元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「茄子 アンダルシアの夏」

2008-02-18 06:34:53 | 映画の感想(な行)
 2003年作品。黒田硫黄の漫画を原作としたアニメーション。スペインの自転車ロードレース“ブエルタ・ア・エスパーニャ”に出場する主人公ペペ・ベネンヘリの活躍を描く。高坂希太郎が監督・脚本・キャラクターデザイン・作画監督を務め、第56回カンヌ国際映画祭の監督週間に出品されている。

 黒田硫黄による原作漫画を立ち読みしてみたら、映画がまさに“原作通り”に作ってあることに驚いた。もちろん、原作を完全に無視して好き勝手に映画化するのは諸手を挙げて賛同できないが、あまりにも原作を忠実にトレースしている本作に作家性を発揮する余地があったのか疑問である。監督の高坂はスタジオジブリで作画を担当していた人物だが、キャラクターデザイン等(特に、変形サングラスをかけたジイさん)は従来のジブリ作品の追随でしかなく、ますますもって独自性が薄い。正直言って製作意図がわからない映画である。

 ひょっとして高坂にとって“長編作品を手掛けるための肩慣らし”という意味があったのかもしれない。内容も中途半端で、登場人物がすべて“ヘンに日本人っぽいガイジン”なので感情移入がしにくい上、漫画では気にならないセリフ回しも(弱体気味の声優陣も相まって)映画になるとぎこちない。50分弱の上映時間では物語のバックグラウンドにまで言及できず、かといってこの語り口では一時間半に引き延ばしたところで間延びするだけだ。画面にアンダルシアらしい明るさがないのもマイナス。

 自転車レースの場面はさすがに良く出来ているが、すでに「ヤング・ゼネレーション」や「アメリカン・フライヤー」といった素晴らしい“実写の自転車競争映画”に接している身にすれば、これは“アニメでもここまでやれました”という技術的アピールでしかない。カンヌの監督週間に出品した心意気は買うものの、中身が追いついていない印象を受けた。
コメント
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