ボーデン湖の出島(続)

 
 港のプロムナードから、灯台と、バイエルンの象徴であるライオンの像を眺める。そのあいだを遊覧船が行き来するらしいのだが、雨に濡れる東洋人二人、汽笛を鳴らす船が入港するまで待たずに、早々に諦める。

 教会を目指すと、ドイツの観光地ではよく見かける、ディパックを背負ってヤッケを着た、遠足らしい子供たちが、門の前でウロウロしている。彼らも教会に入りたいのだが、入り口が分からずにいるらしい。あーだこーだと言い合って、とうとう道を見つけたのか、一斉に走り出す。ので、私たちもついてゆく。
 あとは目抜き通りを中心に歩きながら、市庁舎だの教会だのを見て歩く。リンダウはじっくり歩いても2、3時間でまわれるくらい、小さな町。

 雨なので街路のカフェには人はいないけれど、往来には、遠足のヤッケの子供たち集団を含めて、カラフルな傘を差した旅行者たちが行き交っている。晴れた日には大変な混雑に違いない。雨は雨で、特典もあるもんだ。
「日本じゃそろそろ、ゴールデン・ウィークだよ。ぼちぼちパック・ツアーの日本人集団が押し寄せる頃だね」と相棒。やだな、やだな~。

 道を行く人が、白地に紺とオレンジの、スーパーマーケット“Plus”の袋を持っているのを発見。早速相棒に教えてあげる。
 どこ? どこどこ? 相棒、熱心にスーパーの所在を探すが、なかなか見つからない。ドイツではあまり看板を目立たせない。ここは旧市街なので、特にそう。ピンポイントでウロウロ探しまわって、ようやく地下にスーパーを発見した。

 To be continued...

 画像は、リンダウ、聖ペテロ教会。

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ボーデン湖の出島

 
 リンダウ(Lindau)はボーデン湖畔に浮かぶ小島で、湖の町としてはドイツ最東端。列車はゴトン、ゴトンと鉄道橋を渡って、終着駅であるリンダウ中央駅へと乗り入れる。

 ドイツ行きが決まったとき、私は、訪れたい町を、あれやこれやと言っておいた。が、実際ドイツに来てみると、行き当たりばったりに行き先を決める、そのとき任せの適当旅。
 そんななかでリンダウは、私の希望がすんなり通った、数少ない町の一つ。私にはこういう、特別な観光名物はなくても、全体に趣のある小さな町が、性に合っている。

 駅を出てすぐに、うんうん、古くてイイ感じの町だねえ、と満足。しとしと小雨が降り出すなか、旧市街へ向かう。
 リンダウ島は出島のように、湖に突き出す形で、鉄道橋と道路橋とで陸に結ばれている。リンダウのユースホステルは、陸部のほうにある。ので、駅から、旧市街をてくてく通って、道路橋を渡ってユースにたどり着く、というのが、相棒のコース。

「それにしてもボーデン湖は、雨ぽ、ばかりだねえ」
「うん、雨ぽ、ばかりだ」

 小雨なので傘を差さないドイツ人もいるが、そういう人たちはみんなヤッケを着ている。私も日本から持参した、見かけはヤッケの、ただの布切れを引っかける。
 うーむ、ヤッケ。必要なものは現地調達、という主義なら、ドイツらしいシンプルでカラフルなヤッケくらい買えばよかったと、今になっては思う。だが、そのときは節約第一、「ヤッケなんて買ったら、次の日から雨が上がって、カンカン照りの暑い天気続きになるんだよ。そんなもんだよ」という相棒の言葉に丸め込まれて、健気にガマンしていたのだった。

 To be continued...

 画像は、リンダウ、港の灯台とライオン像。

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飛行船の町

 
 リンダウへ向かう途中、乗り換えのためフリードリヒスハーフェン(Friedrichshafen)で途中下車した。
 
 フリードリヒスハーフェンはツェッペリン飛行船の町として有名で、飛行船の遊覧飛行やツェッペリン博物館が観光ポイントなのらしい。多分、好きな人にはとても興味深い町なのだと思う。
 が、産業文化にはほとんど関心を持っていない私たちは、ただ待ち時間にボーデン湖畔を歩いただけ。ゴメンね、フリードリヒスハーフェン。

 飛行船にも一度くらい乗ってみたいけど、そんな機会あるだろうか。この温暖化危機の時代、もしかしたら、私が皺くちゃのヨイヨイ婆あになった頃には、航空機の代替機関として水素燃料の飛行船が、空を行き交っているかも知れない。

 湖畔のプロムナードはきれいに整備されていて、色とりどりの花が咲き競う花壇がある。そこから眺めるボーデン湖は、相変わらずの鉛色だけれども。
 湖岸を離れると、街路はやはり、交通の要所である大きな町らしい、商業的にうるさいものとなる。絵本のような絵がいっぱいに描かれた小さな飛行船を発見。珍しがって、やたらにいじって、相棒に叱られる。 

 日本の漫画がずらりと並んでいるショーウィンドウを発見。やはり日本の漫画やアニメ、ゲームは海外じゃ人気らしい。それでも電車やカフェ、ユースホステルで、漫画を読んだりゲームをしたり、アニメを観ているドイツ人は見かけたことがなかった。
 そう言えば、ドイツ人はみんな携帯電話を持っているのだが、そして結構電話で話をしているのだが、メールをしている人は、これも一人も見なかった。

 駅の、円形に並べられた待合ベンチに座って、向かいの美しい黒人女性をシャカシャカとスケッチ。
 列車の待ち時間はこうやって、日記を書いたりスケッチしたりして時間を潰す。この女性、縮れた長い髪を掻き上げ、後ろでアバウトに束ねていて、モデルみたいでカッコいい。黒いモノトーンの服を着ている。黒人て、カラフルな服も似合うけど、無彩色の服も似合うんだな。

 そんなこんなで、フリードリヒスハーフェン、呆気なくお終い。

 To be continued...

 画像は、フリードリヒスハーフェン、ボーデン湖畔。

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ボーデン湖畔にて(続々々々々々)

 
 ユーバーリンゲンの隣りのヌスドルフの駅で列車を待っていると、俄かに賑やかな騒ぎ声が聞こえ、遠足らしい子供たちの集団がどやどやとやって来た。男の子も女の子も、ヤッケにキャップ、ジーパン、スニーカーにディパックという出で立ち。やはり東洋人が珍しいらしい、こちらをチラ見してくる。
 相棒がニカッと笑いかける。すると子供たちは、待ち時間の退屈さもあって、遠巻きにワイワイと嬉しがり、はしゃぎ出す。あんまりはしゃぎすぎて、柱に思いっきり頭をゴツンとぶつけてしまった子もいる。

 相棒は子供相手にドイツ語の練習をする。ただし、こちらの言っていることは伝わるのだが、向こうが何か言い返しても何を言っているのか分からない、という難がある。
「どこへ行くんだい?」と尋ねる相棒に、一言きっぱりと答えてはくれるのだが、やっぱり聞き取れない。
 子供たちは次の駅で、どやどやと降りていった。興味関心が他へ向かうと、もうこちらには見向きもしなくなる。子供って現金だな。

 大きな黒い犬が、老人に連れられて列車に乗ってくる。ドイツの列車は、犬料金を払うと、犬も一緒に乗ることができる。普段はリードにつながれておらず、縦横無尽に走り回る犬も、列車のなかではリードにつながれ、飼い主に引かれておとなしくついてくる。
 この黒犬も老人に引かれて、尻尾を振り振り、お利巧に通路を歩く。老人が座ると、そばの通路にペタリと寝そべる。

 日本では見られない光景なので、観光客の特権で、犬の写真を撮ってもよいか、と老人に申し出る。日本じゃ、知らない男性相手に、こんな勇気なかなか出るもんじゃない。
 ビッテ、と許可を得て、カメラを構えるが、犬君は、チラリとこちらを一瞥したきり、相変わらずペタリと寝そべっている。主人の指示がないから、お座りしないんだね、きっと。いいんだよ、その格好で。

 写真を撮り終えた私に、老人が話しかけてくる。
「私は耳が不自由で聞こえないので、この犬を連れて列車に乗っているんです。この犬のおかげで、とても助かっています」
 盲導犬のような特別な介助犬でなくても、訓練された利口な犬はこんなふうに人間の日常生活を助けることができる。

 To be continued...

 画像は、ヌスドルフ、列車に乗る犬。

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ボーデン湖畔にて(続々々々々)

 
 翌朝は朝寝坊。雲っていたので、朝陽が射さなかったせいもあった。窓から望むボーデン湖は、この日もどんより鉛色。

 朝食のファミリー用のダイニングに、若いドイツ人家族のテーブルがあった。朝食タイムの楽しみの一つは、子供の観察。
 栗色の髪にブルーの眼をした小さな男の子が、しきりにこちらを眺めている。東洋人を初めて見たらしく、怪訝そうに、物珍しげに、一口食べるごとにこちらを見る。

 こんなに小さな男の子なのに、ちゃんと自分の食べる分を自分で取ってくる。大好きなフルーツフレーバーのヨーグルトか何かを、後先なく欲しいだけカップいっぱいによそう。よそってしまってから、少々困って、手のひらの窪みに水を汲むときのような形に両手を作って、こぼさないようにカップを支えながら、そろそろと慎重にテーブルまで戻ってくる。
 そのあいだにも、一歩ごとに私たちのほうをチラチラと見る。

 で、男の子が無事テーブルに到着してから、手を振ってあげると、男の子はようやくにっこりと笑う。帰り際にもブンブンと手を振って応えてくれる。

 男の子よりももっと小さな女の子は、憶えたての「チュース」と「ハロー・キティ」を連呼しながら、ダイニングを行ったり来たり。クッションやらブランケットやらを引っ張り出して、自分の席まで持ってくる。
 あんなにちょこまか動くのだから、もしこちらのテーブルまで遠出してきてくれれば、こちょこちょとちょっかいを出そうと思うのに、ドイツの子供たちは躾がよいのか、いつもこちらのテーブルまでは来てくれない。

 この日の受付は、アンジェラ・アキのような眼鏡をかけた、美人のお姉さん。相棒は美しい女性に会っても、髪型や眼鏡の形が気に入らなければ、美しくない、と言い張る。この受付の女性のことも、そんなにキレイじゃない、と不当な評価。
 独断と偏見だらけだけれど、旅の人間観察は結構楽しい。

 To be continued...

 画像は、ユーバーリンゲン、ユースホステルのホール。

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