湖上音楽祭の町

 
 国境は徒歩で越えるべき、と、どういうわけだか思い込んでいる相棒。次の町はリンダウの対岸、オーストリアのブレゲンツ(Bregenz)。もちろん相棒は歩く気満々。
 ま、雨さえ降ってなきゃね。相変わらずの小雨のなか、いざ国境を越えるべくブレゲンツへと向かう。

 歩いて三十分も経たないうちに、牧場を発見。歩く者の特権で、寄り道して、早速休憩。牛を眺める。
「うわあ、“うしうしマン”がいっぱいだねえ」と相棒がからかう。以前私が、鳥を見て「とりとりマン」と呼んだのをインプットしていて、何か動物を見るたびに、わざわざそれを真似た珍奇な呼び方をしてくさる。

 湖岸に出て、湖沿いを歩く。道々振り返り、湖に突き出したリンダウの町を見晴るかす。相変わらずどんよりとして、鉛のように重く鈍い湖面。そこにプカプカと浮かび、パンをねだりにせっせと水を掻いて泳ぎ来る水鳥たちは、なんとも朗らかな存在。

 いつしか湖岸を離れた道を、鉄道沿いにてくてく歩いていて、ふと見ると、ロッハウ(Lochau)の看板が立っている。
「ロッハウはもうオーストリアだよ。どの一歩でオーストリアに入ったのかな。まあいいや、この一歩で入ったことにしとこう!」
 相棒、感無量の一歩を踏む。

「もう一度、湖に出ようか。私有地かな。行けるかな」
 けれどもそこには、「オーストリア軍の演習地、危険」とかなんとか注意書きのある看板が。まさかこんなところで、軍が演習するかねえ。
「いや、分からんぞ。国境だし。一昔前にはナチスの軍隊が、ここを越えて侵略したんだしな」
 慎重な相棒、さもありなんと看板を警戒する。ので、湖岸に戻るのは諦めて、再び鉄道沿いを歩く。

 俄かに雨が激しくなってきたので、駅の構内で雨宿り。さすがオーストリア、すぐ近くに山が見える。が、まるで雲が解けて、山裾へと流れ出したように、見る見る白く煙っていく。
 こんなに雨脚が強くなるばかりだと、さすがに日和る。とにかく国境だけは自分の足で越えたんだから、と言い訳して、あとはちゃっかり列車に乗り込んで、さっさとブレゲンツへと向かったのだった。

 To be continued...

 画像は、リンダウの牧場。

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     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
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