世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
ギリシャ神話あれこれ:純潔のヒッポリュトス

長らく放置していて、ごめんなさい。元気でやってます。
後味悪く、救いようのないギリシャ神話をば、ひとつ……
好色の英雄テセウス。彼はミノス王の死後、クレタを攻略し、王女パイドラを妻として頂戴する。アリアドネ、ヒッポリュテに続いて、これで3人目の奥さん。
ところでテセウスには、前妻ヒッポリュテとのあいだに生まれた、ヒッポリュトスという息子がいた。
このヒッポリュトスは、父王テセウスの女たらしに反撥する気持ちもあったらしく、清純で潔白な青年。処女神アルテミスを崇めて狩猟や騎馬を好み、女性には見向きもせずに童貞を守っていた。
が、ヒッポリュトスがアルテミスにばかり仕えるのを、愛神アフロディテは黙っていない。ギリシャの神さまたちって、各々の権能が互いに対立するから困る。アフロディテは自分の神威を馬鹿にされたと憤り、ヒッポリュトスの継母に当たるパイドラに、彼に対する絶望的な恋情を抱くよう仕向ける。
……ギリシャの神さまたちの、誰かを敬愛すれば、他の誰かがそれに嫉妬する、というパターン。
まだ若く美しいパイドラは、しきりにヒッポリュトスを誘惑する。が、ここは、アルテミスを崇拝する純潔なヒッポリュトス。パイドラの恋に応じるどころか、その汚らわしさに怒り心頭。淫らな女め、お前なんか、節操のない親父が似合いだ! とかなんとか罵倒する。
To be continued...
画像は、アルマ=タデマ「ヒッポリュトスの死」。
ローレンス・アルマ=タデマ(Lawrence Alma-Tadema, 1836-1912, Dutch)
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ギリシャ神話あれこれ:葦になったニンフ

更新、サボっててごめんなさい。元気でやってます。
では、有名なメタモルフォーゼな物語をば、一つ……
好色で淫蕩な牧神パンは、いつでもニンフやらマイナス(=ディオニュソス信女)やらを追いかけてばかり。酒神ディオニュソスを信仰するマイナスたちとは、概ねねんごろな仲で、酔っ払って乱痴気騒ぎをするうちに、なし崩し的にまんまとコトに及んでしまう。
が、ニンフたちには拒絶されることもままあった。パンを拒んだニンフの一人が、シュリンクス。
シュリンクスは樹木のニンフので、美しく、内気だった。森に棲まう男神やサテュロスから言い寄られることもたびたびだったが、浮ついた遊びを嫌い、処女神アルテミスに随身して、狩猟の日々を送っていた。
あるときシュリンクスは、狩猟を終えた帰途、森のなかで、パンにばったりと出くわす。パンはいつもこんなふうに、前触れなくひょっこりと姿を現わすのだ。
陽気で剽軽なパンは、とげとげした松の葉で作った冠をかぶっている。これは、以前にパンをこっぴどく拒んだ、ピテュスというニンフの形見なのだった。
パンは山羊の脚でピョコピョコと跳びはねながら、君、可愛いね、とかなんとか嬉しがらせを言って、シュリンクスにまとわりつく。シュリンクスは逃げるのだが、パンは軽快にシュリンクスを追いまわす。
シュリンクスは逃げる、逃げる。川岸まで逃げたところで、流れに行く手を遮られた。
すぐにパンが追いついて、シュリンクスを抱きすくめようと両手を伸ばす。シュリンクスは川に飛び込み、倒れながら、川のニンフたちに祈る。お願い、助けて!
その瞬間、シュリンクスの姿は葦に姿を変える。さあ、つかまえた! と、歓喜したパンが掻き抱いたのは、一叢の葦だった。
葦の茂みのなかで、がっかりとして佇むパン。そこへ風が吹き通り、悲しげな音色を奏でる。
うん、これはいいぞ。パンはすぐさま元気を取り戻し、葦を切り取って長短に断ち、並べたものを蝋で固めて笙笛を作る。以来、パンはシュリンクスの形見として葦の笙笛を吹き奏で、彼女を悼むのだという。
画像は、ハッカー「シュリンクス」。
アーサー・ハッカー(Arthur Hacker, 1858-1919, British)
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ギリシャ神話あれこれ:パンドラの箱(続々)

ところで、思慮の足りないエピメテウス。考えてみれば、プロメテウスと同じティタン神の血族。
ティタン神族は、ゼウス兄弟姉妹らオリュンポス神族と戦って敗れた、いにしえの巨神。オリュンポス神族の勝利をあらかじめ知っていてゼウスの側についた、「先に慮る」プロメテウスとは異なり、「後から慮る」エピメテウスは、他のティタンたちのようにオリュンポス神族に楯突いて奈落タルタロスへと落とされたかと思いきや、そうではない。そもそも、愚鈍すぎて、ティタン戦争には関わらなかったらしい。
さて、そんなエピメテウスに嫁いでしばらく経ったあるとき、パンドラは、「決して開けてはならない」と戒められていた甕の蓋を、案の定、中身見たさに開けてしまう。途端に、甕のなかから怪しげな形をしたものが立ち上がり、あっという間に四方へと散らばっていった。
それは疫病、飢餓、貧困、欠乏、嫉妬、怨恨、憎悪、奸計、犯罪などの、ありとあらゆる災厄だった。以降、地上には解き放たれた悪疫や災禍が満ち満ちることになる。
パンドラが慌てて蓋を閉めたとき、甕のなかにはただ一つ、「エルピス」だけしか残っていなかった。
文脈からすれば、「エルピス」もおそらく災厄の一つなのだろう。これは「予兆」という意味だそうで、良い予兆なら「希望」、悪い予兆なら「絶望」となるらしい。
が、未来を知るという「予兆」そのものが、やはり、人間にとっては生きる上で災厄なわけで、それが甕の外に飛び去ることなく、ぐずぐずと残ってくれたおかげで、人類は「予兆」に悩まされることなく生きることができる、ということだろうか。
つまり、「絶望」が地に満ちなかったおかげで、人類は「希望」を持って生きていける、というわけだ。
ちなみに、エピメテウスとパンドラ夫婦自身は、あまり厄災に煩わされなかったそうで、その後に起こった大洪水も、息子夫婦たちと一緒に生き延びている。
画像は、ルドン「パンドラ」。
オディロン・ルドン(Odilon Redon, 1840-1916, French)
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ギリシャ神話あれこれ:パンドラの箱(続)

この、災厄をもたらす役目を果たすのが、「女性」という存在。まわりくどいやり方だが、女性を介することで、女性そのものが災厄なのだと言いたくもあるらしい。
……女性に対しては、聖書なんかよりはるかに寛容なギリシャ神話だけれど、この「女は災い」的な発想はちょっと、男性本位すぎるかな。
ゼウスは鍛冶神ヘパイストスに命じて、泥土をこね、不死なる女神に姿を似せた人形を作らせる。生命を吹き込まれたこの乙女に、神々は競って贈りものを与える。アテナは女の知恵と技芸の能力を、アプロディテは男を悩殺する魅力を、アポロンは妙なる歌声を、ヘルメスは恥知らずな心と狡猾な気立てを。云々。
このため、この人類最初の女は、パンドラ、すなわち「あまねく贈られた女」と名づけられる。
最後にゼウスが、「決して開けてはならないぞ」と強く言い含めて、甕(あるいは手箱)を持たせてやる。
こうしてパンドラは、ヘルメスに連れられて、プロメテウスの弟であるエピメテウス(「後から慮る者」の意)のもとへと送られる。
さて、「先に慮る者」であるプロメテウスは、ゼウスの報復を予見し、「ゼウスからの贈り物は一切受け取ってはならない」と、弟エピメテウスにかねがね警告してあった。が、美貌のパンドラを一目見るなり、思慮の足りないエピメテウスは、兄の言葉などコロリと忘れて、彼女を妻に迎え入れる。この男は、後になって、取り返しがつかなくなってしまってから初めて、物事の故を考えて、後悔に嘆くのだ。
To be continued...
画像は、アルマ=タデマ「パンドラ」。
ローレンス・アルマ=タデマ(Lawrence Alma-Tadema, 1836-1912, Dutch)
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ギリシャ神話あれこれ:パンドラの箱

誰もが知っている有名な寓話、「パンドラの箱」。
パンドラの箱には、世のあらゆる災厄が封印されていた。そうとは知らないパンドラは、つい箱の中身が気になって覗いてしまう。すると箱からは、災厄たちがことごとく飛び出していった。そのせいで、地上は災厄に満ちるはめになった。
が、ただ一つ、箱のなかには「希望」が残った。なので、人類は、災厄にも関わらず希望を持ち続けることができる。……という話。
私は子供の頃、この話の意味がよく分からなかった。箱の中身があらゆる災厄だったなら、「希望」も災厄の一つということなのか? 「希望」は、どういう理由で災厄なのか? 反対に、もし「希望」だけが災厄でないなら、なぜ、災厄の箱に「希望」が入っていたのか? 「希望」も箱から飛び出していたら、地上には「希望」が満ちたのに、逆に箱に残ったのだから、人類が「希望」を持つことはできないんじゃないか? それとも、「希望」というのは他のあらゆる災厄を凌駕する、最悪の災厄で、それが地に飛び去らないでくれたことは、他の災厄すべてをこうむってあまりあるほどの幸運だったのか?……云々。
ちなみに、今でもよく分からない。
さて、「パンドラの箱」の寓話の出所は、ギリシャ神話。
プロメテウスが天界から火を盗み、人類に与えたことに激怒した大神ゼウス。ゼウスはプロメテウスに対する罰として、大岩に磔にして生きながら内蔵を大鷲についばませる一方、人類には火の償いとして、災厄をもたらすことにする。
To be continued...
画像は、ウォーターハウス「パンドラ」
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
(John William Waterhouse, 1849-1917, British)
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