世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
ギリシャ神話あれこれ:オレステスの復讐(続々々)

オレステスにとって、父の仇を討つことは、アポロン神も命じた正義だった。が、やはり、母殺しという犯した大罪から免れることはできなかった。
オレステスが母を殺すと、母は怨霊となってオレステスを呪う。この母の呪いが復讐の女神エリニュスたちを呼び寄せる。かつてはオレステスに父王の復讐を囁いたエリニュスたちが、たちまち、幻影となってオレステスを襲いはじめる。オレステスだけに見えるおどろおどろしい異形の姿で、執拗に彼を追い、脅かし、悩ませる。
発狂したオレステスは、安息なく諸国をさまようこととなる。
そんなこんなの狂乱の放浪が、何年続いたのかは、よく分からない。結局オレステスは、デルフォイの神殿にたどり着き、アポロンに神助を乞う。もとはと言えば、母を殺して正義をまっとうせよと命じたのは、アポロンだったわけだから。
神殿のなかで、狂気から昏倒し、エリニュスの群れに取り巻かれて昏々と眠るオレステス。彼の哀れな放浪のあいだ、なぜか長らく姿を現わさなかったアポロンだったが、このときは彼に導きを与える。アテナイに赴き、裁きを受けるがよい。
オレステスはアテナイへと向かう。アレスの丘で裁きが行なわれる。裁判官アテナ、被告人オレステス、検察官エリニュス、弁護人アポロン、陪審員アテナイ市民12名。
陪審員の票は分かれ、有罪と無罪が同数だった。すると、アテナ自身が無罪に一票を投じ、オレステスは放免となる。
エリニュスたちは激怒する。が、アテナ神がなだめる。憎悪の連鎖を断とうではないか。あなた方は今後、アテナイの守護神となってはくれまいか?
エリニュスたちは折れ、かくして「復讐の女神」は「慈しみの女神(エウメニデス)」となる。
To be continued...
画像は、モロー「オレステスとエリニュスたち」。
ギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau, 1826-1898, French)
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ギリシャ神話あれこれ:オレステスの復讐(続々)

さて、ピュラデスを伴い密かにミュケナイへと戻ったオレステスは、父王アガメムノンの墓を参り、切った髪房を墓前に捧げる。そこへ、卑しい身なりの奴隷女が、墓参りに現われる。それは、弟オレステスが父アガメムノンの仇を討つ日を心待ちに待つ、姉エレクトラだった。
エレクトラが、この髪の主は? とオレステスらに尋ねる。オレステスらは、あらかじめ練っておいた計画どおり、もっともらしく説明する。このたび、ポキスに身を寄せていたオレステスが不慮の死を遂げたため、王の館まで届けるべく遺骨を持参したところだ、と。
途端に奴隷女が、わっとばかりに泣き崩れる。骨壷はこの私に渡してほしい。なぜなら私は、死んだオレステスの姉エレクトラなのだから。
オレステスはびっくり仰天。こちらも素性を明かして、姉弟は思わぬ再会を喜び合う。
エレクトラは一足先に館に戻り、アイギストスとクリュタイムネストラに、オレステスがポキスで死に、使者たちが遺骨を届けに来た、と告げ知らせる。この偽りの報告を真に受けて、安堵するアイギストスたち。が、形だけは弔意を表して、旅商人に扮したオレステスとピュラデスを館に招き入れる。
こうしてまんまと館に入り、アイギストスらの眼前に出たオレステスは、アイギストスをばっさりと切り殺す。
おお、愛しいアイギストスよ、と情夫の死を嘆くクリュタイムネストラの言葉を聞いて、オレステスは憎悪する。この男が愛しいか、ならお前も同じ墓に入れてやろう。そう意って近づく旅商人が、息子オレステスだと気づいたクリュタイムネストラは、胸をはだけて乳房を見せ、命乞いする。この母の乳を飲んだことを忘れたのか、と。
が、オレステスは母を切り殺し、父アガメムノンの復讐を果たす。
To be continued...
画像は、ブグロー「エリニュスたちに追われるオレステス」。
ウィリアム・アドルフ・ブーグロー
(William Adolphe Bouguereau, 1825-1905, French)
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ギリシャ神話あれこれ:オレステスの復讐(続)

オレステスを逃した後、エレクトラはオレステスの成長と帰国を待ちながら、長らく隠忍の生活を送ることになる。王妃の情夫が王位を簒奪し、王を僭称する。これはエレクトラにとって、父を殺した罪人が同じ館に住まい、父の王座に腰かけ、父の王衣を着、母とともに父の臥床に入る屈辱だった。
母と情夫は、エレクトラを下女同然に待遇し、貧しい農夫に嫁がせてしまう。母たちはエレクトラから高貴な生まれを取り上げることで、その復讐心を萎えさせようとしたらしい。が、エレクトラを敬愛していた農夫は、彼女に手を出さなかったという。
一方、ポキスに落ち延びたオレステスは、王の息子ピュラデスとともに育つ。二人は無二の親友となった。
やがて成人したオレステスは、のっぴきならないジレンマに陥る。古代、殺された父の仇を討つことは至上命題である一方、母殺しは最も忌まわしい大罪とされていた。
オレステスはピュラデスとともにデルポイに赴き、アポロンの神託を受ける。すると、
「死をもって死に報いよ」……
オレステスは意を決し、神託に従って、父の仇を討つべくミュケナイへと向かう。
To be continued...
画像は、メイ「アイギストスとクリュタイムネストラを殺すオレステス」。
ベルナルディーノ・メイ(Bernardino Mei, 1612-1676, Italian)
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ギリシャ神話あれこれ:オレステスの復讐

ミュケナイ王族の血塗られた復讐劇を総括するのが、オレステスの物語。もちろん私は、これ苦手。殺伐とした復讐譚だからでもあるし、おぞましい復讐の女神たちに取り憑かれるからでもある。が、一番の理由は、オレステスとエレクトラの姉弟の関係が、近親相姦的だから。
ギリシャ神話の近親相姦は、この姉弟に限ったことではないのだが、この姉弟のモチーフは、後世の文学やら映画やらでやたら繰り返し取り上げられている。これが怖ろしい。例えば、ナチス親衛隊将校を描いた、ジョナサン・リテル「慈しみの女神たち」。このインパクト、今後十年は、私の脳裏から去らないだろう。
ミュケナイ王アガメムノンの妻であるクリュタイムネストラには、アルテミス神への生贄となって死んだ娘イピゲネイアの他に、エレクトラとオレステスの二人の子があった。
アガメムノンがトロイアに遠征すると、もともと夫に愛情など持っていなかったクリュタイムネストラは、情欲と権力欲とから彼女に言い寄ってきたアイギストスを情夫とした。アイギストスはクリュタイムネストラが愛した前夫タンタロスの弟に当たる。
クリュタイムネストラは死んだイピゲネイアだけは溺愛していたが、それはイピゲネイアがアガメムノンではなく、前夫との娘だったからだという。なら、アガメムノンとの子であるエレクトラとオレステスを、クリュタイムネストラが愛さなかったとしても仕方がない。
父王の留守中、館の主となった母と情夫の影で、エレクトラとオレステスの姉弟は、互いに寄り添い合って暮らしていたのだろう。
凱旋したまさにその夜に父王が殺されたとき、ミュケナイを継ぐ後嗣だった幼いオレステスは、姉エレクトラの手引きで、血縁に当たるポキスの王ストロピオスのもとへと逃れる。エレクトラは、王の息子ピュラデスの許嫁だった。
To be continued...
画像は、F.レイトン「アガメムノンの墓前に立つエレクトラ」。
フレデリック・レイトン(Frederic Leighton, 1830-1896, British)
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ギリシャ神話あれこれ:アガメムノンの暗殺(続々)

予言の力を持つカッサンドラは、自らの運命を知り、ただ一緒に死ぬために、故郷からこの異国まで連れて来られた不運を、意味不明な言葉で呟いて、なかなか館に入ろうとしない。だがとうとう観念すると、自らを弔う歌を口ずさみながら、館へと入っていく。
館ではクリュタイムネストラがアガメムノンに長旅をねぎらい、湯浴みを勧める。今度も妻にそそのかされて、湯浴みするアガメムノン。
そこへクリュタイムネストラが忍び寄り、衣を投げ網のように絡ませて、夫の動きを封じたところを、あるいは、首と袖を閉じておいた衣を渡しておいて、夫が着衣するのに手間取っているところを、剣(あるいは斧)でずたずたに切り殺す。カッサンドラもまた、夫の道連れにと、殺してしまう。
そして血に濡れた剣を手に、これは娘イピゲネイアの復讐だ、正義は果たされたのだ! と宣言する。
アガメムノン、凱旋当夜に呆っ気ない最期。自業自得とはいえ、お気の毒。
クリュタイムネストラは、まだ幼い息子オレステスもまた、生かしておけば後々の災いとなろう、と殺害を図る。が、娘であるエレクトラが一足先に、弟オレステスを下男に託して、ミュケナイを落ち延びさせる。
王謀殺の凶行の後、王妃クリュタイムネストラは、晴れて夫となったアイギストスをミュケナイの王とする。
が、エレクトラの手引きによって逃げ延びたオレステスが、やがて成長し、実の母を殺して、父の復讐を果たすのだった。
……こうやって延々と、復讐の復讐、そのまた復讐が続いていく。げに怖ろしや、怨嗟の連鎖と継承かな。
画像は、J.コリア「殺害を終えたクリュタイムネストラ」。
ジョン・コリア(John Collier, 1850-1934, British)
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