元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「エリザベス:ゴールデン・エイジ」

2008-02-19 06:33:25 | 映画の感想(あ行)

 (原題:ELIZABETH THE GOLDEN AGE)見た目は豪華絢爛だが、中身は薄い。98年に製作された前作「エリザベス」では、即位したばかりの若い女王の周辺でドロドロとした権謀術数が巻き起こり、女王本人はというと当惑するばかりだった。それがまた政治の“真実”というか、国の中枢に居ること自体が手を汚さざるを得ない状況に陥るといった、身も蓋もない有り様を見せつけて、歴史好き・政治ネタ好きの観客にとっては大いに興趣を覚える出来になっていたのだ。

 しかし女王として手腕を振るうようになってからを描く本作では、主人公の女傑としての存在感こそあるものの、事は段取り通り進むばかりで、ストーリー面での面白さはない。

 時は1585年、ヨーロッパの覇権を狙う大国スペインとの決戦は避けられず、スコットランド女王メアリー・スチュワートとの確執も抱えて、女王にとっては風雲急を告げる時期だったはずだが、映画はただ事実を並べるばかりで観客を唸らせるような仕掛けはほとんど見られない。ドラマティックに見せるべき暗殺未遂騒ぎも、メアリー・スチュワートの処刑も、画面にはパッションが感じられず平板に進むのみ。

 それではいけないと思ったか、航海士ウォルター・ローリーとの色恋沙汰が挿入されるが、これがまた取って付けた感じでほとんど盛り上がらない。ローリーと侍女ベスとの関係に嫉妬する女王も“ちょっとジェラシーを感じてしまいました(笑)”という程度で、激しい内面の吐露も見られない。

 スペイン無敵艦隊を打ち破るアルマダ海戦は世界史のターニング・ポイントともなる重大事件だが、これがまた見かけはハデながら映画を観る限り何がどうなっているのかサッパリ分からない。いかにしてわずかな手勢で強大な敵を打ち破ったのか、それを描いてこそ映画的高揚に結び付くはずだが、作者はそのことにまったく興味はないらしい。

 では何があるのかというと、おそらくはエリザベス女王その人をスクリーンの上で闊歩させたいという、呆れるほど単純な製作動機であろう。画面の中心に女王がいればそれで満足してしまう、その手前勝手な願望だけで一本作ってしまう作者の執着については、まあ見上げたものかもしれない。そういうば監督シェカール・カプールは、前作を撮ってから本作まで10年近くも他にめぼしい仕事をしていないみたいだ(爆)。

 主演のケイト・ブランシェットは大熱演だが、映画自体が掘り下げの浅い作りゆえ意気込みが空回りしているように見える。なお、音楽にインド映画ではお馴染みのA・R・ラフマンが参加していてけっこう良い仕事をしていた。彼もハリウッドに本格進出するつもりなのだろうか。
コメント
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