鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1204~日高敏隆

2016-04-30 12:15:34 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、日高敏隆です。

日高敏隆という人の「世界を、こんなふうに見てごらん」という本を読みました。
なぜ選んだのか、その理由を覚えていませんが手元にありました。
読みやすいけれど、しっかり理解することができない、不思議な本でした。

本書の解説を篠田節子さんという方が書いています。
これが本文をしっかり理解するための「まさに解説」であり、とても助かりました。

本文と解説から気になった文章を引用しつつ、感想を書きたいと思います。

解説より、日高敏隆の人物について
=====
日本の知の最高峰
意外なことに体のどこからも「偉そうなオーラ」を放っていない
少しとぼけた笑いを浮かべて端然と座っている
祇園の料亭があれほど似合わない方はいない
=====
なるほど、だいたいの人物像がつかめました。

本文より引用
=====
僕らの学生時代には、科学において「なぜ」を問うてはいけない、と言われた
真理、真実と思っているものは、実はイリュージョンである
※イリュージョンとは
 幻覚というより、個々の生物がそれぞれの感覚・知覚を通し、
 認識しているそれぞれの世界のこと
人間の認知する世界もそうしたもので、人間をそういうあやしげなもの、と受け止める「いいかげん」さがないと、かえっておかしなことになる
※「いいかげん」=「良い加減」に近い
=====
いかがです、科学者らしからぬ、まさに「いいかげん」な文章でしょ?
終始、このような雲をつかむような感覚にとらわれながら読みました。
好々爺とはいえ、さすがに「日本の知の最高峰」。
一朝一夕には理解できません。

ちなみに著者が「イリュージョン」という考えを持つようになった経緯も紹介されていました。
それは著者が中学2年のときに読んだユクスキュル著「生物から見た世界」にありました。
ダニには目が無く、皮膚にそなわった光の感覚だけを頼りに木に登ります。
そして木の下を通る動物の皮膚から発する酪酸のにおいを感知すると落下し、毛をかき分け皮膚に食いつきます。
ダニの感覚世界は、人間のそれとは大きく異なることが理解できます。
人間が真理、真実と思っている感覚世界は、他の生物たちとは大きく異なり、人間だけのもの。
唯一絶対の世界でない以上、それをイリュージョンとして「いいかげん」さを持って受け止めることが大切だということ。
なるほどねえ、ちょっと禅問答のようで面白かったです。

アゲハチョウのサナギが緑と茶の2種類ある理由については、昆虫好きとしては興味深かったです。
脳の近くの神経節から出るホルモンが影響すること。
温度、湿度、枝の曲率半径、枝の表面のザラザラ具合などにより、色が決まること。
自然ってもっとシンプルなのかと思っていましたが、意外と複雑なのですね。

最後に、著者のユニークな翻訳本について。
コンラート・ローレンツ著「ソロモンの指環」
 読んだ、読んだ!
 動物行動学ってこんなに面白い学問なんだ、と感動さえ覚えました。
 この本はその後、娘が酪農大学に入学したときにプレゼントしましたが、読まなかったようで残念でした。
ハラルト・シュテンプケ著「鼻行類」
 架空の生物を科学者が詳細データまでねつ造して発表している本です。
 人間は理屈が通ると実証されなくても信じてしまう滑稽な動物、という皮肉を込めて、あえて発表したそう。
デズモンド・モリス著「裸のサル」
 文化的だと思っている行動が、どれほど動物的本能に支配されているか。
 こちらもなんとも皮肉たっぷり。

どれも「日本の知の最高峰」のやりたい放題が気持ちいい訳本です。
お高く留まった文化人・科学者の鼻を折る手腕に、凡人として拍手を送ります。

「人間が真理、真実と思っている感覚世界は、他の生物たちとは大きく異なり、人間だけのもの。
唯一絶対の世界でない以上、それをイリュージョンとして『いいかげん』さを持って受け止めることが大切。」
という著者(訳者)の信念を、私も心に刻みました。

それとともに著者の名前を、立場に対する遠慮がない、スケールの大きな人物として心に刻みました。

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お気に入りその1203~若冲展

2016-04-28 12:29:25 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、若冲展です。

東京都美術館で開催している若冲展に行ってきました。
この時期は山菜取りにちょうど良いので東京に行っている場合ではないのですが、妻の要望をかなえるため一泊二日の小旅行を決行。
妻が言うには、若冲の蒐集家であるプライスさんはかなりの高齢で、もし彼が亡くなると「鳥獣花木図屏風」などの名作が散逸し、鑑賞することができなくなるかもしれないとのこと。
だからこそ今回のチャンスを逃したくなかったそうです。
ちなみに若冲は私もお気に入りの画家。
方向音痴の妻のため、道案内人を兼ねてお伴してきました。

9時半の開館に合わせて到着すると、すでに黒山の人だかり。
朝一番ならスムーズに入れるという考えは大間違いでした。
以前、東京国立博物館で開催した北斎展で人波にもまれた苦い経験が蘇ります。
でもあのときとは違い、2人には単眼鏡があります。
これさえあれば後列からでも作品を鑑賞できるので、少しは心に余裕がありました。

という話はどうでも良く、作品の感想を書きます。
やっぱり若冲は素晴らしい。
群鶏図をはじめとする作品群の見事な写実と鮮やかな色彩に圧倒されました。
特にお気に入りなのは「白」の表現。
白い鳳凰や孔雀・鸚鵡、そして雪・・・。
輝くような白が際立っています。
あれほど立体的に細密に表現できるとはまさに神技。

その神技の秘密を、平成19年の若冲展図録で改めて学びました。
一部を引用します。
=====
白色の鳳凰や孔雀。
その羽の表情の美しさはまるで“レースのよう”といわれてきた。
下地は裏彩色。
その顔料は金泥ではなく黄土。
透けるような白色の羽の表現の下には全体にしっかりと裏彩色に黄土が塗られている。
その濃淡を調整し、また白羽が密になる部分では裏彩色でも白色を施す。
こうして美しさと立体感を表現している。
=====
なるほど、そういう技を使っていたのですね。

また図録には若冲の作品、特に宮内庁に献上された「動植綵絵」30幅の修復の様子が書かれていました。
当時、繊細細密な作品群はカビの影響で傷んでいたそう。
またそのあまりに繊細な筆さばきと重ね塗りの技には、経年の影響だけで傷みがみられたそうです。
師や弟子を持たない孤高の画家の作品修復は、修復師たちを悩ませました。
彼らの数年間にわたる努力の結果、ついに技法を解読し修復をなしとげました。
先日の見事な作品群はそのおかげ。

それに比べ、プライスさん所蔵の「鳥獣花木図屏風」は限界を超えた重ね塗りを施しているため剥離が酷かったです。
おそらくプライスさんが入手したときには現在の状態になっており、それ以上傷まないように対策をしていると思います。
それでも日本への輸送でさらに傷む可能性はあります。
それを許可してくれるとは・・・。
日本を愛する優しい人柄を感じました。
ただ私個人としては、いずれ「動植綵絵」のような完全修復を行ってはいかがかと思います。
それにより若冲の技法研究が進み、秘められた工夫が世に知られることも期待できます。

最後に。
列に並ぶことや、人波にもまれることを極端に嫌う妻が、それを我慢してでも行った若冲展はとても満足いくものでした。
そして帰りに立ち寄った上野精養軒の洋食ランチも上品で伝統的、しかも美味しい、とても満足の味わいでした。
やっぱり多少無理をしてでも美術館めぐりはした方がいいと、あらためて思いました。


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お気に入りその1202~羅針

2016-04-26 12:29:33 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「羅針」です。

楡周平著「羅針」を読みました。

AMAZONの内容紹介を引用します。
=====
北洋と南氷洋で男たちは働いた――家族のために
高度成長期の日本。
陸を遠く離れ、船上で魚とクジラを追う男たち。
彼らが働くのは――家族のため。
楡周平渾身のワーキングノベル。
=====
昭和三十七年。
三等機関士の関本源蔵は北洋にサケマス漁の航海に出た。
航行のさなか、かつてない大時化に襲われ、船は遭難危機に。
その時源蔵が思いを馳せたのは、十八年前にサイパンで別れた、今は亡き父親のことだった。
父親は言った。
「お母さんを助けてやれ」―。
北洋でサケマスを追い、南氷洋で鯨を狙う。
荒ぶる昭和の海に生きた男の物語。
=====

楡周平を久々に読みたくなり、選んだのがこれ。
男と家族、北洋サケマス漁、南氷洋捕鯨。
今なぜというキーワードが並びます。
著者が2012年に発表した理由とは?
それを知りたくて読むことに決めました。

幼き日、主人公は戦争で父を亡くします。
必死で働く母を助けるため、高給とりの船乗りになります。
やがて家庭を持ち、子どもたちは成長します。
ときどきしか会えない子どもたちのことを知りたい、適切なアドバイスをしたいと焦る主人公。
思春期の子どもは距離をとりたがり、感情の行き違いからいさかいになります。
でも息子はしっかり父の背中を見ていました。
父の生き様を「羅針盤」として、パイロットという難しい職業を目指します。

父と子の関わり。
父と主人公、主人公と息子。
どちらも会話や関わりが少なくても、わずかな言葉が、その背中が生きる道を指し示します。
いつの世も息子にとって父は「羅針」。
それがテーマでした。

さてわが家はどうでしょう?
父、私、息子。
本書ほどではありませんが、何となく重なります。

最後に。
なぜ今、北洋サケマス漁、南氷洋での捕鯨などの過酷な世界を舞台にしたのでしょうか?
今ほどモノや情報が溢れていない時代を舞台にすることで、より純粋な家族関係を描きたかったからかもしれません。
同じ理由で時代劇がよく舞台にされるように。
また主人公の家庭を東北に置いたのは、3・11が理由かもしれません。
東北の人々へのエールが込められていると思います。



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お気に入りその1201~雪を作る話

2016-04-22 12:38:04 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「雪を作る話」です。

以前から科学と芸術の融合である博物図譜が好きで、鑑賞してきました。
今回偶然にも、「科学と文学を横断する珠玉の随筆シリーズ、スタンダードブックス」というシリーズを平凡社が発行していることを知りました。
こういうシリーズも面白そうです。
さてどれを読もうかな?
寺田寅彦、中谷宇吉郎、牧野富太郎・・・。
迷います。

今回選んだのは、中谷宇吉郎の「雪を作る話」。
中谷宇吉郎といえば、ウサギの毛で雪を作った人です。
内容紹介には、代表作「立春の卵」、高野文子氏が取り上げ反響を呼んだ「天地創造の話」など13篇を収録していると書かれています。
どれも知りませんが取りあえず科学と芸術の融合を楽しみました。

冒頭の「雪シリーズ6編」では恩師・寺田寅彦の文章が引用されていて、印象的でした。
=====
どんなに精巧につくられた造花でも、虫眼鏡でのぞいてみると汚らしいが、どんなつまらぬ雑草の一部分でも、顕微鏡でみると、実に驚くほど美しい。
=====

「天地創造の話」
昭和19年の夏から毎日20センチ隆起して出来上がった昭和新山のことを書いています。
中谷は隆起活動の終盤とはいえ実際に現地に赴き観察しており、天地創造を目撃した興奮が伝わります。
ちなみに近所のお年寄りからそのときの様子を聞いたことがあります。
その方は当時国鉄マンで、鉄鉱石を室蘭製鉄に輸送するため保線に従事していたそうです。
毎日20センチ隆起する線路を掘って下げたり、隆起していない方向に少しずつ移動したりで大変苦労したと語っていました。
そのお話に区切りがついたときに、その方の奥さんが語ったお話にも驚かされました。
奥さんのお兄さんは何と戦艦大和の設計士だったそうです。
奥さんのお話では「たくさんいる内のひとりでしょう」とのことでしたが・・・。

「立春の卵」
ある年、「昔の記録に立春の日は卵が立つ」というニュースが世界中に飛び交い、あちこちから本当に立ったと報告が入ります。
地球の自転や地軸の傾斜などが影響しているのではないかという科学者の推論が紹介される中、中谷は卵を立てます。
べつに立春でなくても5~10分もあれば卵は立ち、それには卵の表面のザラザラが影響しているとのこと。
実験をしないで推論を出す科学者は信用ができない、とズバッと斬っていて小気味良いです。

「琵琶湖の水」
「琵琶湖に小便をしたら多少でも水位が上がる」と述べた政治家に著者は反論しています。
湖水の蒸発量と比べ比較にならないことを次の例で見事に説明しています。
=====
1日に1万円から100万円の範囲で損をしながら、1円もうけた場合、財産はどうなるのか、というのと同じ問題。
=====

それでも理論的には?などと食い下がる人に対しては次のように述べています。
小便の量を水面の面積で割るとその高さは水の分子より小さくなり、理論の問題でもなくなる、と。
ナルホド、明快な論理。
スッキリしました。

「イグアノドンの唄」
小説家・有島武郎の地に疎開していたころのことを書いています。
娯楽のない土地で栄養不足に苦しみながら、荷物の中に紛れ込んでいたコナン・ドイルの「ロスト・ワールド」を毎日子どもたちに読み聞かせたそうです。
次女と長男はすぐに夢中になったが、長女はどうせ作り話といって信用しなかったそう。
ところが数年前の科学誌にシーラカンスが発見されたという記事があることを教えると、長女も陥落。
幼い長男はおとなしくて大きいイグアノドンがお気に入りで「イグアノドンの唄」を作って歌っていたそうです。
ここまでは楽しい思い出話でしたが、続く言葉に中谷の悲しみが伝わってきました。
=====
自分の国の敗戦も、自分の身体の栄養低下も、実感として何も知らなかった子供たち。
その後、栄養低下が禍して仮りそめの病気がもとで、(長男は)急に亡くなってしまった。
=====

「簪を挿した蛇」
科学は戦争に使われたが、それが本来の姿ではないと述べています。
=====
科学は自然に対する驚異の念と愛情の感じとから出発すると考える。
=====
いつの世もそうであってほしいと願います。

以上、科学と芸術の融合を味わいました。
戦争により研究が中断しただけでなく、家族を失うという不幸に見舞われた中谷は、その怒りや悲しみを内に秘め、淡々と文章を書いています。
世が世ならその達者な筆で楽しいエッセイを書いてくれたでしょうに・・・。
それをとても残念に思いました。

さて次は寺田寅彦かな?
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お気に入りその1200~ぶどう酒びんのふしぎな旅

2016-04-20 12:13:46 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「ぶどう酒びんのふしぎな旅」です。

本書はアンデルセンの童話です。
「大人に進めたい25冊の絵本」というHPで紹介されていて購入しました。
(たしかそんな題名のHPでした・・・)

そこには影絵作家の藤城清治がいかに力を入れて作画したかが紹介されていました。
若いころ、初めて作画をした絵本が本書(旧)だったそう。
それを86歳を前にして、4色カラーで新たに描き下ろした渾身作とのこと。

影絵作家として世界に認められる藤城の円熟の作品集として鑑賞してみたくなり購入しました。
もちろんアンデルセンの名作童話を読むことも楽しみでした。

=====
あらすじ
あばら屋の二階の窓辺に、老婆の飼い鳥の水飲み用に置かれた、こわれたぶどう酒びん。
じつは、このびん、老婆が、美しい少女だったころ、その婚約の席で空けられた、ぶどう酒びんだった……。
使われては、捨てられ、また拾われて、べつの人の手に渡りというぶどう酒びんの旅が、ときに少女の人生と交錯していく。
アンデルセンの名作を絵本化。
=====

ぶどう酒びんの長い旅が描かれています。
最後は割れてしまいますが、その後も小鳥の水飲み用の器として役に立っています。
ぶどう酒びんは、長い旅の中で、20年もの間、暗い物置に置き去りにされていたこともあります。
それに比べたら、例え割れてしまったとしても小鳥の役に立っている今の方がずっと幸せでしょう。
初めて読みましたが、「人生の意味」について考えさせられる深いお話でした。
人生という長い旅。
本書は、読み手がその時どきで置かれている状況によって受ける印象がまったく違う物語でしょう。
人生の岐路に立ったときにまた読みたいと思います。
なるほどこれは名作だ!

さて画家の絵について。
確かに影絵の大家の渾身作でした。
1枚1枚が丁寧に美しく描かれていました。
藤城清治の影絵は幼いころから慣れ親しんできました。
余りに当たり前のように目に触れていたので、改めてじっくりと鑑賞したのは今回が初めて。
こんなに美しかったのですね。
原画展があれば鑑賞したうです。

本書は、人生を考える物語として人生の場面場面で繰り返し読み、また当代一流の影絵作家の画集として繰り返し鑑賞する、まさに一挙両得の名著と思います。
みなさんもご一読されてはいかがですか?


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お気に入りその1199~司馬遼太郎

2016-04-18 12:06:08 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、司馬遼太郎です。

100分de名著テキスト「司馬遼太郎スペシャル」を読みました。

著者は歴史学者の磯田道史。
NHKの歴史番組で進行役をしている、あの方です。

テキストの内容紹介を引用します。
=====
二十一世紀を生きる私たちへ
作家・司馬遼太郎が亡くなって20年、日本はいま大きな転換期にある。
『国盗り物語』『花神』『「明治」という国家』『この国のかたち』を題材に、日本と日本人の未来について考える。
自己を確立して、他人をいたわる、そうした人になってほしい。
=====

本書を読んで知ったことはたくさんありますが、印象的な2点について書きます。

①坂本龍馬について

司馬遼太郎の作品は数冊しか読んだことがありませんが、その1冊が「竜馬がゆく」。
長編でしたが、熱中して読んだことを覚えています。
世の中から忘れられていた龍馬の活躍を世に示したのが、実はこの「竜馬がゆく」だったそうです。
1962年に連載開始されるまで龍馬が忘れられていたとは・・・知りませんでした。

=====
一浪人が時代の変革を成し遂げる
=====
じつをいいますと、西郷は幕府を倒したものの、新国家の青写真をもっていなかったのです。
新国家の青写真をもっていた人物は私の知るかぎりでは土佐の坂本龍馬だけでした。
=====

②統帥権について

=====
統帥とは(中略)「軍隊を統べ率いること」である。
(中略)
英国やアメリカでも当然ながら統帥権は国家元首に属してきた。
むろん統帥権は文民で統御される。
軍は強力な殺傷力を保持しているという意味で、猛獣にたとえてもいい。
戦前、その統帥機能をおなじ猛獣の軍人が掌握した。
しかも神聖権として、他からくちばしが入れば「統帥干犯」として恫喝した。
=====
大日本帝国憲法
統帥権を天皇の大権とし、参謀本部(陸軍)と軍令部(海軍)を直轄にした。
=====

戦前は軍隊が三権の上に立つ超法規的な存在だったことを初めて知りました。
この憲法のもとでは、政府も戦争へ突入することを食い止められられません。
なぜ日本が日清戦争、日露戦争、太平洋戦争と続けて戦争をしていたのか、その理由がわかりました。

それではなぜこんな憲法にしたのか?
それについても記載がありました。
明治初期、ヨーロッパを訪れた伊藤博文の目に映ったのはドイツの快進撃でした。
当時まだヨーロッパの後進国だったドイツが「軍事的に一番強い法制度」を武器にフランスを破ったのです。
西洋列強に立ち向かうにはドイツの法制度が一番と考えたのです。

なるほど、これも理解できました。
明治維新から戦前までの日本って、そういう理由であれこれ起こし、必然的に太平洋戦争に突入していったのですね。
あらためて憲法の大切さを知りました。
そして平和憲法を維持することの大切さも知りました。


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お気に入りその1198~百年の家

2016-04-16 12:45:44 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、百年の家です。

絵本「百年の家」を読みました。
(J・パトリック・ルイス著、ロベルト・インノチェンティ画)
読後に、父母や祖父母の若かった頃ってどうだったのかなあ、とつい思いを巡らしました。
そして誰の家族にも歴史があり、自分たちは歴史の一部なのだと思い至る、そんな絵本でした。

AMAZONの内容紹介を引用します。
=====
国際アンデルセン賞画家賞受賞インノチェンティの傑作
人が家に命を吹き込み、家が家族を見守る。
家と人が織りなす100年の歳月。

100年の歳月を、ことばの世界と細密な絵の世界で融合させた傑作絵本!
1軒の古い家が自分史を語るように1900年からの歳月を繙きます。
静かにそこにある家は、人々が1日1日を紡いでいき、その月日の積み重ねが100年の歴史をつくるということを伝えます。
自然豊かななかで、作物を育てる人々と共にある家。
幸せな結婚を、また家族の悲しみを見守る家。
やがて訪れる大きな戦争に傷を受けながら生き延びる家。
そうして、古い家と共に生きた大切な人の死の瞬間に、ただ黙って立ち会う家。
ページをめくるごとに人間の生きる力が深く感じられる傑作絵本が、ここに……。
人が家に命を吹き込み、家が家族を見守る。
家と人が織りなす百年の歳月。
=====

「家」の一人称で語られる物語。
この家はペストが大流行した1656年に建てられ、その後、打ち捨てられていました。
そして1900年。
子どもたちが発見してくれたおかげで、家は再び命を吹き込まれ、100年の歳月を過ごします。
大人たちの修繕により、家にはにぎやかな暮らしが戻ります。
結婚、夫の戦死、建物の戦争被害、息子の別居、母の死。
家は再び打ち捨てられ、ついには解体されます。
その後、その場所には新しい家が建ち、新しい家族が住み、新しい歴史が刻まれます。

平和な暮らしが、第一次世界大戦、第二次世界大戦で壊される様は悲しいです。
世代が代わることで、暮らしが変わり、開墾された麦畑やぶどう畑も打ち捨てられます。
私たちの暮らしもこうして変わってきたのでしょうね。
自分、両親、祖父母というわずか3世代の歴史が100年の物語。
考えてみると本当に身近。
最近NHKで放送している「ファミリーヒストリー」という番組。
芸能人の家系を遡る番組ですが、「人に歴史あり」という言葉通り、芸能人の両親、祖父母には必ず特記すべき過去があります。
とても見応えがあり、お気に入りです。
本書と重なりました。

本書はほとんどすべてのページが同じ構図で描かれているため、前のページと何度も見比べました。
建物の修繕や増築、井戸の進歩、農作物や家畜の変遷などを確かめるのがとても楽しかったです。
きっと子どもたちも何度も何度もページを行ったり来たりして楽しんでいることでしょう。

ちなみに本書の翻訳者は長田弘。
偶然にも先日読んだ「空の絵本」の著者。
本書ではさすがに「空の絵本」のような言葉遊びはできなかったようで、ちょっぴり残念でした。

最後に。
先日から熊本を中心とする大地震が続き、大きな被害が出ています。
1日でも早く余震が止み、暮らしが復旧することを願っています。

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お気に入りその1197~空の絵本

2016-04-13 12:18:15 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、空の絵本です。

長田弘・著、荒井良二・画の「空の絵本」を鑑賞しました。

「だんだん」という言葉が、副詞と擬音でたくさん使われています。
これだけでも、きっと子どもたちは楽しいでしょうね。
最後も「だんだん」眠くなるというオチ。
著者は子どもたちの顔を思い浮かべながら楽しんで書いたでしょう。

本書の美しい言葉がお気に入りです。

「ふきぶり
 よこなぐり
 だんだん
 つよくなってきて」

「だんだん
 光は きんいろに
 だんだん
 水のいろは ぎんいろに」

本書の美しい絵もお気に入りです。
一番好きなのは、白い月、一番星、大きな木のかげ、帰ってくる鳥たちが描かれたページです。
鳥たちの小ささが木の大きさを見事に表現しています。
その上にかかる月や一番星の高さが澄み渡った空の高さを表現しています。
いつまでも眺めていたい絵ってこういう絵なのでしょうね。

夜空の星座が、星座名の元になった動物やモノの絵で表されているのもお気に入りです。

物語は表紙の青空から一転して、突然の風雨と雷。
やがておさまり澄み渡る空が戻る。
日が沈み、夜は静かに更けていく。
すべてが眠りにつく。

ごくありふれた一日を描いています。
素敵な言葉と絵の融合。

本書は3・11の震災後に発行されています。
モチーフは震災前にできあがっていたそうですが、震災の影響を作者たちは否定していません。
もちろん震災に影響されていない人なんていないでしょう。

ごくありふれた一日がはじまり、そして夜が静かに更けていく。
そんな一日の積み重ねこそが幸せなんだ、と震災後だからこそ強く感じられます。




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お気に入りその1196~総員玉砕せよ!

2016-04-11 12:18:37 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「総員玉砕せよ!」です。

水木しげる著「総員玉砕せよ!」を読みました。
本書は1973年に発表されて以来、文庫や全集などで繰り返し出版されてきました。
なぜ今ごろ読んだかって?
昨年11月に水木さんが93歳で亡くなった際に、本書だけをお棺の中に入れたと聞いたからです。

朝ドラ「ゲゲゲの女房」では、水木先生の鬼気迫る作画風景が描かれていました。
歯を食いしばり全精力を込めてペンを走らせる姿が、今も目に焼き付いています。

原作者である奥さんの目にそう見えたのでしょうね。
水木先生本人も、戦記物は戦友たちの魂が取りついたのか、怒りに燃えて描いた、と語っていたようです。

戦場の悲惨さと理不尽さ、それにより次々死んでいった仲間たちの無念さ。
それを伝えるのは自分の使命だと考えたのでしょう。

本書の解説が印象的でした。
=====
戦後、文学者や映像作家たちは戦場での体験を次々作品化することで、戦争の真実を世に訴え、後世の者たちに伝えた。
しかし漫画界では水木先生が唯一。
=====

戦後の漫画界が、素晴らしい作家と作品に恵まれ、ついには世界に認められるまでに至ったというのになぜ?
その疑問の答えはここでは重要ではありません。
ただ戦友たちの魂に揺り動かされるように戦記物を描いた漫画家がいた!という事実が大切です。
その作品に触れ、戦争の真実を知ることが、「平和」について考える材料になると思います。

小さな丘を守るために玉砕していったたくさんの兵隊たち。
戦後、隣の部隊にいた元幹部が口にした言葉に唖然としました。
「玉砕するほどの重要拠点でなかったのになぜ?」
大切な家族や友人を失った者たちに説明のつかない狂った日常がそこにあったということでしょう。
それが戦争。
強い怒りを感じました。

一般人、とくに弱者である女子供が戦時にどんな目にあうのかを描いた「流れる星は生きている」とともに、本書も若い世代に読み継いでもらいたいと強く願う一冊です。

最後に。
本書とともにあの世に行った水木さん。
今ごろ、懐かしい戦友たちに「長いことお疲れ様」と労をねぎらわれているでしょうね。

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お気に入りその1195~風姿花伝

2016-04-08 12:39:51 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「風姿花伝」です。

100分de名著「風姿花伝」を読みました。
著者は世阿弥。
600年前に書かれた能の理論書だそうです。

「競争社会で良い仕事をするためには、何が必要か。」
「より良い人生を送るためには、どんな心がけが大切か。」
ということが書かれているため、今に読み継がれているそうです。

100分de名著は「菜根譚」で味をしめて、今回が2冊目。
ポイントを判りやすく解説してくれている上、理解が進まなければオンデマンドで補うことも可能。
至れり尽くせりです。

土屋講師によるテキストから、心に触れたポイントをいくつか書き出します。
=====
世阿弥が生きた室町時代は、のちに戦国時代へと突入する不安定な時代でした。
能を取り巻く環境は、安定した秩序を重んじるものから、「人気」という不安定なものに左右される競争へと移っていった時代です。
そのような時代を生きた世阿弥の言葉は、同じように不安定な現代を生きる私たちに、たくさんのヒントを与えてくれます。
=====
世界をひとつのマーケットととらえ、その中でどう振る舞い、どう勝って生き残るかを語っています。
芸術という市場をどう勝ち抜いていくかを記した戦略論でもあるのです。
=====
第1回 珍しきが花
人間が感じる「面白さ」には普遍性があり、そのためには「珍しさ」の演出が必要。
「珍しきが花」「新しきが花」。
「花」とは人が持つ輝きのようなもの。
止まることなく創造を続けること。
一からの創造だけでなく、物事の新しい切り口やとらえ方を創造することが革新。
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第2回 初心忘るべからず
若いころの「初心」とは別に、中年や老年になっても、新たな「初心」が生まれる。
「老いてのちの初心」「老いてのち花を咲かせる」
あくまで今の自分の限界の中で何をしていったら最も良いのかを考えることが必要。
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第3回 離見の見
自分の演じる姿を、客観的に外から見るように心がけろ。
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第4回 秘すれば花
舞台は真剣勝負。
どんな時も観客をあっといわせる秘策を用意しておくべき。
人気という不安定なものをつなぎとめるには、マンネリに陥ってはならない。
人生に戦略を持つことの大切さ。
奥の一手を常に準備し続けよう。
いざというときはそれで勝負に勝つことができる。
「珍しきが花」と表裏一体。
たったひとつあれば良いのではなく、常に創り続けていかなければならない。
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世阿弥は南北朝時代に生まれ、室町時代に大成します。
やがて将軍が変わって冷遇され、佐渡に配流されます。

このような世阿弥の生涯を知ると、能のマーケティング戦略が命にかかわるほど重要だったことが判ります。
命を懸けて考え抜かれたものだからこそ、600年後の現代でも読まれているのでしょう。
上に書き出したポイント。
それは600年もの時を超えて届いた仕事と人生に役立つ助言集です。
「珍しきが花」「老いてのちの初心」「離見の見」「秘すれば花」。
心にストンと納まりました。

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