鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその2203~腸内細菌が家出する日

2023-02-27 12:33:47 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「腸内細菌が家出する日」です。

「あなたの体は9割が細菌」に触発されて腸内細菌に関する本をもう一冊読みました。
お気に入りの寄生虫学者・藤田紘一郎先生の著書「腸内細菌が家出する日」です。
2016年7月発行ですから「あなたの体は・・・」とほぼ同時期の発行です。
「あなたの体は・・・」以降の最新知見ではなく、長年、寄生虫や細菌との共生を研究してきた先生の見解を知りたかったのです。

内容紹介を引用します。
=====
今、あなたの体内から「腸内細菌」が家出している!
自然界との共生を忘れた人間たちに襲い掛かる自然からのシッペ返し。
腸内細菌、サンゴ、ミツバチ・・・。
3つの家出から、傲慢になった人類に起こっている逆転現象を読み解く。
・人類は健康を求めて努力しているのに、うつ病やアレルギーなどの病気が急増しているのはなぜか?
・“家出”を思いとどまってもらうため、私たちはどうしたらよいのか?
etc.
健康と人生を、意外な視点から見つめなおす、キセイチュウ博士渾身の書き下ろし。
家出を防げれば、健康も人生も思いどおりにいく!

――腸内細菌は、もう一人の私だった! ――
私たちの体は37兆個の細胞でできているとされていますが、私たちの腸の中には体細胞の27倍近い数の細菌が棲みついています。
遺伝子数だけでなく細胞数からみても、腸内細菌は「もう一人の私」なのです。
そして、それらの細菌の多くはヒトの腸でしか棲むことができないため、私たちが病気にならないよう、長く生きられるようにいろいろ工夫しています。
→そんな腸内細菌が家出してしまったら…
=====
目次
第1章 私を操っているのは誰?(「クサイ、キタナイ、キツイ、キモチワルイ」4Kの青春;「まとも」な道を踏み外したワケ ほか)
第2章 宿主をコントロールする寄生生物(アリの脳を支配する槍型吸虫;サナダムシになくて槍型吸虫にあるもの ほか)
第3章 腸内細菌は「もう一人の私」だった(腸内細菌の素顔がみえてきた;運命、健康、行動も腸内細菌が握っている!? ほか)
第4章 あらゆる病気も腸内細菌しだい(あなたの腸内細菌を決定するものは何か;選ばれし4種類の腸内細菌たち ほか)
第5章 腸内細菌が家出する日(海のお花畑が消えていく…;グレート・バリア・リーフに迫る危機 ほか)
=====

本書は先生自身の研究生活を振り返ることから始まります。
若い頃、トキソプラズマという細菌を研究していて注射針を自分の指に刺す失敗から自らも感染。
それから性格が変わったそうです。
元々はおとなしくて慎重な性格だったのに、妙に楽観的な性格に変わってしまい、寄生虫学を研究することになったそうです。
親からは寄生虫学をやるなら勘当だと言われ、教授からはトランプばかりしていたため研究室から追い出され、
アメリカの研究機関が奇跡的に拾ってくれたおかげで今があるそう。

その後は寄生虫の研究に没頭する訳ですが、早くから寄生虫が全て悪ではなく、寄生虫と共生することが利益を生む場合もあることを主張していました。
自身もサナダムシを体内に飼っており、ダイエットだけでなく、花粉症やアトピーの予防にも効果があるそうです。
そんな博士ですから腸内細菌との共生にも精通しており、自身の古くからの主張が補強されてうれしかったと思います。
世界中でいろいろ研究が進められ、新たな発見が相次いでいることを報告しています。
結局、腸内細菌は指紋のように人それぞれ異なり、自分の腸内細菌を守ることが健康を保つ上でとても重要だと述べています。
そして「酢タマネギ」のレシピを載せ、これを毎日摂ることで自衛できると提案しています。
これこそ「あなたの体は9割が細菌」に欠けていた大切なピースです。
危ない! 気を付けろ! と声をかけるだけでなく、どういう対策をすれば良いかを身近な例で紹介してくれるのは、さすが藤田博士です。
これを知っただけで読んだ甲斐があるというものです。
高コレステロール、高血圧、糖尿病などで定期的に病院に行っている知人が何年も前から酢タマネギを食べていることは知っていましたが、普通の人が腸内環境を整える上でも効果があるのですね。
早速やってみようと思います。

なお本書ではさらにサンゴの白化現象やミツバチの失踪事件にも触れています。
サンゴは褐虫藻と共生してしており、サンゴがプランクトンを食べた後の排泄物を褐虫藻が栄養として吸収し、褐虫藻が光合成で得た栄養をサンゴが吸収しています。
地球温暖化で海水温が褐虫藻が耐えられない温度まで上がることで、褐虫藻が出て行き、やがてサンゴも死ぬのです。
ヒトも腸内細菌に消化吸収や栄養素生成、雑菌からの防御などを外注しているのですから、腸内細菌に出て行かれては、健康を維持できず、死を早めることになります。
まさにサンゴとヒトは共生生物に生かされている者同士なのです。

そしてミツバチ。
北米で起きたミツバチ失踪事件はまだ記憶に新しいと思います。
博士の見解は、ミツバチの腸内細菌に変化があったことが失踪の原因だというのです。
ミツバチによる果物などの受粉は必要不可欠な作業です。
博士はアーモンドを例にして説明していますが、米国のアーモンド農家の受粉作業は規模が大きく、膨大な数のミツバチが投入されます。
アーモンドが終われば次の作物、そして、また次へとミツバチは大忙し。
あまりに蜜や花粉の種類が偏り過ぎたためミツバチの腸内細菌が大きく変化してミツバチの健康を保てなくなったと推察します。
ナルホド、毎日ラーメンばかり食べていて病気になったということですか。
一理あるなと思いました。

ここで本書を読んで良かったと思うことをもう二つ挙げて終わりたいと思います。
一つ目は「本当の自分」などいないということ。
いるのは細菌と共生している自分だけ。
ヒトの細胞数と遺伝子数をはるかに超える細胞数と遺伝子数をもつ腸内細菌はヒトの性格まで左右するもう一人の自分といえます。

二つ目はヒトの進化についてです。
ヒトの腸内細菌はチンパンジーよりかなり多いそうです。
腸内細菌が自分で消化できないものを消化したり、自分で生成できない栄養素を生成してくれるため、ヒトは余力ができて脳を発達させることができたというのです。
ヒトへの進化の秘密が腸内細菌にあるというのは新たな見解ですし、とても説得力があります。

藤田先生、たくさんの新たな知見をお教えいただきありがとうございました。




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お気に入りその2202~牧野万葉植物図鑑②

2023-02-24 12:29:03 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、牧野万葉植物図鑑②です。

『鮮烈な着色図「万葉植物図」全点掲載!』というコピーに惹かれて購入した「牧野万葉植物図鑑」。
毎日少しずつ鑑賞し、読み終えました。

ここでは112種の万葉植物のあれこれを自分へのメモとして書き残します。

・アキノカ
 マツタケのこと。
 秋に香りを楽しむことからそう呼ばれた。
 博士は傘が開いていないマツタケの図が一般的なことに不満を持ち、それでは半開きの
 花だけを見せるのと同じだと批判した上で、開き始めと全開の図を重ねて描いてみせた。

・アサガオ
 万葉集に登場するアサガオはキキョウのことだそう。
 諸説あるそうだが、日本最古の漢和辞典にそう書かれているので信頼できる筋からの
 情報といえそう。

・アジサイ
 紫陽花は「青い花が咲く木」としか判らない謎の木で、アジサイと決めつけることは
 できないそう。
 シーボルトによる学名のotaksaが愛人・滝の名にもとづくことを明らかにしたのは
 博士の功績。

・イモ
 奈良時代は日本で「いも」といえば「さといも」だった。
 ジャガイモやサツマイモは外来種で万葉集のころは無かった。

・ヒノキ
 火をおこすときに使う木という意味。
 伊勢神宮の祭事では今もビワの木をヒノキにこすりつけて火を起こしている。

・マツ
 全ての木を代表する木。
 松竹梅でも最上級を表している。

・ヤナギ
 楊は立っているヤナギ、柳はシダレヤナギ。

・ヨモギ
 蓬は間違い。
 中国では砂漠原を転がる植物を転蓬というなど、蓬はホウキギのことをいう。

・ワカメ
 中国と韓国では昆布はワカメのことをいう。

以下省略。

とにかく博士の知見が読み応えあります。
奈良時代に歌に詠まれた万葉植物たちの正体をあれこれ想像した博士の研究成果を直にお聴きしているような感覚で読みました。
ただ残念だったのは、植物図に博士の手によるものがほとんどなかったことです。
博士が万葉植物図譜のために用意した90枚の植物図は、博士が信頼する画家たちに描かせたものでした。
また追加の22枚は江戸から明治にかけて活躍した絵師たちが描き、博士が気に入って蒐集したものでした。
牧野図に魅力を感じ、博士の図鑑や図録ばかりを鑑賞してきた私にとっては、博士以外の手による植物図は物足りないものでした。
本書に比べ、先日から鑑賞している「精選牧野植物図集」は牧野図100%と満足度が高いため、今回は辛口の感想とさせていただきました。

ただご注意いただきたいのはこの感想はあくまで私個人の好みによるものです。
博士の遺志を継いで全く新たに刊行された「牧野万葉植物図鑑」の価値を貶めるものではありません。
博士が準備を進めていた「万葉植物図譜」をできる限り博士の構想に合わせた様式で、博士の知見を解説に盛り込んで刊行したのですから、その出来には天国の博士も満足していることと思います。
今回、博士が刊行するはずだった幻の図鑑が死後65年もの歳月を経て刊行されたという奇跡を目撃できたことは博士のファンとしてシンプルにうれしかったですし、本書を購入したことに一片の悔いもありません。
こういう素敵な企画を推進してくれた出版元・北隆館さんに感謝を申し上げます。
春からNHKの朝ドラが始まります。
牧野博士の人気に火が着き、北隆館さんの「牧野植物図鑑原図集」「牧野万葉植物図鑑」がたくさん売れると良いですね。




 


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お気に入りその2201~サバイブ

2023-02-22 12:23:28 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、サバイブです。

以前読んだ「LIFE」の続巻「サバイブ 強くなければ、生き残れない」を読みました。
著者はもちろん篠原かをりさん。
前作に引き続き、生き物のウンチクをたっぷり教えてもらいました。

内容紹介を引用します。
=====
【生物学の天才と奇才漫画家が描く、異色のマンガ作品! 】
これまで、長い歴史を刻んできた地球。
その中で、どんな時代も変わらず繰り返されてきた自然界の掟があります。
それは「強くなければ、生き残れない」ということ。
あらゆる生物が、生き残るための強さ(武器)を磨いてきました。
しかし、そもそも「強くなる」とは何なのでしょうか?
「ケンカに負けない力」、「毒などの飛び道具」、「圧倒的なスピード」、「ずる賢しこさ」、「何があっても動じない心」
……ひと口に「強さ」といっても、さまざまな尺度があります。
本書『サバイブ』では、「最強生物」と呼び声が高い古今東西72種の生き物たちを引き合いに、「本当の強さとは何か」を考察していきます。
・ティラノサウルスの3倍の力を持っていたメガロドン…を絶滅させたと言われるシャチのスゴさ
・バク転で走るとなぜか通常の2倍のスピードで動けるクモ
・大型のワニを捕食するアマゾンのカワウソ
・標高4000m越えでも高山病にならないヤクの秘密
・自重の40倍の重量を持ち上げられる美しきチョウの正体
・『X-MEN』ウルヴァリンのモデルとなった小さな暗殺者
・人間を超える脳の質量を持ったネズミ
・なぜか食べられないウミウシの生存戦略
・地球外生命体の可能性を示唆する深海の極限生物
……などなど、息もつかせぬ知識の応酬でお送りする全228ページ!
果たして、強い生き方とはどんな生き方なのか?
=====

ダーウィンは「自然界で生き残るのは力の強いものではなく、環境に適合したものだ」と言いました。
本書に登場する最強生物はどうでしょうか?

メガロドンはホホジロザメと同族で、ホホジロザメよりはるかに巨大でした。
まさに史上最強のサメといえますが、そんな彼らもシャチによって滅ぼされたそうです。
シャチは高度な知性とチームワークを武器に狩りをします。
メガロドンは軟骨魚類のため肋骨が無く、シャチが体当たりを繰り返すことで内臓に致命傷を負うのだそうです。
その技は今もホホジロザメ狩りに使われています。
ということで海の最強生物はシャチということになりそうです。

アマゾン川に棲むカワウソは体長2mでワニも捕食するそう。
知恵と体力を備えており、アマゾン川の食物連鎖の頂点に君臨しています。
以前テレビでアマゾン川のカワウソの子育てを観ましたが、日本のカワウソのサイズ感でうっかり観てしまいました。
親の体長が2mもあり、食物連鎖の頂点に君臨していることを念頭に入れ、改めて観てみたいです。

「X-MENのウルヴァリンのモデルになった小さな暗殺者」って誰?
答えはイタチ科のクズリという体長1mほどの動物です。
大ヒットマンガ「ゴールデン・カムイ」サハリン編にも登場しました。
毛皮が厚いためヒグマの攻撃が通じない上、気性が荒く、鋭い爪と強力な牙でヒグマに立ち向かうことから、最後はヒグマの方が逃げ出すと紹介されていました。
さらに本書ではヒグマより大きなホッキョクグマのエサを奪ったとか、ホッキョクグマを殺傷した記録があることが紹介されています。
サハリンで最も恐ろしい猛獣といわれる理由が判ります。

ウサギの性欲が動物界No.1だってことを知っていましたか?
ネズミと並び、食べられる動物の上位に入るウサギですからネズミ算なみに子どもを増やさなければなりません。
そのための習性が凄いのです。
・オスは発情期になるとメスの周りを走り続け、昇天?するものまでいる
・メスは年中発情期
・お腹に子どもがいるときでも交尾してお腹の子を増やすことができる
・環境や体調が悪くなるとお腹の子を栄養として吸収する
子どもを増やすことに徹していますね。

ハキリアリは30種類もの職種に分かれ分業する高度な社会性を持っているそうです。
職種ごとに体格が違い、兵隊アリが警戒する中、大きな働きアリが木の葉を運び、葉の上では小さな働きアリが寄生バエを追い払う役目を負っているそうです。
さらにキノコを栽培する農耕アリや巣の中を清掃する清掃アリがいるなどしっかりと分業しているそう。
彼らはいつからこんなに高度な分業社会を営んできたのでしょうか?

本書にはもっともっとたくさんの動物について興味深い話が出てきます。
動物好きの方におススメです。
巻末にもう2冊続巻を予定していると書いていましたが、まだ発刊されていないのでボツになった模様。
もし発行されれば必ず読むのになぁ。
とても残念です。

なお、本書を読んでもっと詳しく知りたいと思ったのはハキリアリ。
篠原かをりさんの続巻の代わりにハキリアリの本を読むことにします。




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お気に入りその2200~大相撲②

2023-02-20 12:42:20 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、大相撲②です。

『「大相撲」知ったら面白すぎる70の話』
初場所が終わり大相撲ロス。
気分を和らげるため、本書を読みました。
2017年の発行なので少々内容が古いですが、「大相撲の楽しみ方」がきっと変わります!というコピーに期待しました。

内容紹介を引用します。
=====
両国国技館の中だけで聴けるラジオ「どすこいFM」の実況キャスターが見た、聞いた――知られざる力士たちの素顔、奥深い相撲界の不思議!

◎「気合い」を入れすぎるとどうなるか
◎今日も明日も「ゲンかつぎ」
◎結婚するにも、ひと騒動!?
◎力士が喜ぶ「応援」、困ってしまう「声援」
◎シートベルトの長さが足りない!? さてどうする?
◎食べ終わるのは「お腹いっぱい」でなく「噛むのに疲れた」から!?

強くなるために、ケタ違いのスケールでくり広げられる「驚きの世界」。

「大相撲の楽しみ方」がきっと変わります!

■目次

初日 お相撲さんの朝昼晩
二日目 「相撲界」のしきたり、伝統…謎と不思議がいっぱい!
三日目 「裸」ですけど、ヌードじゃないです
四日目 大相撲「出世物語」―天国と地獄の差!?
五日目 さすが無差別級、土俵は「真剣勝負」!
六日目 なんてったって、「体」を張っていますから
七日目 とにかく「食べる」ことが仕事!!
中日 巨体が生み出す“はてしない世界”
九日目 テレビ中継の「舞台裏」で
十日目 彼らも人の子だった―こんな「素顔」、あんな「胸の内」
十一日目 勝つためには「運」も味方につけないと
十二日目 ジンクス、都市伝説、うわさ…知れば知るほど面白い!
十三日目 親方たちの本音、意外なところにありました
十四日目 「大相撲を支える人々」の人間ドラマ
千秋楽 ごひいきさんもスージョも、「大相撲観戦」の楽しみ方

■著者 下角陽子
=====

大相撲が大好きで、本場所の放送は欠かさず観ますし、特集している番組も観ます。
(ただし翌朝のNHK+で)
それなのに関連本をチェックしていなかったとは片手落ちでした。
本書を読むのが6年も遅れたのは痛恨の極み。

冒頭で1回の洗髪にシャンプー1本を使い切る人がいるとか、どのコンディショナーが良いかが話題になるとかが紹介されていますが、そういう話では大相撲の楽しみ方は変わりません。
もっとお相撲さんのスーパーな部分を紹介して!と思っていたら徐々に出てきました。

飛行機のトイレが狭いため、飛行機で移動する時は水分を控え、トイレに行かないようにしているというのは巨漢ならではの悩みです。
また著者が関係者専用トイレを借りようとしたら「落ちないように」と注意されたという話も面白かったです。
縦横高さ全てが規格外の大きさだったそうで、それからは借りないようにしているそうです。

給料の話は前にも聞いたことがあり、横綱・大関の月給の高さに驚いたものですが、年収で見ると横綱でも1億円に達しないそうです。
プロ野球選手に1億円プレーヤーがゴロゴロいることを考えると、改善すべき点だと思います。

骨のカケラの話は強烈です。
先代・琴の若は現役の頃、膝の水を3日おきに抜いてもらっており、抜いた液には白い粒々が入っていました。その後の診察で半月板が無くなっていることが判ったそうです。
また寺尾が頭部の断層撮影をしたところ、白い粒々が脳脊髄液の中を漂っているのが写っていました。これは激しいぶちかましで頭蓋骨が欠けたカケラなのです。
体のあちこちにテーピングしていることや、土俵生命が短いことは当然の結果ですね。
みな傷めた体と相談しながら相撲を取っていることを実感するエピソードです。
これを知ると確かに大相撲の見方が変わります。

彼らは食べる量も超人的。
ステーキ屋をハシゴしたり、寿司屋の職人が先に音を上げたり。
食べて体を大きくすることも仕事のひとつとはいえ、外食のときはとんでもない金額になることでしょう。

優勝額の大きいことにも驚きました。
タテ3.2m、ヨコ2.3m、重さ80kgという特大サイズなのだそう。
新しい額が飾られると一番古い額は外され部屋に届きますが、大きくて重たいためほとんどは関係先に寄贈されます。
寄贈先の例として、琴欧州は出身の日本体育大学に寄贈しました。
白鵬は枚数が多いため寄贈しきれず、倉庫を借りて保管しているそうです。
なお送料は20万円もかかります。

大相撲の千秋楽は幕内最高優勝の表彰式で終わると思っていたら違うのですね。
何と行司を胴上げするのだそう。
行司を神主に見立て、初日に土俵に降りた神を天に送り返す意味で行われます。

番付表は大きな紙に行司が書き、縮小印刷しているそうです。
1週間から10日かけてじっくり丁寧に書き込み、修正は紙を削って行います。
通は行司による相撲文字の微妙な違いを楽しむそう。
また注目の場所ではすぐに売り切れるそうです。
パソコンが当たり前の時代でも伝統を大切にしているところが素晴らしいと思います。

横綱と対戦した力士や審判部の親方の感想が書いてあり、感心しました。
貴乃花は土俵際で勝負が決まった瞬間の力の抜き方が絶妙で、対戦者は力の差があり過ぎることを実感させられたそう。
土俵下に力士が落ちてくるときは余裕のない状態で落ちる事が多いため大怪我をしたカメラマンもいたそうだが、審判部のある親方は白鵬が猫のようにヒラリと降りてきた姿を見て感心したそう。

本書は「大相撲の楽しみ方が変わる」ことを期待して読みました。
結果は星5つ。
大満足です。
そのいくつかを紹介しましたが他にも面白い話が一杯ありました。
春場所までの場つなぎとして最高の時間でした。

著者の下角さんにはできれば続編を書いて欲しいです。


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お気に入りその2199~定年の教科書

2023-02-18 12:39:03 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「定年の教科書」です。

65歳まであと2年。
私の場合、仕事の引退時期を自分で決めることができるので、その内に考えようと思っていましたが、まだ何にも考えていません。
最近になって具体的に考えた方が良いとアドバイスされ、少々心配になってきました。
保険屋さんは引退年齢を設定して保険料を計算するので、これまではとりあえず70歳と回答していました。
先日アドバイスをくれた方はもっと早く引退した方が良いと言います。
「65歳を過ぎると満額の年金が支給される」くらいしか知識がないので、もっと詳しく知りたいと思い、選んだのが「定年の教科書」です。

内容紹介を引用します。
=====
定年後の生活の悩みのタネとなる「お金」「健康」「生きがい」。
この3つの問題点を三位一体で捉え、解決の要点を教授。
安心・安全の「第2の人生」を送るために必要な知恵と方法がわかる!

「疑問や不安」を抱えたままでは何も解決しません
「老後資金はもっと貯めたほうがいいと思うけれど、どのくらい必要かわからない」
「年金で損をしたくないけれど、しくみが複雑そうで、よくわからない」
「要介護になったときが心配。でも、どんな準備が必要なのかわからない」
「無趣味で、定年後の時間をどうやって使えばいいのかわからない」
「お金の不安」「健康の不安」「孤独の不安」…など、不安は人それぞれ。
しかし、そうした不安に対して、正しい準備をしていますか?
「お金」「健康」「生きがい」は、まったく別々の問題のように思えますが、実際は深く関わっていて、リンクします。
ひとつだけ解決したところでダメな場合もありますし、逆に、ひとつを解決すると全部がクリアされることもあります。

「老後資金・年金」の不安を解消する
・老後の収入はこうして計算する
・老後の支出はこうして計算する
・老後の資産はこうして計算する
・資産寿命を延ばす知恵
・繰下げ受給の制度をうまく使いこなす知恵
・退職のベストタイミングは65歳ではなく「64歳11か月」
・定年前後の手続きしだいで損得が分かれる
・定年後の「健康保険」は4つの選択肢がある
・「不動産」を「負動産」にしていませんか ──etc.

「介護・認知症」「がん」の不安にどう備えるか
・介護保険のしくみ、ちゃんと知っていますか
・「公共型」の高齢者施設の特徴は?
・「民間型」老人ホームの特徴は?
・老人ホーム・介護施設のかしこい選び方
・認知症に潜むさまざまなリスクとは
・認知症と高齢者の金融資産に関する研究
・認知症になっても資産を守れるシステムをつくる
・「がん」のリスクは年齢とともに上がる
・「医療保険」はいつまで必要か ── etc.

老後をバラ色に変える「生き方」とは
・定年後に働く理由はお金のためだけではない
・「よい人間関係」が老後にとっていかに大事か
・定年後のプランは「長期的な視点」で考える
・第二の人生を「トライアンドエラー」で乗り越える
・定年後の人生は自ら考え、自ら行動する
・あなたの中から「老後」をなくそう!
・生前整理は老いてからではなく元気なうちに ── tec.
=====

年金制度の話にたくさんページを割いています。
それだけ複雑だということ。
国民年金、厚生年金、企業年金、年金基金などの違いは何とか分かります。
早めにもらうより遅めにもらう方が月額が増えるのも分かります。
でも自分の寿命が判らない以上、何歳からもらうと良いかは分かりません。
賭け事のようなものです。
結局は自己責任で決めるしかありません。
ただいつまでも手続きをしないと時効になるそうなので注意したいと思います。

定年後の健康保険には4つの選択肢があることは知りませんでした。
どうやら任意継続するのが良さそうです。

病気や寿命は決められませんが定年後の生き方は決められます。
著者の父は定年後に歩く会をつくり、代表や事務局を長く務めたそうです。
趣味から人間関係を広め、大臣表彰までされたそうで、その見事な生き方を見習いたいと思いました。
定年後は旅行に行きたいと多くの人が言うそうですが、1年中旅行をしていられないので、ボランティアや趣味などに時間をむけることを考えましょう、とのこと。
例で挙げていた「男の料理教室に通うと奥様が喜びますよ!」という言葉が心に残りました。
時々しか料理を作りませんが、いつも褒めてくれるので、定年後はもっとレパートリーを増やして褒めてもらおうと意欲がわきました。
そういえば地場大手の販売会社の常務さんが定年後に料理教室に通って基礎を学び、今では奥様が営む民宿の台所で腕を振るっているというのを聞いたことがあります。
また別の大手販売会社の支社長さんは、定年後奥様と花屋さんを始めたそうです。
どちらも素敵な第二の人生です。
自分を顧みると、妻と二人で商売を始めるという考えは全くありません。
まずは親が元気で自分たちの足腰が丈夫な内に旅行をしたいです。
料理教室に通いながら、以前かじった陶芸を再開するのもいいな。
趣味で集めたウイスキーや図鑑、絵本などを整理するのも元気な内にしかできないでしょう。
こう考えたら定年後もしばらくは忙しそうです。
ゆっくりするのは体が動かなくなってからにしましょう。

定年後の人生は思っていたより長そうです。
もう少し現役を続けるか、第二の人生に飛び込むか。
妻と相談しつつ早めに決断しようと思います。




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お気に入りその2198~メーリアン

2023-02-16 12:51:14 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、メーリアンです。

先日「マリア・ジビーラ・メーリアン 蟲愛ずる女」を読み、数多くの美しい図版と彼女の先端科学者ぶりに感動しました。
その感動が覚めやらぬうちに関連本が目に留まりました。

「スリナム産昆虫変態図譜1726年版」

内容紹介を引用します。
=====
世界の昆虫学、植物学、博物学、芸術に大きな影響を与えた史上最高の昆虫図譜
本邦初となる全訳と全72点の図版を収録、最高のキャストが贈る至極のA3判

母国ドイツではお札の肖像画としても採用され、その名を知らぬものはいないメーリアン。
彼女が遺した図譜の中でも最も有名で、最高傑作とされるのが『スリナム産昆虫変態図譜』である。
日本でも荒俣宏が原書を所有し、その図版は彼の書籍でも紹介されている。
本書は製作総指揮を執る白石雄治が所有する非常に状態が良く、彩色の良い1726年版を、黒澤明映画のスチール写真などを担当したイサム高野が撮影、昆虫界の大御所である岡田朝雄と奥本大三郎が解説文を翻訳、装幀を司修が担当。
史上空前のオールスターキャストが贈る原書に近い超大型のA3判による極上の一冊である。
=====

あらら、荒俣先生の所有する原書に近い大型本ですと?
これは興味津々。
でも価格が3万円超えではとても手が出ません。

負け惜しみのように本棚から荒俣宏著「昆虫の劇場」を本棚から取り出して開きました。
これは「スリナム産昆虫変態図譜」を含む昆虫の世界三大図譜を1冊にまとめた本です。
この本にも「スリナム産昆虫変態図譜」の全72図が収録されています。
「スリナム産昆虫変態図譜1726年版」を買えないけれど、全72図を鑑賞したいという方は「昆虫の劇場」を買いましょう。
発行されてから32年も経ちますが、発行部数が多かったようで、今でも古書が入手できます。

なお「スリナム産昆虫変態図譜1726年版」はマリアの死後に娘たちの手により発行された第三版で、その際に初版の60図に12図が加えられたそうです。
ナルホド、図版を楽しむなら初版ではなく1726年版ということですね。

ということで今回は予算オーバーのため我慢、我慢という結果に終わりました。




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お気に入りその2197~さっぽろ雪まつり

2023-02-14 12:52:31 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、さっぽろ雪まつりです。

土曜日にさっぽろ雪まつりが閉幕しました。
せっかくの土日連休なのに土曜で閉幕したのは、雪像解体シーンを見学したいという観光客の声に応え、土曜閉幕・日曜解体というスケジュールにしたのかもしれません。
札幌市民の私でさえ雪像解体は見たことがありません。
確かに一見の価値がありそうです。

今年の雪まつりは昨年一昨年と開催中止となり、久々の開催でしたが、開催規模が一回り小さかったです。
大雪像は迫力に欠け、中雪像、小雪像の数が激減しており、どこの会場もスカスカでした。
例年あったスノボやスキーのアクロバティック・ショーも無し。
北海道のB級グルメを味わうコーナーもありませんでした。
それなのにニュースによると175万人もの来場者があったそうです。
北海道外だけでなく英語圏、中国語圏からも多く来ていましたが、がっかりして帰ったのではないかと心配しています。
来年からは制限が外れて大きく開催するはず。
今年がっかりした皆さん、あれは本来のさっぽろ雪まつりではありません。
勘違いして周りに言いふらさないでください!
来年以降の大迫力の雪まつりにご期待ください。


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お気に入りその2196~ポンコツ一家

2023-02-13 12:13:17 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、ポンコツ一家です。

妻から勧められて、にしおかすみこ著「ポンコツ一家」を読みました。

内容紹介を引用します。
=====
家族紹介。
うちは、母、80歳、認知症。姉、47歳、ダウン症。父、81歳、酔っ払い。
ついでに私は元SMの一発屋の女芸人。45歳。独身、行き遅れ。
全員ポンコツである。
ただ、皆が皆ずっとこうだった訳ではない。
何十年かぶりに、私は実家に戻った。
まずはその理由を、いや長めの愚痴にお付き合い頂けたら、とても嬉しい――。

***
変わり果てた実家。私の知らない母。実家に戻って住もうなどと、その時は夢にも思っていなかったのに。

ローテーブルの上に、割りばしが突っ込まれたままのカップ麺や缶詰、茶色いお惣菜がこびりついたプラスチック容器、半分セメント色したミカン、黒炭のようなバナナの皮等々の食べ残し、残骸が溢れている。ちょっとしたゴミ屋敷だ――。

どんな状況だって、病気だって、「ポンコツ」な人はいない。
でも、愛を持って私は家族を「ポンコツ」と呼ぶ。

***
「どこのどいつだ~い?」「あたしだよっ!」「にしおか~すみこだよっ」
ロングヘアをなびかせ、SMの女王様の格好で行う漫談で人気を博し、エンタの神様にも出演していた芸人・にしおかすみこさん。現在46歳で、髪もバッサリショートヘアにカットしたにしおかさんが「全員ポンコツ」と語る、自分の家族と介護の物語。

ポンコツ一家 目次

1 実家が砂場になっていた
2 記憶力テスト
3 背比べ
4 ヘドロとドロボー
5 疑惑
6 大晦日の大事件
7 一月にクリスマス
8 地域包括支援センターと冷凍マグロ
9 大事な話
10 姉のバタフライ
11 ホタルイカ
12 ママ速報
13 私の大事な話
14 花火とぎゃくたい
15 干支
16 ワクチンで発熱
17 青い花
18 ソワソワ
あとがき
=====

軽く読めるよ!と言われて読み始めましたが、文章は軽くても内容はなかなか重かったです。
特に「にしおか母」がアルツハイマーで家事をしなくなったことは私の父と重なりました。
同じ記憶力テストもやりました。
父も生活面では、日課だった新聞を読まなくなり、テレビも観なくなりました。
あれはアルツハイマーのせいだったのでしょうか。
ただ性格は「にしおか母」のように荒れず、穏やかなままだったので良かったです。

でも読み進むうちに「にしおか母」のあの性格は若い時からだったことを知りました。
認知症になると極端に性格が変わる人がいるそうですが、にしおか家もわが家もそうならずに済みました。

それにしてもにしおか家のおとうさんの扱いが酷い。
パパクソと呼ばれ、家族から相手にされていません。
ただ普通に思える発言をしても家族から非難されるのは、本書に書かれていない別のところに原因があるのかもしれません。
まあ他所の家のことですからとくに詮索する気はありませんが。

取りあえず全部読み終えました。
著者が家族を支えるために家で出来る仕事として物書きを目指していることは分かります。
言葉の選び方に物書きらしさが垣間見えます。
家族の話を書いても悪いことはありません。
現に向田邦子の「父の詫び状」は飛び切りの名作でした。
あとがきに「これを読んで笑っていただければ」と書かれていますが、認知症で忘れたことを悔いる母や介護に疲れ涙する娘の日常を読んで笑うほど私は悪趣味ではありません。
多くの方は雑誌の連載中から「にしおか、頑張れよ」と思って読んでくれていると思います。
家族間では他人様と接するのとは違う感情が先に立つことはありがちです。
辛くて思い出したくもないことを書かなくてはならないこともあるでしょう。
でもこれからも物書きとして生計を立てたいのなら、芸人として起きたことを誇張するのではなくて、読者の共感を呼ぶように自分の内なる感情をうまく書いて欲しいです。
難しいでしょうが、素敵な表現があちこちに見られ、ただのシロウトではないように感じます。
「がんばれ、にしおか」
何の力にもなれませんが応援しています。
ポンコツではあるけれど愛しい家族との日々を大切に過ごし、頑張って書き続けてください。




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お気に入りその2195~精選牧野植物図集

2023-02-10 12:05:35 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、精選牧野植物図集です。

牧野富太郎博士の植物図は科学的に正確でしかも美しいため、大のお気に入りです。
博士が書いた解説の方も内容が深いことは分かりますが、私はどうしても彼の妥協のない植物図の方に強く惹かれてしまうのです。
これまで何冊か鑑賞してきました。
先日鑑賞し始めた「牧野万葉植物図鑑」は博士が制作準備に着手するも未完に終わった「万葉植物図譜」をひ孫の熱意で発刊にいたったものです。
「牧野万葉植物図鑑」の中に牧野記念庭園の学芸員・田中氏が担当した解説「牧野富太郎と万葉集」があり、博士の娘・牧野鶴代さんもひ孫と同じく博士の遺志を継いで書籍を発刊していることを知りました。
それが今回ご紹介する「精選牧野植物図集」です。
博士は若い頃から日本植物誌の完成を目指しており、「日本植物志図編」などの出版を重ねましたが未完に終わり、その後着色図での構成を目指すも出版はついに叶いませんでした。
そこで娘・鶴代が父の悲願を達成するため尽力し、本書が刊行されたそうです。
この植物図集についてはネット検索しても詳しい資料は見つかりませんでした。
取りあえず判ったのは、1969年発行、355図収録(内、カラー32図)、そして鶴代さんの編集であるということだけです。
植物研究に人生をささげた博士の一番の応援者は妻でした。その妻亡きあとを引き継いだ娘が博士の悲願を引継ぎ完成させたのです。
鶴代さんの熱い思いを感じつつ本書を鑑賞することにしました。

初めに申し上げます。
牧野植物図が好きでこれまで何冊か蒐集して鑑賞してきましたが、本書はピカイチです。
355図すべてが大判で掲載され、しかも牧野博士本人が描いたものなのです。
解説文は巻末に短くまとめられているだけ。
さらにいえば本書で初めてお披露目されている植物図の何と多いこと。
牧野植物図をたっぷり鑑賞したい私のような者にとっては理想の植物図集です。
本書に出会えたことに感謝しつつじっくり鑑賞しています。

本書の冒頭で鶴代さんが本書刊行の経緯を紹介しています。
父の偉業を多くの方に知っていただきたくて植物画の特別展を開催していたところ、朝日新聞社の記者の取材を受けました。
父の悲願である植物図集を刊行したいという彼女の願いが新聞記事になると、それを読んだ学研の社長が実現に乗り出します。
こうしてとんとん拍子に本書が刊行されました。
それでも不慣れな編集作業には時間がかかったようで、父の十三回忌に間に合って良かったというコメントを残しています。

また博士の植物図のどこが優れているのかについて、専門家のコメントが載っており、興味深く読みました。
それによると図鑑に載せる植物画には、その種の平均的な姿をしていること、特徴を見せるため無理のないようにねじってでも見せること、余白を利用して部分図を添えることなどが求められるそうです。
専門家の方は博士が見本として度々紹介していた海外の植物図と牧野図を比較すると、すでに牧野図の方が優れていたと断じています。
また牧野図を画家ではなく博士自らが描いたことを海外の研究者に伝えるととても驚かれたとも書いています。
専門家は博士に一番細い線はどうやって描いているのかと質問したところ、ねずみの尻尾の毛2本で筆を作り、英国のインクで描いたと答えたそうです。
神業のような植物図を描くための創意工夫が垣間見えました。

昨年読んだ牧野植物図鑑原図集には何人もの画家に依頼して描かせた植物図が掲載されていました。
それに比べ本書は博士自らが描いた植物図ばかり。
私にとっては本書の方がずっと価値があります。
本書はここ数年で一番のお気に入りとなりました。




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お気に入りその2194~牧野万葉植物図鑑

2023-02-08 12:30:35 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、牧野万葉植物図鑑です。

NHKの朝ドラのモデルということで再度注目されている牧野富太郎博士。
これまで博士の植物図がお気に入りでいろいろな図録を鑑賞してきました。
1年ほど前にその集大成ともいえる「牧野植物図鑑原図集」をたっぷり鑑賞したことは当ブログでも3回に分けて書きました。
そして今回また新たな植物図を鑑賞するチャンスを得ました。
それが「牧野万葉植物図鑑」です。
正直に言って万葉集に興味がありませんのでタイトルだけでは食指が動きませんでした。
ところが次のコピーが目に留まりました。
=====
世界のMAKINOが晩年に構想した幻の「万葉植物図譜」が蘇る! 
鮮烈な着色図「万葉植物図」全点掲載!
=====

「鮮烈な着色図」を「全点掲載」してるのですか?
「牧野植物図鑑原図集」に続き1万円を超える高額図書です。
今一度購入を検討するため出版社による概要を読みました。
(以下、全文引用)

=====
牧野が晩年に取り組もうと思い、果たせなかった幻の仕事に『万葉植物図譜』がある。
本書は、牧野の膨大な遺品の中から発見された『万葉植物図譜』の各種資料と植物画、既刊の刊本にあるエッセイ等から、牧野の「構想」を忠実に再現した、もう一つの「牧野図鑑」である。

【牧野富太郎と万葉集】
日本最古の歌集である「万葉集」には、植物を詠んだ歌が全体の3分の1を占め、その種類は160にも及ぶ。
『牧野日本植物図鑑』に記載される通り、牧野は「和名の起源」に強い関心を寄せていた。
牧野にとって「万葉集」の歌は、和名研究の貴重な題材だった。
草木を愛し、草木と共に生きた、牧野と万葉歌人たちの「思い」には、時代を超えて相通じるものがあり、深い共感が存在したのである。
本書には、牧野が「万葉植物図」と朱書きした紙片と共に発見された110枚余りの貴重な植物図を万葉歌とともに収録する。

【牧野富太郎原稿】
本書ハ従来曽(かつ)テ見ザリシ完全正確ナ図譜ヲ形成スルモノデアル、乃(すなわ)チ其(その)適正ナ解説ト相俟(あいまつ)テ万葉研究者並(ならび)ニ一般ノ歌壇ハ勿論(もちろん)、延(ひ)イテハ文学界科学界ニ対シテモ必要欠クべカラザル文献ト成ルコト疑ヒナシト信ズル(「牧野富太郎原稿・高知県佐川町教育委員会蔵」より)

「分類学は本草学から発展したとされる。
本草学は生き物のみならず鉱物までを対象としており、その有用性の観点から、区別し、名前を付け、特徴を記述する学問で、江戸時代までの日本の分類は中国の本草学を手本としてきたが、幕末からは西洋の近代的な生物学としての分類学を導入して発展させてた。
牧野富太郎博士はちょうどその日本における分類学の発展と歩調を合わせるように研究の歩みを進めた分類学者と位置付けられよう(中略)。
万葉の時代にはもちろん分類学も本草学もなかったけれど、万葉集には多くの植物が名前で詠み込まれている。
その歌の多くが恋の歌であるのだから、歌を詠むことが文化であり、恋することもまた文化であったのだろう。
そこに興味を深めるなら、その中で植物がどのように捉えられているかを知ることも必須であると考えられる。
科学としての植物分類学の研究者だった牧野博士は、分類の対象となる個々の植物の特徴を追及し、それを正しい名前(学名)と結びつけることに生涯を懸けて取り組んだが、和名や漢名、さらに遡って万葉植物の名前までも正しく理解し、正しく理解させようとしたことがうかがえる。
そしてそのような取組の中で、本書で拾い出された博士の書きぶりを見ると、それぞれの名前の背景にある文化を大いに楽しんだようにも思われる」
(邑田 仁「はじめに」より)
=====

万葉集の歌の1/3に植物が詠まれており、その種類が160にも及ぶこと、そして本書には牧野博士が遺した万葉植物図110枚余りが掲載されていること、和名や漢名の研究、当時植物がどうとらえられていたのかなどを知ることができることなどに魅力を感じました。

あとはページサンプルで植物図が期待通りに大きく美しく掲載されているかを確認しようと思いましたが、残念ながらサンプルページを見つけられず、こちらは断念。
結局最初に目にした「鮮烈な着色図」を「全点掲載」というコピーを信用して、購入することを決めました。

牧野博士の悲願だったという図鑑「万葉植物図譜」がついに完成したことを祝すとともに、博士が準備した原色植物図110枚余りを早く鑑賞したい!
届くのが待ち遠しいです。

・・・と書いたのは良いけれど待てど暮らせど届きません。
結局注文から手にするまで半月以上かかりました。
これがネット注文の怖いところです。
海外便じゃあるまいし、大阪から札幌までこんなにかかるのは異常事態です。
遅れるなら遅れるで連絡があっても良さそうなもの。
高いポイントバックにひかれて初めて購入したお店ですがもう二度と御免です。
久しぶりに残念な経験をしました。

愚痴はここまで。
図鑑の箱カパーには帯が付いていて、牧野博士がNHK朝ドラのモデルになったことが紹介されています。
期待に胸膨らませ、本を開きました。
まずは内容紹介でも引用した邑田教授の「はじめに」を改めて読みました。
そこには内容紹介で省略されていた大切なことが書かれていました。
それは本書制作に至る経緯でした。

本書制作のキーマンは練馬区立牧野記念庭園の学芸員・牧野氏です。
牧野博士のひ孫である彼のもとには博士の膨大な遺品があり、その中には博士が「万葉植物図譜」制作を目指して用意したいくつかの資料がありました。
本書は牧野氏が曽祖父の遺志を汲み「万葉植物図譜」を世に出したいと強く願ったことにより完成しました。
博士は万葉植物図譜のために植物目録と植物図90図、1種の解説文を遺していました。
牧野記念庭園の学芸員・田中氏が博士の旧蔵から博士が万葉植物図譜に利用しようとしていたと思われる22図を見つけたことから、植物図は112図になりました。
植物ごとの記述は博士が唯一遺した「ヲミナヘシ」の記述に準じた様式に統一しました。
本書は植物学的解説を邑田教授が担当し、博士の著作を元にした万葉植物としての解説を田中氏が担当し、植物図の撮影を牧野氏が担当しました。
タイトルを「牧野万葉植物図鑑」としたのは出版元・北隆社の福田社長の希望によるものです。
こうして博士の遺品を最大限に活用した新たな図鑑が誕生しました。
博士が亡くなってから65年も経ってから全く新たな図鑑が誕生するというのは正に奇跡!
亡くなるまで新たな図鑑制作を目指し続けた博士とその願いを実現しようとしたひ孫。
ふたりの熱意が万葉集と植物図鑑という違うジャンルを結び付けました。

本書はこのような物語の末に誕生しました。
何て素敵な誕生秘話でしょう。
植物の精を自認した植物学者の熱い生涯が、時を超えてひ孫の心を揺さぶり、その熱が周囲に波及したことにより本書が誕生し、そのことに感動した読者がここにいます。
博士の植物愛が巡り巡って私のもとに届いた事実をうれしく思います。
自身の死後も多くの人を魅了し続ける圧倒的な魅力。
そのことも朝ドラで紹介してくれたらいいなと思います。

さあいよいよ本文を読み、植物図を鑑賞することにします。
楽しみです。






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