元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「かあちゃん」

2008-02-16 07:21:57 | 映画の感想(か行)
 先ごろ惜しくも逝去した市川崑監督の、2001年度作品。江戸時代の貧乏長屋を舞台に、情に深く、人を信頼することを子供達に教えてきたひとりの母親を巡る人情ドラマだ。

 公開当時いくつかの映画評で指摘されているがこれは“落語の映画化”である。各キャラクターの台詞は棒読みのようで、心情表現をそのままモノローグとして語っているばかりか、ドラマの状況等も延々と登場人物が説明してくれる。場面展開も限られ、役者の動かし方も平板。こういう落語的手法は、映像で語る映画の特質と相容れないはずだが、市川崑監督はこれを確信犯的に全面展開させることにより、紙一重で失敗を回避している。

 上映時間が短いのも“ボロの出ないうちにサッと引き上げる”という意味で賢明だ。結果として山本周五郎の原作のエッセンスをうまく伝える人情時代劇に仕上がったと思う。岸恵子の“かあちゃん”はもう少し柔らかさが欲しいが、口八丁手八丁ぶりはよく出ていた。お馴染みの“銀残し”の映像も含めて、市川監督の技巧的な“攻め”の姿勢には敬意を表したい。味のある小品である。

 それにしても、市川監督はついこの前まで現役だったことが信じられないほどの高齢だったので、鬼籍に入ったことは残念ではあるが“ああ、とうとう・・・・でも仕方ないか”という感慨を持ったのも確かだ。しかし心配なのは巨匠を失った今後の日本映画界である。年代からすれば森田芳光や根岸吉太郎などの80年代前半にデビューした面々が“第一線の演出家”ということになってしまうが、ハッキリ言って彼らは頼りない。

 昨今は“邦画バブル”と言われたほど興行的に上向いた日本映画だが、本当に信用のおける人材は実は少ないのだ。バブルはいつかは破裂するが、それがごく近い将来であっても不思議ではないと思う。
コメント
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