元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「GONIN」

2008-02-01 06:33:30 | 映画の感想(英数)
 95年作品。倒産しかけたディスコのオーナー(佐藤浩市)、汚職に手を染めキャバレーの用心棒にまで成り下がった元刑事(根津甚八)、リストラで会社を追われたサラリーマン(竹中直人)、前科者のホモ青年(本木雅弘)、元ボクサーのチンピラ(椎名桔平)。せっぱつまった5人が計画したのが暴力団の事務所から大金を強奪することだった。見事に成功したものの、ヤクザの親分(永島敏行)と若頭(鶴見辰吾)は2人の殺し屋(ビートたけし、木村一八)を雇い、追撃を開始する。

 映画が終わって、しばらく席が立てなかった。こんなにキレた犯罪ドラマを観たのは何年ぶりか。まさしくこれは、Q・タランティーノの一連の作品に対する日本側からの回答である。それぞれ主役が張れる個性の強い面子を9人も揃えたにもかかわらず、全員に見せ場があり、しかも一人もオーバーアクトに走らないという作者の采配の見事さ、絶妙のキャスティング、そして演技の素晴らしさに圧倒される。

 たとえば佐藤と本木の秘めたる同性愛的関係と、それに呼応するたけしと木村の即物的なホモ関係。竹中が久々に見せる身の毛もよだつような狂人演技。ヤクザの怖さと人間的弱さが入り混じった永島の演技など、各キャストのベスト演技に値するものがこの一本に凝縮されている。

 監督は「ヌードの夜」などの石井隆だが、いつもの男と女のドロドロした関係を粘っこく描くようなタッチを捨て、全編これ男ばかりの、むせかえるような男のドラマに徹している。また、容姿の整った俳優が目立つせいか、ここでは男女のそれとは違う、男たちだけにしか出せない切迫したエロティシズムさえも感じられる。

 そしてアクション、暴力描写のキレ具合。最近のアメリカ映画みたいに、活劇場面を漫然と考えもなく流して“アクションでござい”と居直る恥知らずな態度は微塵もない。アクションの必然、暴力の必然たる噴怒のごとき感情の爆発。登場人物と観る者の立場と視点が完全に一致し、バイオレンス場面のあとは実際に自分が暴力をふるったかのような忌々しい悪寒と高揚した感情が横溢して、震えがくるほどだ。

 画面構成も見事の一言。佐藤の悪夢を描く導入部のモノクロのざらざらした質感や、の根津と本木が殴り込みをかけるシーンでのたけしと木村が現れる場面の構図。根津とその妻子が襲われるレストランのシーンの戦慄すべき展開や、ペキンパーばりの高速度撮影での銃撃シーンなど、ヘタするとハッタリに終わる手法もまるで無理がない。

 佐々木原保志のカメラによる濃密な夜の闇と、安川午朗のジワジワ盛り上げる音楽。突っ走る演出と、詩的な美しささえ感じるラストの処理。石井監督の「赤い眩暈」と並ぶ代表作になること必至の快作だ。好き嫌いはあると思うが、絶対にチェックすべき映画であると確信する。
コメント (2)
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