世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
ギリシャ神話あれこれ:海のトリトン

どうしてくれよう、このブログ。ドラフトばかりが増えていく。
トリトンは、ギリシャ神話において私が最初に出会った神さま。手塚治虫「海のトリトン」がきっかけだった。
「海のトリトン」では、トリトンは人魚だという設定。実際のところ、トリトンというのは半身半魚の海神で、海神ポセイドンと、その正妻アンピトリテの子という、由緒正しい血筋。
上半身は人間だが、下半身は魚の尾(あるいは蛇)を持つ、平たく言えば男の人魚という姿。父神の海底の宮殿に暮らしている。
が、穏やかな日和には浮かび上がり、波間から顔を覗かせて、法螺貝を吹き鳴らす。このラッパのような法螺貝が、トリトンの最たるアイテムで、波を立てたり鎮めたりできる。デウカリオンの大洪水が引いたのも、このトリトンの法螺貝のおかげ。この法螺貝、巨人族キガンテスが驚いて逃げ出すほどの、凄まじい音も出る。
女好きで、海のニンフであるネレイデスたちと行動をともにし、ときにふざけたり、誘ったり、襲ったりする。が、悪さはしても、性悪ではない、罪のない悪戯者。好色で異形、人呼んで「海のサテュロス」。
トリトンというのは徹頭徹尾、脇役で、エピソードらしいものは特にない。ボイティアのタナグラで、酒神ディオニュソスの信女たちが、祭儀の前に海辺で身を清めているところを、むらむらとなったトリトンが襲いかかったことがある。が、信女たちがディオニュソス神に助けを求め、それに応えたディオニュソスは、呆っ気なくトリトンを追い払ってしまった。
トリトンはこのタナグラで、家畜をかっぱらったり、小舟をひっくりかえしたりと、悪戯ばかりしたので、タナグラの民もたまりかねた。トリトンに酒甕を送り、トリトンが葡萄酒を飲み干して前後不覚に眠り込んでいるところを、斧で首を刎ねてしまったという。
自業自得とはいえ、お気の毒。
画像は、ベックリン「トリトンとネレイド」。
アルノルト・ベックリン(Arnold Böcklin, 1827-1901, Swiss)
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デウカリオンの洪水
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ギリシャ神話あれこれ:アトレウス兄弟の復讐合戦(続々々々々々)

テュエステスが王位に就くと、アトレウスの子アガメムノンとメネラオスは、乳母の手によってミュケナイを逃れ、諸王のもとを転々とする。やがて二人は、スパルタの王テュンダレオスにかくまわれて育ち、青年となる。
王には美貌の双子の娘、クリュタイムネストラとヘレネがあった。このスパルタ滞在時に、アガメムノンは、クリュタイムネストラに恋慕したのかも知れない。
が、クリュタイムネストラのほうは、アガメムノンの仇敵であるテュエステスの息子タンタロス(なぜテュエステスの殺された子が生きているのか、ちょっと分からないのだが)に、さっさと嫁いでいった。タンタロスとクリュタイムネストラは、案外に相思相愛だったらしい。
さて、アガメムノンとメネラオス兄弟は、テュンダレオス王の後ろ盾を得て、王位を奪還すべく、大軍を率いてミュケナイへと攻め入る。
テュエステスはあっさりと敗れ去る。彼はヘラ神の祭壇に逃れ、隠棲を誓い王位を明け渡して、ミュケナイを追われる。
アガメムノンはテュンダレオス王に、クリュタイムネストラを妻に得てもよいとの約束を取りつけていたので、ミュケナイ奪還の機に乗じて、彼女の夫タンタロスを、その幼子もろとも、容赦なく殺してしまう。
が、肝心のアイギストスは逃げ延び、復讐を誓うのだった。
こうして今度は、アトレウスの長子アガメムノンがミュケナイ王となり、クリュタイムネストラを妻とする。また、次子メネラオスは、テュンダレオス王のもう一人の娘ヘレネを妻に得、義父を継いでスパルタ王となる。アガメムノン兄弟は、ギリシア諸王盟主として、絶大な権力を持つに到った。
が、この後、運悪しくトロイア戦争が起こる。アガメムノン兄弟がトロイア遠征へと向かう一方、アイギストスは、アガメムノン王の不在に乗じてミュケナイに舞い戻り、王妃クリュタイムネストラと情を通じる。
二人はやがて共謀し、凱旋当夜に、アガメムノンを殺害することとなる。
画像は、ゲラン「眠るアガメムノンを殺害する前に躊躇するクリュタイムネストラ」。
ピエール=ナルシス・ゲラン(Pierre-Narcisse Guerin, 1774-1833, French)
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ギリシャ神話あれこれ:アトレウス兄弟の復讐合戦(続々々々々)

テュエステスを暗殺するため牢を訪れたアイギストスだったが、その手に握るいわくの剣を一目見るなり、テュエステスは血相を変えて、剣の出所を執拗に問いただす。
これは母の剣なのだ、とアイギストス。
じゃあ、その母という女に会わせてくれ! とテュエステス。
……こういう悠長な展開が、ギリシャ神話にはある。こうしてテュエステスとペロピアは対面し、互いが父娘だと知る。
で、テュエステスはアイギストスに語る。お前の真の父はこの俺なのだ。兄アトレウスは俺に、俺の子供たちを殺してその肉を食わせたのだ。なので、復讐のため、神託に従い、娘ペロピアと交わって、お前を生ませたのだ。……
ペロピアは戦慄し、実父と交わって子を生んだ不義の恥辱に耐えられず、その剣で胸を突いて自殺してしまう。
一方、テュエステスは、出生の秘密を知った今、宿命どおり、仇敵アトレウスを誅殺するよう、アイギストスに告げる。
そうだ、父殺しの罪を犯すわけにはいかない! アイギストスは、母の血にまみれた剣を持ってアトレウスのもとへ行き、テュエステスを葬り去った、と虚偽を告げる。
アトレウスは喜び、神々に感謝すべく祭壇を用意する。その祭壇で、アイギストスは養父であり伯父でもあるアトレウスを刺し殺す。
こうして、ミュケナイの実権を手にしたアイギストスは、父テュエステスを王に復位させる。
が、アトレウスの子であるアガメムノンとメネラオスは、乳母に連れられてミュケナイを落ち延びる。アトレウスとテュエステスの因縁の不和は、その後裔へと受け継がれていく。
To be continued...
画像は、ゴッドワード「デルポイの神託」。
ジョン・ウィリアム・ゴッドワード
(John William Godward, 1861-1922, British)
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ギリシャ神話あれこれ:アトレウス兄弟の復讐合戦(続々々々)

一方、アトレウスの過剰な報復を嫌忌した神々によって、ミュケナイは深刻な飢饉に襲われる。アトレウスが神託を求めたところ、神託は、テュエステスの追放を解くよう告げる。
そこでアトレウスは、弟テュエステスを探して訪ね歩く。この旅すがら、アトレウスはシキュオンの王宮で、ペロピアを見初めてしまう。
テスプロトス王がペロピアを自分の娘だと偽ったため、アトレウスは彼女を妻として貰い受ける。が、実際のところは、ペロピアはアトレウスの姪に当たり、しかもこのとき、父テュエステスの子を身籠っていたのだった。
見知らぬ男に犯されてできた赤ん坊の存在を、どうやって臨月まで夫アトレウスに隠したのかは分からない。まもなくペロピアは運命の赤ん坊を、人知れず出産する。産み落とされた赤ん坊はこっそりと捨てられたが、牧夫に拾われ、アイギストスと命名されて育てられた。
だが、やがてアイギストスの存在は、アトレウスの知るところとなる。妻の子は即ち自分の子。彼はアイギストスを引き取り、我が子として養育する。
やがてアイギストスが成人したとき……
かねてより捜索されていたテュエステスが捕らえられ、ミュケナイへと引っ立てられて、牢に繋がれる。神託どおりに弟を連れ戻してみると、昔日の怨念が再燃したのか、あるいは王位を脅かす仇敵として怖れたか、アトレウスは弟を刺殺するよう、ひそかにアイギストスに命じる。
アイギストスに手渡された剣。それは母ペロピアが、その昔、自分を犯した見知らぬ男から盗み取っておいた剣だった。
To be continued...
画像は、J.コリア「デルポイの巫女」。
ジョン・コリア(John Collier, 1850-1934, British)
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ギリシャ神話あれこれ:アトレウス兄弟の復讐合戦(続々々)

ミュケナイの王となった兄アトレウスだが、弟テュエステスの王位に対する野望と謀計を知るに及んで、なぜ弟が自分の金羊毛を手に入れることができたのか、その事情に思い到る。それは妻アエロペの不義と裏切り。
弟を深く憎悪したアトレウスは、追放という処分では生ぬるいと考え、さらに残忍な復讐を思い立つ。
アトレウスは、和解したいと持ちかけて弟を帰国させ、晩餐に招く。だがその肉は、弟の三人の子らを、命乞いするのも無視して殺害し、四肢を切り細裂いて料理したものだった。
何も知らないテュエステスは、我が子の肉を腹いっぱいに食べ尽くし、食後には我が子の血を混ぜたワインを飲む。するとアトレウスは、三人の子の首を見せて、我が子を食らう人め! とテュエステスを侮辱する。
テュエステスは驚愕し、絶叫し、嘔吐して、食卓を蹴り倒すと、この食卓同様、お前の一族も覆るがいい! と呪詛して遁走する。
こうしてアトレウスの報復は終わる。その残忍さを神々は嫌悪し、太陽は顔を背けて東に沈んだという。
一方、テュエステスのほうは怨念を晴らさずにはいられない。兄への復讐を誓って、デルポイの神託を乞う。すると、「自らの娘と交わって子を得よ」。
……ギリシャ神話では、近親相姦というのは神々にのみ許される行為で、人間には禁忌されている。が、テュエステスの兄に対する怨恨は、禁忌への畏怖に勝った。
テュエステスは、娘ペロピアのいるシキュオンの王宮へと向かう。ペロピアは当夜、テスプロトス王のもとで、アテナ神の祭祀をしていたが、犠牲の獣の血で衣装を汚してしまった。そこで森に入り、衣装を脱いで川で洗いはじめる。
そこへ、茂みに隠れていたテュエステスが、顔を隠してペロピアに襲いかかると、遮二無二強姦する。このときペロピアは、自分を犯した男の剣をこっそりと抜き取って、それをアテナ神祭壇に隠しておいた。
こうして神託に従ったテュエステスは、そのままいずこへか去っていく。
To be continued...
画像は、ブーシェ「弟テュエステスに彼の子供たちの首を見せるアトレウス」。
フランソワ・ブーシェ(Francois Boucher, 1703-1770, French)
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