元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ラスト、コーション」

2008-02-07 06:43:32 | 映画の感想(ら行)

 (原題:Lust,Caution/色・戒)ひょっとしたら、映画において、戦時とエロとは相性が良いのかもしれない(爆)。

 戦時中あるいは政情不安な時期は前線だろうが内地だろうが関係なく、人々の(負の)テンションは異様に高揚する。世の中を不安が覆い明日が見えない状況、理性で建前を保持することが困難になり、自暴自棄的に目の前にある刹那的な快楽に溺れる。切迫する世情と、個人レベルとの劣情とのコントラストが絶妙の映画的効果を生むことがある。「愛のコリーダ」とか「存在の耐えられない軽さ」とかいった好例もあることだし、まったくの見当外れでもないだろう。

 さて、本作はその“戦時とエロとのマッチング”の妙味を前面に出した力作だと思う。1942年、日本占領下の上海を舞台に、日本軍に協力している特務機関長と、彼を色仕掛けで籠絡しようとする抗日運動の工作員の若い女との濃厚な日々を描いた本作、背景となる複雑な政治情勢や各種イデオロギーの交錯などハナから眼中にないらしい。とにかくねっとりと濡れ場を追うことに重点が置かれている。

 実を言えばベッドシーンの釣瓶打ちになるのは中盤近くになってからだが、それまでは時代背景の紹介というより、エロい場面に至る設定の説明に終始している。たとえば国民党のプロ活動家にいいように利用される学生達の愚かさや哀れさは、あまり強調されていない。内乱で故郷を追われるヒロインとその家族の辛酸も、大して描かれてはいない。ただ中盤以降の話のバックグラウンドとして扱われるだけ。特務機関長のプロフィールに至っては最初から詳述する気はないようだ。

 よって前半部分は退屈とも言えるのだが、それだけに後半の性描写は“目が覚める”ような盛り上がりを見せる(笑)。中国では当局側が国民に“マネしちゃいけません!”との呼びかけをおこなったらしいが、なるほど本気でマネしようとすると確実に腰を悪くするような、アクロバティックな体位の連続だ。不穏な世情をしばし忘れるかのようなドロドロの愛欲が見事なスペクタクルを生み出している。

 トニー・レオンはこの“難行苦行”をクリアするべくかなりの頑張りを見せていて感心するが、相手役のタン・ウェイの大胆演技も光っている。ただし、彼女は服を着ているときは垢抜けなくて田舎臭く、服を脱いだら身体の線がスッキリとしておらずオバサン臭いので、台湾の映画賞で新人賞を受賞したほどの素材とは思えないのが辛いところだ。

 アン・リー監督作品としては前作「ブロークバック・マウンテン」ほどの普遍的な感銘度はないが、良い意味での“ロマンポルノ大作(?)”としての風格はある。深遠な時代考証による重厚感のあるセットや格調の高い音楽など、細部にも抜かりはない。
コメント (2)
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