鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1526~向井潤吉

2018-05-30 12:53:12 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、向井潤吉です。

かやぶき屋根の古民家を描き続けた画家がいたことは知っていましたが、名前を知りませんでした。
トタン屋根だらけの町で生まれ育ったため、瓦屋根に違和感を感じ、ましてやかやぶき屋根など別世界。
そこに郷愁を感じる人の気持ちを理解できませんでした。
ところが、あるTV番組を観て考えが変わりました。
それは少子高齢化や過疎化により限界集落となった地域を支える老人たちを取材した番組です。
先祖代々大切に守り続けてきた家々もいずれは無人になり廃墟となるのでしょう。
生まれ育った風景と違っていたとしても同じ日本人。
住民たちの哀愁は痛いほど伝わります。
その番組を観ながら脳裏に浮かんだのは古民家を描き続けた画家のことでした。
趣味で描いたというよりももっと重たい、失われていく大切な風景をせめて絵の中に残したいという使命感にも似た気持ちに背をおされ、描きつづけたのではないだろうか?
そう思い至った瞬間、名を知らぬ画家の画集を鑑賞したくなりました。

画家の名前は「古民家」「画家」というキーワードですぐに分かりました。
向井潤吉(1901-1995)というそうです。
鑑賞する画集は「米寿記念向井潤吉展」(1990年 朝日新聞社刊)を選びました。
「ごあいさつ」から抜粋します。
=====
1927~1930年にルーブル美術館で名画を模写
写実性豊かな絵画表現を会得
1945年から失われていく日本の民家の作品
北海道から鹿児島まで1500を超える家々を記録
人々の心の故郷を残し続けた
=====
日本にそれがあるかぎり、命のつづくかぎり、私は民家の四季の詩をかきつづけるつもりだ
=====

初期作品から模写、民家へと続く130点を超える画業の歴史をたっぷり味わいました。
民家の舞台は、地元京都を中心に全国にわたっています。
時々地域特有と思われる屋根がありますが、ほとんどは似たり寄ったりで題名を読まない限り地域の特定ができませんでした。
それほど故郷といえる風景が似かよっているということでしょう。
たくさんの作品を鑑賞していて気付いたのは画家の腕の確かさ。
当たり前ですが上手いですね。
描かれた木々や山々の美しさに何度も目を奪われました。
そして模写の上手いこと。
ミレー、クールベ、ルーベンス、デューラー、アングル、ルノアール。
特にミレーとアングルは絶品だと思います。
他にレンブラントやドラクロワも模写したそうなので画集に収録して欲しかったです。

「人には無限の可能性がある」という言葉を良く聞きます。
画家にも多種多様な作品を描く可能性がありました。
その中から古民家を選び、生涯描き続けることになるとは画家自身も予想していなかったことでしょう。
今回は人を導く運命の不思議に思いを巡らせた画集鑑賞となりました。

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お気に入りその1526~ブリヂストン美術館展

2018-05-29 12:49:41 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、ブリヂストン美術館展です。

北海道立近代美術館で開催中のブリヂストン美術館展にやっと行くことができました。
ここ数年恒例になっている妻との自転車小旅行です。

当日は晴れ、気温は少々低め。
多少風がありましたが、まあまあの自転車日和。
午前中早めの空いている時間に美術館に着くよう出発しました。
途中、北海道大学農学部の農園でヒバリが鳴いていて気持ち良かったです。
快適な走りで無事到着。

特別展は多くの場合、一期一会。
これまでも、そしてこれからもお目にかかることが無いであろう作品をじっくり鑑賞しました。

気に入った作品の題名とその感想を書きます。
・クールベ「雪の中を駆ける鹿」
 低木の脇を駆ける鹿。それらが雪面に落とす陰の表現に北国の住民としては見惚れました。
・モネ「睡蓮」「黄昏、ヴェネツィア」
 代表作「睡蓮」を直に鑑賞できて良かった!
 でもそれより「黄昏」の色彩の美しさに心を奪われました。今回一番のお気に入り。
・ルノアール「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」
 おしゃまな4歳のお嬢様は本当に可愛かったです。
・藤島武二「天平の面影」「黒扇」
 どちらも観たかった作品。素晴らしいの一言です。
・青木繁「海の幸」「わだつみのいろこの宮」
 今回の特別展の看板といえる「海の幸」は下書きの跡が見える粗い仕上がりに
 逆に躍動感を感じました。
 白い顔で正面に目を向けているのは画家自身といわれていますが、
 その左で白い顔をして進行方向を向いてのも作家自身なのかなと想像しました。
 「わだつみのいろこの宮」は妻と、場面想定についての意見が食い違いました。
 妻は足元の水槽から壺に水をくみ、水滴が落ちている場面といい、
 私は海の中で女性の足元から泡が上がっている場面と思いました。
 いずれにしても神々の世界で起きることは神秘人の世界と違っていて不思議はありません。 
・浅井忠「縫物」
・黒田清輝「針仕事」
・岡田三郎助「婦人像」
・山下新太郎「読書」
 以上4点は日本洋画界の黎明期に輝く美しい作品群です。
 直に鑑賞できて良かったです。
・藤田嗣治「猫のいる静物」
 猫が大好きなフジタらしさが詰まった作品。
 淡い色彩で描かれた静物の中で、猫だけは毛の1本1本まで丁寧に描かれています。
 描画時間の大半を猫についやして画家本人は幸せだったでしょうね。

鑑賞後は美術館からすぐのイタリアン・レストランでパスタを食べました。
「イル・フローレ」という小さなお店。
何の予備知識もなく入りましたが、深みのあるドロリとしたソースがとても美味しかったです。
妻のパスタに入っていたスモークした鱒は、美味しすぎてそれだけで食べたい!と絶賛でした。
次はピザを試したいです。

帰路は中間地点にある地酒屋さんに寄って「なつくじら 生原酒」を購入。
背中のデイバッグに一升瓶を入れて帰りました。
生原酒ですから当然、その晩から晩酌で味わっています。


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お気に入りその1525~ふんばれ、がんばれ、ギランバレー!

2018-05-25 12:18:18 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「ふんばれ、がんばれ、ギランバレー!」です。

難病闘病漫画「ふんばれ、がんばれ、ギランバレー! 」を読みました。

AMAZONの内容紹介を引用します。
=====
函館の病院で働く22歳の新米看護師・たむらは、ある日突然原因不明の高熱に襲われ、動けなくなってしまう。
いくつかの病院を転々とした後、たむらは脳神経内科のサトウ医師により、ギラン・バレー症候群と診断される。
身体の自由と普通の日々を奪われてしまったたむらの、長く険しい闘いの日々が始まった――。
=====

ギラン・バレー症候群は、ウイルスや細菌に感染したときに抗体が誤って神経を攻撃するようになり発症します。
発症者が毎年10万人に1~2人という難病。

昨年、取引先の方がかかり、その名を知りました。
その方は手足に力が入らなくなり、疲れがたまっているのだろうと思い一晩休んだが治らず、病院に行って判明したそう。
仕事の引継もできずに、即入院。
職場の方々は大変だったでしょうが、1秒でも早く治療することが病後に響くそうで、やむを得ない措置でした。
病院のベッドでひたすら安静を保つこと、という医師の指示をしっかり守り、何とか数か月で退院。
今は職場復帰し、元気に働いています。
ただし手足の筋力は8割方までしか戻らないそう。
それでも重症化しなくて良かったねといわれたそうです。

いやー、大変でした!
と笑う彼の様子から本当に難病だったのかな?と思ったものです。
でも、そのときに聞いた病名がついた本書を見かけ、読んでみて驚きました。
ギラン・バレーと判明するまでに相当の日数がかかり、重症化した女性の闘病記でした。
身体が動かず、全身の傷み、吐き気と年単位で闘い、ついに社会復帰したのです。
今は漫画家として働けるまで回復できて本当に良かった!
体験者にしかわからない痛みや苦しさ、そして恥ずかしさが迫真の漫画から伝わります。
経済的な救済策や、お見舞いに来てくれる人々がどんなに患者の助けになるかが判ります。
とにかく為になる漫画です。
ぜひ多くの方に読んでいただきたいものです。

それにしても早期診断・早期治療のおかげで軽度に終わった彼との違いは驚くほどです。


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お気に入りその1524~縄文の思想

2018-05-23 12:06:12 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、縄文の思想です。

瀬川拓郎著「縄文の思想」を読みました。
著者は前著「アイヌと縄文 もうひとつの日本の歴史」で大胆かつ具体的な説を発表していました。
これまで縄文人については文字を残さなかったため、不思議な模様を刻んだ土器や土偶から彼らの思想を推察するしかありませんでした。
そのため研究者個人の感覚に頼らざるをえず、科学的な裏付けに乏しい研究結果ばかりでした。
ところが瀬川氏は、
 ①アイヌ人は縄文人の末裔であることの科学的根拠を示すことで
 ②アイヌには縄文の習俗を色濃く残していることを示し
 ③アイヌの思想から縄文の思想を推察した
実に科学的な推察です。

現・日本人に脈々と受け継がれているであろう縄文人の思想。
それを具体的に知りたい!
そういう思いからこれまで何冊か読みましたが、瀬川氏の著作ほど科学的なものはありませんでした。
これまでで最高の縄文思想の研究者なのではないでしょうか。
そういう意味で今回の「縄文の思想」も興味深く読みました。

AMAZONの内容紹介を引用します。
=====
文字に残されることのなかった縄文人のリアルな思想、かれらの他界観や世界観といった生々しい観念の世界、すなわち縄文人の生き方を律した思想を、どうすれば知ることができるのか──。
本書はこの難問に、考古学と日本列島の様々な神話・伝説といった具体的な資料にもとづき、さらには海辺や北海道、南島という日本列島の周縁に生きた人びとの、弥生時代以降の歴史に光を当てることによって解答しようとする試みです。
縄文は単なる失われた過去ではなく、周縁の人びとの生を律する思想として、上記の人びとのなかに脈々と生き続けてきました。
その生の様式をとおして、もうひとつの日本列島人の歴史を描くことが本書の目的です。
では、なぜ周縁の人びとなのでしょうか。
かれらは弥生時代以降、縄文伝統である狩猟漁撈のほか多様な生業に特化することで農耕民との共存を実現し、その結果、縄文の習俗や思想をとどめることになったと著者は考えています。
周縁の人びとの、弥生時代以降の歴史に注目しようとする理由はこの点にあります。
縄文を「思想」としてとらえようとする場合、これまでは、具体的な手がかりがほとんどないと考えられていたために、どうしても書き手の「ロマン」、思い込み先行になりがちだったのではないでしょうか。
本書では、上記の画期的なアプローチにより、いままでに明らかにされることのなかった縄文の核心に迫るものです。
=====

前著ではアイヌに伝わる縄文思想を探りましたが、アイヌだけでなく海民と南島の人々に手を広げて、そこに伝わる縄文思想を探っています。
多くの研究者の論文を参考にして足元を固めて推論を展開するという、科学的な論法は説得力があります。

・稲作文化を中心とした弥生人たちは、狩猟漁撈のほか多様な生業に特化した縄文人たちを排除するのではなく、交易の相手、分業の相手として利用した。
・そのため海民とアイヌ、南島の人々には縄文の習慣や思想が色濃く残った。
・また縄文人の末裔は全国の周縁部に離れ離れになったにもかかわらず、得意とする海上交易を通じて交流することで完全には分断されなかった。
 そのため例えばイレズミや前歯を抜く習慣、頭蓋骨の形状、埋葬方法などの共通性がみられる。

ナルホド。
前著から手を拡げた推論は実に魅力的です。

「私たちの中に残る縄文は、わずか10数%の縄文人の遺伝子的特徴だけではない。
 周辺の人々びとどまらず、私たちの文化や世界観もまた、縄文という基層に深く根ざしている。」

こう言い切られると、ルーツはどんな人々だったのかをますます知りたくなりました。

縄文時代は長く平和な時代だったといわれる根拠も書かれていました。
=====
他殺と見られる縄文時代の人骨は、日本中でわずか20体ほど。
弥生時代は、ある遺跡ひとつで10数体の人骨に殺戮痕がある。
縄文時代の社会は暴力と無縁であり、平和もまた縄文の思想だった。
=====

ただしそのあとに意外な言葉がつづられていました。
=====
それは縄文時代の社会がひとつの巨大な系だったから。
分配と平等という思想の元にまとまった社会。
そこでは野心を持った若者は排除された。
また系の外での無法性・暴力性には何の罪悪感も感じなかった。
=====

長く平和が続いたということは、革新的な取組を排除したことと同意語だったのです。
また「平和を愛した縄文人」には、「同じ系の中の人々に対してだけ」という但し書きが付くのです。
縄文時代は世界的にまれなほど長く平和な時代が続きました。
そこには人類がまだ実現できない理想的な世界があったのではないかと思っていました。
でも彼らは、革新的な考え方を排除し、外の世界の人々には無法性を発揮する人々でもあったのです。
「縄文の思想」は、現代人が平和な社会を構築するモデルにはなり得ないことを知りました。
そんなに簡単に理想的な社会なんて構築できないですよね!

本書により縄文人の真実に触れ、縄文ロマンの熱が醒めてしまいました。
判らないからこそロマンがあったと思うと、ちょっぴり残念です。



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お気に入りその1523~絵本2冊

2018-05-21 12:34:46 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、絵本2冊です。

別冊太陽「しかけ絵本」で再び絵本熱が高まり、しかけ絵本「あかまるちゃん」と普通の絵本「旅する蝶」の2冊を読みました。

「あかまるちゃん」の作者デビッド・カーターは紙工作の鬼才といわれているそうです。
お気に入りの名匠サブダとの違いを楽しみました。
本書は、作者が自ら考案した数あるしかけから、お気に入りを選んで作ったそうです。

①立体 立方体が立ち上がる
②回転 でんでん太鼓
③立体 円柱が立ち上がる
④引っ張ると立ち上がる
⑤引っ張るとくねくね動く
⑥音がする まるでのこぎり
⑦立体 立ち上がり屋根を閉じる
⑧立体 いくつもの球が立ち上がる
⑨ゆらゆらする
⑩うずまきバネが伸びる

ページを開くと立ち上がるだけでなく、回転する、音がするなど、ユニークなしかけに驚かされました。
しかけをシンプルに感じてもらうため色も形もシンプルに徹しています。
だからこそしかけの面白さが際立ちます。

一番のお気に入りは、本を開くといくつもの球が立ち上がるページ。
中空にもいくつもの球が開き、実に美しい!
そのままインテリアになる完成度です。

次は新宮晋の絵本「旅する蝶」。

オオカバマダラという蝶の旅を描いています。
晩夏、カナダやアメリカ北部を蝶の大群が南下をはじめます。
いくら季節風に乗ってるとはいえ2か月で4000kmを移動し、メキシコの森に到達します。
蝶たちはそこで越冬。
春には再び北上を開始します。
途中数回の世代交代を経て故郷に帰り着きます。

この旅の詳細が解明されたのは1970年だそう。
3~4世代をかけた長大な旅を毎年繰り返す不思議な生態には、作者ならずとも魅了されます。
特に第1世代の蝶は、4000kmを移動し、越冬し、春には途中まで北上し、次の世代にバトンを渡す、という大仕事を成し遂げます。
恐るべし第1世代の蝶。
人間に置きかえると、目的の星をめざして地球を出発し、無事目的を成し遂げ、100年後に地球に帰り着く宇宙の旅の中で、第1世代が60年くらい頑張り、第2世代以降は第1世代が敷いてくれたレールの上を行くだけ、というようなことでしょうか。
途中には宇宙嵐を避けるため一時避難した星、食料やエネルギーなどを補給するために立ち寄った星などもあることでしょう。
蝶や宇宙旅行の旅の目的とは?
案外と目的も理由もなく「ただ旅をしたいから」というのが答えかもしれません。

それにしても本書に描かれていた「森がオレンジに染まっていく」シーンを直かに見てみたいものです。


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お気に入りその1522~手塚治虫短篇集

2018-05-18 09:22:47 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、手塚治虫短篇集です。

今年亡くなった日高晤郎さんのラジオ番組でお気に入りのコーナーだった「私の本棚」。
今回はそこで紹介されていた一冊、「手塚治虫 この短篇がすごい!」です。
手塚治虫生誕90年を記念して昨年発行されたものです。
珠玉の11作品として集められたのは次の作品たち。

①雨ふり小僧
②サスピション「ハエたたき」
③ゴッドファーザーの息子
④るんは風の中
⑤カノン
⑥ブラックジャック「六等星」
⑦七色いんこ「アルト=ハイデルベルグ」
⑧すっぽん物語
⑨トキワ荘物語
⑩火の鳥「休憩」
⑪ユニコ「ふるさとをたずねて」

「天才・手塚治虫が遺した珠玉の短篇」ということで、きっと心に残る作品ぞろいと期待しましたが、予想に反して並みの作品ばかりでした。
とはいえ他の漫画家が描いたというのなら、なかなか良い出来の作品といえます。
手塚作品は優れた作品だらけなので、もっともっと良い作品があったはずと言いたくなるのです。
手塚マンガで育った世代なので辛口をお許しください。

いくつか心に残った作品について書きます。

「るんは風の中」
 “世をはかなむ男の子”と“女の子が写ったポスター”の恋を描いています。
 人間とポスターの恋を描くとは実に斬新。
 展開も面白く、一番気に入った作品です。
「ゴッドファーザーの息子」
 手塚氏の自叙伝。
 少年の友情と戦争の悲惨さを見事に描いています。
「トキワ荘物語」
 トキワ荘という建物自体に人格があり、建物が昔を懐かしむという形式が斬新。
 藤子不二雄、石森正太郎、赤塚不二夫などと刺激し合った青春時代はまさに伝説です。
「カノン」
 昔、空襲で校長と児童一人が生き残ったという小学校が舞台。
 大人になった主人公がクラス会に招かれて学校を訪れるという設定にはかなり無理が
 ありますが、戦争の残酷さや悲惨さを後世に伝えていく上で大切な作品です。

気になったのは「火の鳥(休憩)」に「火の鳥の結末は自分が死ぬときにはじめて発表しようと思う」と書かれていたこと。
実際に何か発表したのでしょうか?
気になります。

また末尾に年表があり2点が印象的でした。
ひとつ目は名作「鉄腕アトム」を連載開始したのが、1952年弱冠24歳だったこと。
二つ目は手塚氏が61歳で亡くなった1989年に、昭和天皇と美空ひばりという巨星も亡くなっていること。
時代が大きく変わった年だったのですね。

(おまけ)
個人的におすすめの手塚作品は「アトム今昔物語」に収録されている「ベイリーの惨劇」です。
ベイリーという善良なロボットが市民権を得ようとして、恐れを抱いた人間たちに破壊される話です。
「ベイリーの冒険の巻」という題名でアニメ化されています。
バラバラになったベイリーの部品がひとつ、市民権を得たアトムの体内で動き続けている、というエンディングが印象的でした。


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お気に入りその1521~ホッパー

2018-05-16 12:41:01 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、ホッパーです。

エドワード・ホッパーの画集を鑑賞することにしました。
「美の巨人」で紹介された「ナイトホークス」。
MoMA展図録で観た「ニューヨークの映画館」「ガソリンスタンド」。
どれも登場する人物の心のつぶやきが聞こえてきそうな、雰囲気たっぷりの作品でした。
もっと多くの作品を鑑賞したいと思い、選んだのはTaschenの画集。
コストパフォーマンスの高い出版社でこれまでも重宝していました。
今回は日本語版/英語版、ハードカバー/ペーパーバックという選択肢の中から、一番安い英語版ペーパーバックを選びました。

海外からの発送のためしばらく待ち、ようやく届きました。
思っていたより薄い画集でしたが、中身は充実していました。
洋書ですから文章は読めないので、ひたすら作品だけを最後まで鑑賞しました。
そしてホッパーが「想像していた画家」ではないことを知りました。
これまで観た3つの作品に共通して描かれていた都会の孤独と哀愁。
ホッパーの全作品の中ではその系統の作品はごく一部なのですね。
わりと殺風景な景色の中にぽつんと建っている住宅を描いた作品の実に多いこと。
田舎町の孤独な家を描いたと解釈すると、孤独を描くというテーマは共通しているといえなくもないですが・・・。
建物の孤独には何の興味もありませんから、人物が登場する作品以外はすっ飛ばして鑑賞しました。
全体を通して気に入った作品は次の通り。

・Soir Bleu(1914)
 題名の意味は青い夜。
 夜のカフェを舞台に3卓のテーブルの男女が描かれている。
 右のテーブルの男女は明らかに中央のテーブルの男に注目している。
 その男はピエロの化粧と扮装のまま、くわえ煙草で他の2人と話をしている。
 その脇には男を見下すように立つ女。
 これからどんなドラマが展開するのだろう?
 代表作「ナイトホークス」とは違った意味で興味深い作品。
・Sunday(1926)
 空っぽのショーウインドウの前に腰かける男一人。
 日曜とはいえ、空テナントの前に座り込むとは、何かドラマがありそう。
・Automat(1927)
 題名の意味は自動販売機。
 自動販売機のコーヒーを近くの席で飲む女性。
 コートと帽子の姿は、用事を済ませた後にようやく一息ついた姿か?
 それとも出発前に思案しているのか?
 いろいろ想像できて楽しい。
・Gas(1940)
 黄昏時、ガソリンスタンドの給油機を覗き込む男。
 来店客が途絶え、そろそろ店じまいの仕度をしようと考えているのか?
 事務所から漏れる灯りが、風景のさびしさを増長している。
・NewYork Movie(1939)
 上映中の廊下でひとり物思いにふける女性スタッフ。
 女性の周り以外の光を極端に落とした大胆さが作品のドラマ性を高めている。
・Nighthawks(1942)
 意味は夜更かしする人々。
 背を向けて座る男は、全く表情が見えない。
 背中で語ることができる高倉健のような男になりたい、と思わせる作品。
・High Noon(1949)
 平原に建つ小作りな民家。
 その玄関にたたずむ女性。
 高い日差しにより影はわずかしかできない。
 過度なまでに明るく照らされた彼女の表情に明るさはない。
 その心中やいかに?
・Cape Cod Morning(1950)
 ケープコッド(コッド岬)の朝。
 森の脇にある民家。
 出窓の中には、前かがみの姿勢で真っ直ぐ外の景色をながめる女性。
 題名から、視線の先に海辺の景色があることがわかる。
・Intermission(1963)
 題名の意味は休憩。
 劇場の客席にひとり座る女性。
 舞台の上演が終わり、ようやく一息つく女興行主は何を思うのか。
 舞台の不成功に心を痛めているのか?
 良く見ると口角が上がっている。
 どうやら舞台は成功し、心地よい疲れをひとり癒しているのだろう。

無表情な登場人物にドラマを感じさせるホッパーの腕前に感服しました。
解説文が英語のため、作品に込められたドラマを自力で読み取ろうとしました。
自分の解釈が例え的外れであったとしても、絵を読み解く行為自体が楽しい体験だったことは確か。
もし日本語が添えられていたら、そぐにその解説に流されてしまったことでしょう。

今回は「絵からドラマを読み取る」良い訓練になりました。

 

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お気に入りその1520~雑誌ニュートン

2018-05-14 12:42:37 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、雑誌ニュートンです。

科学雑誌ニュートンを購読しています。
といってももっぱら流し読み。
よほど気に入った記事でもないとまじめに読まない悪い読者です。
しかも科学知識をしっかり学びたいのではなく、SF小説のように面白ければそれでいい、という無責任な読者です。
まったく始末におえません。
出版社が傾き、存続が危ぶまれた時期もありましたが、今は何とか続いています。
ところが一難去ってまた一難。
配達をお願いしている町の本屋さんが、気力体力の衰えから、数か月分をまとめて持ってくるようになりました。
その内に届けてもらえなくなりそう・・・。
覚悟しておきましょう。

先日も4か月分まとめて届きました。
当然読むのも4冊まとめて。
流し読みでも骨が折れます。

今回はその中から気に入った記事2つについて書きます。

まずは「真空崩壊」の記事について。
初めて聞く言葉でした。
もしも宇宙が「真の真空」になったら、相転移が起こって物理法則が変わり、全ての粒子が崩壊するそうです。
当然地球や太陽系、銀河系なども崩壊します。
何と恐ろしい「真空崩壊」!
その後、宇宙は再び混沌とした状態になります。
何だかビッグバン直後に似た状況です。
記事では、真空崩壊後とビッグバン直後は違うと説明していますが、もし同じものだったら実に美しい宇宙理論になりますね。
真空崩壊がビッグバン直後の状態を形成し、そこから新たな物理法則が生まれ、新たな宇宙が誕生する。
新しい宇宙もやがてポテンシャルが落ち切って真の真空が発生すると、再び真空崩壊が起き、宇宙の全ては再び崩壊する。
そしてまた新たな宇宙の誕生へと向かう。
という風に、宇宙が再生と崩壊を繰り返すなんて理論に育ったら、とても美しい!
ここで思い出したのが「百億の昼と千億の夜」というSF小説。
主人公の阿修羅が時の彼方に行きついたのは、全宇宙のエントロピーが極限まで増大してしまった時代でした。
逆に言うと宇宙のポテンシャルが極限まで下がってしまった状態です。
そこは生きる者も動く物もない死んだ世界。
阿修羅はただ創造主を呪うばかり、というエンディングだったように記憶しています。
かたや世界が死に絶え、かたや真空崩壊でリセットされます。
どちらも今の宇宙が終わるという点では同じ。
今回のような宇宙の根元に関わる記事が大のお気に入りなので、満喫しました。

次は「福島第一原発は今」という記事について。
あれから7年、1号機から4号機までの廃炉作業の進捗状況について丁寧に取材しています。
実際に出向いて取材しており、写真やイラストを屈指して伝えようとする姿勢は半端ではありません。
テレビや新聞より詳しくて判りやすい素晴らしい記事です。
さすがは科学雑誌。
これまで1号機から4号機までを一緒にして考えていましたが、大きく違いがあることを知りました。

震災の日、4号機は定期点検で運転を停止していました。
原子炉内部の核燃料はすべて燃料プールに保管されていました。
ただ3号機から流れてきた水素が爆発して4号機の建屋を破壊しました。
そのガレキの処理も終わり、2018年ついに燃料プールの核燃料の搬出が完了しました。

3号機は水素爆発で損壊した建屋上部のガレキの処理が終わり、今年から燃料プールの核燃料を搬出し始めます。
デブリは格納容器の底に溜まっていることが確認されています。

1号機は水素爆発で損壊した建屋上部のガレキの処理を今年から始めます。
遠隔操作のため作業は2021年度までかかりそうです。
デブリの姿は確認できていません。

2号機は水素爆発を免れたため建屋の損傷は小さいけれど、内部の線量は高い。
そのため建屋の天井または壁に穴を明けてからの作業が検討されています。
デブリの姿は確認されています。

多核種除去設備ALPSは63種の放射性物質の内、62種を除去する優れた装置です。
運転当初は不具合が多くなかなか稼働できないというニュースに心配したものでしたが、今回の記事によりこの装置は当時まだ開発途中だったことを知りました。
調整しながら稼働させ、ついに完成させた技術者たちの必死の努力が目に浮かぶようです。
ちなみにALPSをもってしても除去できないのがトリチウム。
そのため汚染水はこれからも貯まり続けます。
汚染水の置き場はあと数年で一杯になってしまうそうです。
トリチウムの半減期は12.32年。
ニュートンの別の号で紹介されていた大型加速器J-PARCは、半減期が数万年の放射性物質を数百年の放射性物質に変換する能力があります。
加速器は重い原子に有効だそうですが、トリチウムは正反対の軽い原子。
現状ではトリチウムの変換には使えません。
何とかトリチウムにも使えるように改良できないものでしょうか?
もし改良できれば、今後数十年にわたり発生し続けるであろう汚染水の置き場問題を一発解決できます。
ちなみにトリチウムは核融合炉の主燃料です。
実験炉でもいいから核融合炉が稼働すればトリチウムを一気に消費することができるのですが・・・。
政府に対しこのふたつの科学技術の発展を加速するために、大規模な予算付けをすることを期待します。
それこそが原子力と活断層が同居する日本を救う道だと思います。

ニュートンには他にも「美しきチョウの仲間たち」とか「私たちの心をあやつる微生物たち」という面白い記事がありましたが、今回は省略します。

これからも読んで面白い、ためになる記事を期待しています。


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お気に入りその1519~MoMA展図録

2018-05-11 12:57:27 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、MoMA展図録です。

原田マハの「モダン」に触発され、MoMA展図録を鑑賞しました。
1993年上野の森美術館で開催された展覧会には60点の絵画や彫刻が展示されたそうです。
図録の中では9点が気に入りました。
・ゴッホ「星月夜」
・スーラ「グラヴリーヌの運河、夕暮れ」
・ルソー「眠るジプシー女」
・モディリアニ「横たわる裸婦」
・ピカソ「鏡の前の少女」「ドローイングする少女のいる室内」
・クレー「魚のまわりで」
・ホッパー「ニューヨークの映画館」「ガソリンスタンド」

モディリアニの描く裸婦をはじめてじっくり鑑賞しました。
これまでは画家の描く薄い表情が好きではなかったのですが、ボリュームある裸婦の表情や身体を観て考えを改めました。
もし機会があれば、他の作品も観てみたい画家になりました。

ピカソは原田マハの作品に登場した「平和」という作品が気に入り、そのポストカードを飾っています。
図録には絵画や彫刻がたくさん載っていましたが、ほとんどは難解でやっぱり理解不能でした。
でも美しくかわいい少女を描いた2枚は別。
ピカソの少女への愛が伝わる素敵な作品です。

ホッパーは「美の巨人」で紹介されていて気になる画家でした。
光と影、人間ドラマ、何より都会の孤独を表現している作品に惹かれていました。
図録の作品もいいですね。
映画館の女性スタッフは何を思いたたずむのか?
想像力をはたらかせたくなります。
ホッパーについてはぜひ画集を購入して他の作品も鑑賞したくなりました。
日本語解説が付いた画集を探すと、思ったより高価で困りました。
破格に安い洋書にしようかな?
迷いつつ洋書のカスタマーレビューを読みました。
目からうろこが落ちました。
作品からドラマを感じるには日本語解説は邪魔、と書いてありました。
ナルホド!
真っ直ぐに絵だけを鑑賞したいのなら、洋書の方が向いているのか!
早速洋書版を注文しました。
届くのが楽しみです。

(おまけ)
巻頭にオルデンバーグ館長が書いていた「MoMAの変遷」は興味深かったのでいくつか引用します。
・1929年オフィスビルの6室を借りてスタートした
・大恐慌の最中でも参観者が4万7千人にも上った
・初代館長アルフレッド・バーは若干27歳で就任した
・建築・デザイン・写真・映画などを芸術の一形式とした
・理解も評価もされないものでも、芸術家によるいろいろな新しい探究を評価する

例え前例がなくても良いものは良い、とハッキリ主張する姿勢。
勇気が必要だけれど、それこそが未来を切り開く力になることを、MoMAが教えてくれました。

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お気に入りその1518~小樽芸術村

2018-05-09 12:24:17 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、小樽小旅行です。

先日、小樽芸術村に初めて行ってきました。
そこには似鳥美術館、ステンドグラス美術館などがあります。
お目当ては旧三井銀行小樽支店で開催中の浮世絵展。
3回に分け、作品を入れ替えて公開するそう。
上手い試みです。
そうでもしなければ3か月に3回も同じ特別展に行く人はそういないでしょう。

風景、人物など4つの部屋に分かれて展示していました。
はじめに入ったのは風景の部屋。
一つ目の作品が北斎の「ビッグウエーブ」だったのには驚きました。
最初からエースの登場。
広重の東海道五十三次は3分割の前3分の1ということで江戸から静岡くらいまで。

人物の部屋には、写楽の大首絵、歌麿の美人画など。
もう一部屋は何の部屋だったかな?

一番印象的だったのは最後の部屋。
そこは何と春画の部屋でした。
春画の浮世絵を展覧会で観たのは初めて。
世界に名を轟かせた「ウタマロの春画」はやっぱり凄かった。
北斎など他の作者の作品は、歌麿に比べてしまうとどうしても見劣りしました。
歌麿の描く超美人が登場する春画こそ、世の男性の理想なのかも。
それも細部まで丁寧に描かれた完全無修正!
これでは例え芸術作品とはいえ、他の作品と一緒に展示することはできません。
なおこの部屋だけ未成年入室禁止だったことは言うまでもありません。

次に行ったのは似鳥美術館。
エレベーターで4階に上り、降りながらの鑑賞。
4階は横山大観、川合玉堂などの日本画。
片岡珠子の大胆な構図と色彩に圧倒され、上村松園と鏑木清方の美人画にうっとり。
3階は岸田劉生をはじめとする日本・海外の洋画。
黒田清隆、ルノワール、ユトリロの本物は初めて観たかも!
2階は高村光雲とその弟子たちの木彫、棟方志功の板画・倭絵などの展示。
木彫像の柔らかな表情、風に揺れそうな衣装。
まさに神技です!
地下1階はアールヌーヴォー・アールデコ グラスギャラリー。
ガレ、ドーム、ラリックをはじめとするグラス作品が山ほど鑑賞できます。

とにかく似鳥さんのおかげでトンデモなく豪華な芸術鑑賞をさせていただきました。
恐るべき財力!
並ぶ者なき成功者ですから当然といえば当然。
たっぷり目の保養をさせてもらいました。

最後はステンドグラス館。
ステンドグラスをあんなにたくさん、かつまじまじと観たのは初めて。
でもキリスト教の教義を知らない人にとってはありがたみなし。
とりあえず芸術作品として鑑賞しようと思いましたが、制作者たちの熱意以外に感じるものはありませんでした。
そのため館内でジャズの生演奏が聴けたことは実にお得でした。

妻とふたり、初めてJRで行った小樽の小旅行。
楽しかったので、浮世絵展の作品入替後にまた行こうと思います。




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