元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」

2008-02-03 07:51:31 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Sweeney Todd Demon Barber of Fleet Street )観終わった後に釈然としない気分が残るのは、主人公の行動に関する説明がスッポリ抜けているからだ。

 実直な理髪師だった男が、悪徳判事の陰謀により流刑になった挙げ句に妻子と職を失い、15年後にスウィーニー・トッドと名を変えてロンドンに舞い戻ってくるあたりまでは良い。しかし、復讐の対象はあくまで判事とその手下であるべきなのに、彼は理髪店にやって来る客を無差別的にカミソリの餌食にする。この単なる復讐者がどうして通り魔的なテロリストへと変貌するのか、そのプロセスを映画はまったく描かない。だから、物語に説得力がない。

 原案になったのは有名な都市伝説らしい「理髪師とパイ屋の話」で、それがミュージカル化されてトニー賞8部門を受賞。本作はその映画版だが、はっきり言ってスウィーニー・トッドの話みたいなヨソの国の定番ホラー譚(?)など、こっちは縁がない。だからいくらアチラでの“お約束の話”だろうが、筋の通ったプロットを提示してもらわないと観る側は納得しないのである。

 おそらく、当初は判事個人に対する恨みでしかなかったのが、長い歳月の間の屈折に次ぐ屈折で世の中全体を逆恨みするような虚無主義にまで落ち込んでしまったのだろうが、その過程を明確に提示した方が後半のお祭り騒ぎ的な凶行場面のオンパレードよりもよっぽど映画としての興趣に繋がったと思う。

 ティム・バートンの演出はテンポが良く、最後まで退屈させないだけのヴォルテージを維持している。残虐場面もどこかオフビートで笑いを誘う。19世紀ロンドンの暗鬱な雰囲気、モノクロに近い色調、効果的なVFXと、映像面のレベルは低くはない。

 主演のジョニー・デップは実に気持ちよさそうに狂った理髪師を熱演。しかも、元々はミュージカルだけあって、吹き替え無しで歌いまくる(けっこう上手い)。トッドが殺した客の死体を解体してミートパイの材料にするパイ屋の女主人役のヘレナ・ボナム=カーターも達者な歌声を披露するし、判事役のアラン・リックマンも控えめながら音楽に合わせて口を動かしているのは御愛嬌だ(爆)。いつものダニー・エルフマンではなく、舞台版と同じスティーヴン・ソンドハイムの楽曲が使われているが、これがなかなかにドラマティックでよろしい。

 ただし、それだけに前述のキャラクター設定の御都合主義ぶりが惜しい。“舞台と映画とは違う!”といったスタンスで脚本を練り直す必要があったようだ。
コメント
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