元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「人のセックスを笑うな」

2008-02-05 06:44:19 | 映画の感想(は行)

 悪くはないのだが、いまひとつ工夫が足りないと思った。監督の井口奈己は矢崎仁司監督の「三月のライオン」のスタッフから映画人としてのキャリアを始めたらしいが、そのせいか作風が良くも悪くも矢崎監督の影響下にある。

 音声はオフ気味で演技は常時“自然体”をキープ、長回し主体のカメラワーク、起伏のない(ように見える)ストーリー展開etc.矢崎作品ではおなじみのタッチは通常のドラマを見慣れた目には新鮮に映るが、この調子で決して短くはない上映時間を保たせることは困難だ。

 実を言えば矢崎監督の作品の中で唯一語る価値があるのは「風たちの午後」(80年)だけである。あの映画がどうして成功したかといえば、淡々とした作劇のエクステリアとは裏腹にストーリー自体は実にドラマティックで、このコントラストが目を見張る映画的興奮を生み出したからだ。対してこの「人のセックスを笑うな」ではタッチが淡々としたまま物語も淡々として、結果中盤以降はけっこう退屈である。

 こういうのはボロの出ないうちにサッと切り上げるのが肝要だ。あと30分は削って欲しかったし、脚本を工夫して思い切った仕掛けを用意しても良かったのではないか(まあ、山崎ナオコーラによる原作をあまり逸脱できないので難しかったとは思うが ^^;)。

 しかし本作が「三月のライオン」のような退屈至極な凡作と一線を画しているのは、キャストの妙演に尽きる。不貞不貞しさと狡猾さ、そして何とも言えない純情ぶりをも併せ持つ、年齢不詳の女を演じる永作博美の存在感。彼女と懇ろな関係になる大学生の松山ケンイチも優柔不断でナイーヴ過ぎる若者像を好演。彼の友人に扮する忍成修吾もイイ味出している。圧巻は松山に想いを寄せている女子学生役の蒼井優で、自然体にこだわった映画作りの中でも“超”の付くほどの自然体。キュートな衣装も実に似合っていて、永作をも完全に凌ぐヴォルテージの高さだ。

 余談だが、美大を舞台にした四角関係ということで「ハチミツとクローバー」を彷彿とさせる。蒼井優が出ているのも共通しているし・・・・(^_^;)。ただし、制作シーンがあまりないのは不満。美術作品のひとつが登場人物の心象風景になっているとか、主題を象徴しているとか、そういった仕掛けがあっても良かった。

 HAKASE-SUNによる音楽、御大・木村威夫の美術は万全。武田カオリによる挿入歌も印象的だ。撮影場所となった群馬県桐生市の街の佇まいも捨てがたい。
コメント
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