦争の総体を知った大岡昇平が、地道な取材を経て書き上げた渾身の裁判ノンフィクション。
=====

ノンフィクション・ノベルは吉村昭や新田次郎で随分読みましたので、物語仕立てに再構成したものと思っていましたが、本書は違いました。
「どの資料にどう書いていて、著者はどう思った」という書き方で書き進められていたのです。
ちょうど「こんな夜更けにバナナかよ」で「関係者はこう言っていた」「こういう出来事があった」「著者はこう思った」という書き方で書き進めていたのと同じ。
こういうのをルポルタージュというのかな。
「ながい旅」のこの様式は何だか読みづらかったです。
著者がこの様式に慣れていなかったのでしょうか?
物語風に再構成してもらったものを読みたかったです。

内容については以前、当ブログでご紹介した本書の映画化作品「明日への遺言」と同じで、目新しいものはありませんでした。
一般的に映画は、原作の一部分しか映画化できないため、原作の主だったエピソードであってもカットされていて残念に思うことがあります。
でも今回の作品ついては、映画の方が優れているように感じました。

映画は、ほとんどのシーンを法廷という閉鎖された空間で展開されるドラマとして描いていましたが、被告席と傍聴席に分かれ語り合うことが許されない家族同士の隔たりや、目と目で語り合う静かな時間で日本らしい情感を実にうまく表現していました。
そして「武士道を体現した美しい日本人の生き様」を伝えることに力を集中していました。

今回、もっと詳しく岡田中将の生涯を知りたいと思い原作を読みましたが、単なる枝葉末節と思える内容ばかり多かったように思いました。
ボリュームがあるばかりに岡田中将の生き様がぼやけていました。
期待していただけにまことに残念でした。

逆に言うとそれだけ映画監督が優れていたということでしょうか?
小泉堯史監督は今回「蜩の記」を映画化するそうです。
これも「明日への遺言」と同様「武士道を体現した美しい日本人の生き様」を描いた原作の映画化。
きっと素晴らしい作品に仕上げるのでしょうね。
10月に公開されるそうで楽しみにしています。
たまには映画館で良質の映画をゆっくりと観たいもの。
それにぴったりの予感がします。




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お気に入りその864~竹鶴政孝パート223

2014-02-14 12:30:00 | 竹鶴
今回のお気に入りは竹鶴政孝パート223、古いショットグラスです。

先日、ネットオークションでショットグラスを落札しました。
6個セットで木箱に入っています。
蓋の内側には大きく「NIKKA WHISKY」の文字が入っています。
かなり古そうです。
箱にグラスの取扱説明書が入っていたので全文引用します。

=====

「クリスタルガラスについて」

鉛クリスタルガラスは最高級のガラスです。
銀鈴のような美音、水晶のような透明度、輝くばかりの光沢は静かな重量感とともに、比類のない特性です。
先年、現エリザベス英女王の御成婚のとき、アメリカやスエーデンの元首から鉛クリスタル製品がプレゼントされたことは御存知の通りです。

ライムクリスタルガラスはボヘミアンクリスタルガラスの名で海外で有名な高級無色ガラスで、やわらかい透明度が持味です。
普通のガラス(ソーダガラス)はだんだんと曇ってゆく欠点があるのに対して、ライムクリスタルは「曇らないガラス」と愛称されており、変質しない特性を持っております。気の利いた実用品としてもっとも良いガラスでしょう。

セミクリスタルガラスは高級色付ガラスで、豊かな光沢とあざやかな色調を持っております。
変質しないことはライムクリスタルと同様で、普通の色ガラスの遠く及ばない特性です。食卓に又室内装飾にうるおいのあるニュアンスをおもとめの場合に好適のガラスと思います。

マークは本カード別面のものを左の区分により使用しております。
 角型金シール 鉛クリスタル製品
 扇型金シール ライムおよびセミクリスタル製品

弊社は昭和9年創業以来、日夜クリスタルガラスに専念して参りました結果、工芸品をはじめ一般作品のかずかずは優に世界に水準をゆくものと内外の賞賛を頂いておりますことは皆様の御愛顧の賜と感謝しております。

御手入が皆様のクリスタルをいつも新品同様に保ちます。良質の石鹸を使い、やわらかな木綿でよく拭いて、乾いた場所に保管して下さい。

東京都大田区西六郷1丁目7番地
株式会社 各務クリスタル製作所

=====

ゴールドニッカや初代スーパーニッカのボトルを制作した各務クリスタル製作所の製品です。
透明のショットグラスに扇型金シールが貼ってあります。
ということは取説によるとライムクリスタル製のショットグラスということ。
中央から底に向けて7面カットしています。
カット面を光にかさずと1面1面削りムラがあったり、ガラスに気泡が入ったグラスがあったりと、手作り感がいっぱいです。
古いモノってこういうアバウトなところが好きです。
最近はストレートを控えていましたが、これで一杯というのも乙なものです。

ところでこのグラスセットはいつ制作されたのでしょう?
少々調べてみました。

①株式会社各務クリスタル製作所
 各務クリスタル製作所は1934年(昭和9年)に創業され、1948年(昭和23年)に株式会社になりました。
 その後、1985年(昭和60年)にカガミクリスタルになりました。
 
②エリザベス英女王の御成婚
 1947年(昭和22年)

③東京都大田区
 この住所ができたのは1947年(昭和22年)です。
 
④ゴールドニッカ
 1955年(昭和30年)に各務クリスタル製作所がセミクリスタルボトルを制作しました。
 丸いボディの下部4分の1を12面カットしています。

⑤リーフレット(グラスの取説)
 オールド各務クリスタルという検索キーで調べると、リーフレットは5種類あることが分かりました。
 販売時期により、戦前A、戦前B、戦後A、戦後B、戦後Cに分かれていました。
 それによると今回のリーフレットは戦後A。
 ただ戦後Aのリーフレットが、いつまで使われたのかは分かりませんでした。

①~⑤を検討した結果、ショットグラスセットはゴールドニッカの販促品だったのではないかと推定しました。
その理由は次の4つ。

理由① どちらも各務クリスタル製作所の製品。

理由② 丸いボディと下部の多面カットがお揃い。

理由③ 高価な販促品は高価な製品とセットだと思われる。

ゴールドニッカは当時2000円で販売されていました。
現代に物価換算すると28000円もしたことが分かりました。
当時のニッカ製品の中では飛び抜けて高価でした。
各務クリスタル製作所のショットグラスセットという高価な販促品が似合いそうです。

理由④ ゴールドニッカはストレートが美味しかった。

以前ゴールドニッカを味わったときの印象は「少し余市モルトを多くした竹鶴12年」というものでした。
だからこそ、ショットグラスをプレゼントし、ストレートで味わって欲しかったのではないかと考えました。

ゴールドニッカとショットグラスセットを結びつけた理由は以上の4つですが、反面少し気になる点もあります。
取説の「先年、現エリザベス英女王の御成婚」という言葉です。
エリザベス英女王御成婚とゴールドニッカ発売には8年ものズレがあります。
「先年」という言葉は8年も前の出来事にも使ってよいのでしょうか?
「数年前」というイメージを持っていたのですが・・・。
でも広辞苑には漠然と「以前の年」の意味とあり、特に年限をうたっていなかったので、渋々納得しました。

今回の件は、ニッカウヰスキーにもカガミクリスタルにも問い合わせしていない勝手な推定。
ニッカファンとして竹鶴政孝が元気な頃のニッカウヰスキーに思いを馳せながら推理を楽しみました。
なお、もし正解を知っている方がいらっしゃいましたら教えていただければ幸いです。



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お気に入りその863~サイン本

2014-02-12 12:22:14 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、サイン本です。

お気に入りの作家のサイン本が何冊か手元にあります。
目の前で著者に書いてもらったのは1冊だけで、あとは古書店やネットオークションで入手しました。

著者のサインを鑑賞したくて入手したのは次の作家たち。
池波正太郎、串田孫一、荒俣宏、北杜夫。
どの作家の作品も大のお気に入りで、愛読しています。
作家たちの筆跡には人柄がにじみ出ているように感じます。
例えば池波正太郎は几帳面に丁寧に文字を書いていますし、串田孫一は柔らかく美しい文字を書いています。
また荒俣宏はスケールやパワーを感じさせる大きくて力強い文字を書いています。
北杜夫はというと純文学を書く人ってこんな字を書くのだろうなというおとなしい文字を書いています。
こうして作家のサインに触れて人柄を感じることは、今後作品を読む助けになる気がします。

またサイン本とは知らずに入手したのは永井路子です。
これまで「天平の甍」を含め、鑑真について書かれた本を何冊か読んできました。
あるとき鑑真の日本到着後を描いた「氷輪」という作品があることを知り、購入したところ偶然サイン本でした。

「わが友いもむし 日本産スズメガ科幼虫図譜」という図鑑を購入したところサイン本だったということもあります。
著者の松浦寛子は作家や研究者ではなく、趣味のいもむし本を自費出版したので全冊サイン本の可能性もあります。

実際に著者にサインしてもらったのは次の1冊だけ。
プロカメラマン大西暢夫の著作「津波の夜に~3.11の記憶」。
東日本大震災の講演会に参加したときに、講師の著作を購入しサインをしてもらったのです。
本の印税が被災地支援に使われるそうで、寄付代わりに購入しました。
臨場感あふれる写真と被災者の生の声が聞こえる文章が衝撃的な著作でした。

札幌には郊外型の巨大書店があり、ときどき作家がサイン会を開いています。
我が家のように中心部から離れた地に住んでいても、その気になればサイン本が入手しやすくなりました。
最近では直木賞作家 桜木紫乃のサイン会が開催され、しばらくの間、サイン本が並んでいました。
お気に入りの作家ではありますが、サイン本まではいらないので購入しませんでしたが・・・。

今、サイン本を購入して筆跡を見てみたいと思うのは、若い頃たくさん読んだ星新一くらいでしょうか。
無理やり集めようとは思いませんが、何かの機会に見かけたら購入するかもしれません。

ちなみに池波正太郎と串田孫一のサインは、ときどき思い出しては眺めていますが、人柄がにじみ出ているようでとても気に入っています。
まさに「文字は人なり」という言葉通り。
おっと、自分の文字を思い浮かべて寒気がしました。
ニンテンドーDSの「美文字トレーニング」を再開した方が良いかもしれません。


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お気に入りその862~駅馬車

2014-02-10 12:33:05 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、映画「駅馬車」です。

池波正太郎著「映画を見ると得をする」で絶賛していた映画です。
妻と雪まつりに行くつもりでしたが、町内排雪日で車が出せなかったので、日を改めることにしてこの映画DVDを観ることにしました。

「駅馬車」は1939年の作品。
監督ジョン・フォード、主役ジョン・ウェイン。
75年前の作品だけあり、当然モノクロ&モノラル。

冒頭のアパッチ襲撃報告と駅馬車に乗り込んだ一癖も二癖もある面々がドラマの広がりを期待させます。
その面々とは以下の9人。
 婦人会によって町を追われた夜の女ダラス
 アルコール中毒でやはり町を追われた医者ブーン
 はるばるバージニアから騎兵隊員の夫を訪ねる妻ルーシー
 5人の子持ちの酒商人ピーコック
 ルーシーの護衛を買って出た賭博師ハットフィールド
 大金を持って逃亡した銀行家ゲートウッド
 敵討ちに向かう脱獄囚リンゴ
 保安官カーリー
 御者バック

アパッチ襲撃の報により、騎兵隊が駅馬車を次の中継地まで護衛してくれ、そこで次の隊に引き継ぐはずでしたが、その隊は出払っていていませんでした。
護衛がいなくなった駅馬車は自力で目的地を目指しますが、案の定アパッチの襲撃を受けます。
男たちは銃を手に勇敢に戦いますが、弾切れで万事休す・・・と思った瞬間、騎兵隊が戻ってきてくれて助かります。
こうして何とか目的地に到着した後、リンゴは敵討ちを果たし、ダラスとともにメキシコに旅立ちハッピーエンドで終わります。

簡単に言うとこんなストーリーですが、その間に挿入されているエピソードのひとつひとつが良いスパイスになっていて面白さがアップしています。
そのエピソードをいくつかご紹介します。
・騎兵隊員の妻ルーシーは皆から顔色が悪いと心配されますがそれは妊娠していたためで、ついに中継地で産気づき出産します。
 その際、アル中の医師ブーンは濃いコーヒーを何倍も飲んで酔いを醒まし、母子の命を救います。
・銀行家ゲートウッドは逃亡を急ぐあまり出産直後の母子をないがしろにする発言をします。
 そのとき酒商人ピーコックが子だくさんの経験から母子を守る主張をします。
・リンゴが敵討ちに向かう際、保安官カーリーは、敵は3人で勝ち目がない上、弾切れだろうと声をかけます。
 リンゴは帽子に隠していた3発を見せて、銃を受け取ります。とても格好良いシーンです。
・リンゴは無事に敵討ちを成し遂げダラスの元に戻ってきますが、そのときには1年の懲役を覚悟していました。
 ところが保安官と医者は二人を馬車に乗せメキシコに旅立たせます。
・そのとき保安官が小石をぶつけて馬を走らせるシーンは、アパッチに追われ駅馬車ごと川を渡るシーンでも出てきました。
 共に戦った仲間を見送るという気持ちを表した良いシーンだと思います。
・またリンゴとダラスを見送った後、保安官が医者に「一杯おごるよ」と声をかけ「一杯だけな」と返すシーンがあります。
 医師の自信と再出発が暗示されている良いシーンです。

さすがに池波正太郎が絶賛していただけある映画です。
たくさんの伏線でストーリーを膨らませて、見事なドラマに仕上げています。
古い映画だからといって甘く見ていると足元をすくわれる、まさに名作です。
この映画は二度目も面白く観ることができると思います。
その後の展開を知ってから観るとひと味もふた味も違うでしょうね。
近いうちに是非観ようと思います。

順番が逆かもしれませんが映画紹介文を引用します。
=====
西部劇のバイブルと言われる、アメリカ映画史に燦然と今も輝く金字塔。
ジャンルとしては西部劇だが実際には駅馬車に乗り合わせた人々の人間模様を描きつつ、終盤にはアパッチ襲撃と決闘という二つのクライマックスが待ち構えるという風に、99分という短い時間の中に映画の全てが込められている。
=====

なるほど、やはりそうでしたか。
まさに映画好き必見の1本。
池波正太郎のおかげで観ることができて本当に幸せです。
映画好きの息子に早く教えたいです。

最後に。
「映画を見ると得をする」では他にも多くの映画の題名が出てきましたが、「アラビアのロレンス」と「赫い髪の女」が印象に残りました。
この内、残念ながらレンタルしていたのは「アラビアのロレンス」だけでした。
DVD2枚組の大長編。
一度に観るとするといつになるか分からないので、小分けにして観ようと思います。
NHKの朝ドラを何シリーズもまとめて観たのから比べたら楽勝です。



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お気に入りその861~博物学の時間

2014-02-07 12:32:15 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「博物学の時間」です。

青木淳一著「博物学の時間」を読みました。

内容紹介を引用します。
=====
昆虫採集、天体観測、化石の発掘……子どものころの心ときめく経験は、じつは「博物学」という魅力的な世界への入口だった。
博物館と大学で永年にわたり博物学の研究・教育に携わってきた博物学者が、そのおもしろさを熱く語り尽くす。
アリストテレスの時代から未来へと受け継がれるサイエンス。
=====

著者は学生時代に読んだ本で「ササラダニ」が「甲虫のように美しく、ほとんど研究されていない」ことを知りました。
「これだ!」と思った彼は、教授に無理を言ってササラダニを研究させてもらいました。
そしてすぐに新種を発見。
お礼の意味を込めて教授の名をつけましたが、オニダニだったため嫌がられたというエピソードがあります。

その後定年まで精力的に研究し続け、数百の新種を発見したそうです。
全ての生物を含めて新種発見数では日本のベスト3に入るそうです。

そんな著者の著作を初めて読み、その業績も初めて知りました。

本書はかなり前に購入していたため、どうして本書を知ったのか記憶が定かではありません。
ノンフィクション書評サイトHONZを確認しましたが紹介されていませんでした。
北海道新聞の日曜の書評コーナーで知ったのかもしれません。
いずれにしても元昆虫少年であり、博物学を愛する者としてとても面白く読みました。

【主要目次】に沿って面白かったエピソードや感想を書きます。

第1章 博物学を楽しむ――大自然に学ぶサイエンス
 自然史、博物学とは / 博物学の楽しさ / 役に立たない博物学の意義 / 日本の自然

 何事も基礎が大切。
 先端科学ばかり脚光を浴びるが、それを支える基礎研究をないがしろにしてはいけない。
 博物学はもう役に立たないといわれ、大学は実践的な研究ばかり。
 それにかわり博物館の学芸員が多忙な業務の中、基礎研究を続けていると著者は書いている。
 国立大学でさえ実践的な研究以外に予算をもらえない今の制度は間違っていると思う。

第2章 名前をつける――生物のラベリング
 生物の呼び名 / 世界共通の名前、学名 / 生物の種類 / 生活のなかの分類学

 生物の研究は名前を付けることから始まる。
 おそらくは全ての生物の中で名前が付けられているのは1%程度。
 99%の生物に名前がない?
 ということは、99%の生物がまだ研究されていないということ。
 生物界の全てを知る日は来るのだろうか?

第3章 生物を分類する――博物学の仕事
 分類のための図鑑と文献 / 種の同定依頼 / 新種の発見 / 博物館の役割

第4章 生物を採集する――趣味から研究へ
 採集の楽しみ / 子どもの虫採り / 趣味の採集 / アマチュアの貢献

 昆虫は子どもが採ったくらいで絶滅しない。
 子どもの虫採りは博物学に通じるので応援してほしい。

 専門家は専門知識に縛られている。
 生物の分布範囲以外は調査をしない。
 専門知識を持たない素人が意外な所で意外な発見をするのは、そのため。
 ナルホド、先入観念はホドホドに、ということ。

第5章 分布を調べる――生物地理の視点
 生物地理区 / 分布境界線 / 生物分布図の作成 / 垂直分布 / 島の生物

 屋久島が最も魅力的な垂直分布の研究フィールドだそう。

第6章 野外へ出る――北のフィールドへ
 美ヶ原で初めての新種発見 / 日光の森とダニ / 森の地面のマイクロハビタート
 / 志賀山の森でのIBP研究 / 皇居のお化けヒル / 樹上に住むササラダニ
 / 北海道ポロシリ岳での命拾い

 皇居で90cmもあるお化けヒルを発見したエピソードは面白かった。
 国内新発見を専門家の誰もが疑い、それを契機に次々発見されたのも不思議な話。
 北海道での命拾いエピソードもすごい。
 ヒグマに襲われた話、全国各地への帰路についた研究チームの誰もが墜落便に乗らなかった偶然など。

第7章 野外へ出る――南のフィールドへ
 屋久島の海岸から山頂へ / 小笠原諸島のアフリカマイマイ / 幻の虫、サワダムシ
 / 南海のユートピア、トカラ列島 / アリの巣の同居人 / 真鶴海岸のツツガムシ
 / ダニに喰いついた男

 アリの巣に飼われているダニの話。
 アリが日々エサを届けてくれ、丸丸太っている。
 産卵の手伝いをしてくれる。
 有事の際には我が子より先に避難させてくれる。
 これはアリがこのダニを非常食として大切にしているからだそう。
 社会性昆虫だけにまるで人間のように家畜を飼っている。
 こんなに面白い話なのに、かつて読んだ「アリの巣の生きもの図鑑」には出ていなかったように思う。
 なぜでしょう?

第8章 博物学を伝える――ナチュラルヒストリーの未来
 科学の土台 / 標本と文献は国家の財産 / 後継者の育成 / 分類学者の最期

 研究者は後継者を育成し研究を引き継がせることが大切と訴えている。
 貴重な研究や資料が研究者の死により消え去ることが多いそう。
 それを防ぐためには公的なフォローが必要であり、その仕組みを構築することが公的な利益になると思う。

本書を読んで過去の学問だと思っていた博物学がいまだに大切な分野であることを知りました。
高名な学者が基礎研究の大切さを訴えることはとても大切なことです。
企業も大学も予算がないばかりに基礎研究をないがしろにしています。
薄っぺらな研究ばかりでは未来は心細い。
国はせめて国立大学の基礎研究だけは予算をねん出し続けるべきと思います。
技術立国である日本の未来は、教育と研究が創りあげるものと考えます。

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