元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「息子の部屋」

2008-02-14 06:30:55 | 映画の感想(ま行)
 (原題:La Stanza del Figlio)2001年。イタリアの港町を舞台に、長男を事故でなくしたことにより、大きく傷ついた家族が再生に向けて歩みだしていく様を描く。監督・脚本・主演は「ナンニ・モレッティのエイプリル」のナンニ・モレッティ。その年のカンヌ国際映画祭でパルムドール賞を受賞している。

 主人公の息子の死がクライマックスとして設定されていないのは、残された家族が苦悩の果てにいかに彼の死と折り合いを付け、そして乗り越えていくかが映画の焦点になっているからだ。家族は息子が死ぬ時に誰も付いていてやれなかった。あの日緊急の仕事や用事がなければ、息子は今も生きていたかもしれない。そんなことを今さら考えても何も意味はないが、「あの時もしも」と詮無いことを思わずにはいられない両親の姿は、見ていて辛い。

 主人公の職業が精神分析医というのも効果的で、他人の悩みを聞いてやらなければならない彼が、一番苦悩に苛まれてゆくという皮肉はインパクトがある。

 だが、息子がかつて付き合っていたガールフレンドとの出会いにより、家族は再生に向かってゆく。浜辺に佇む彼等の姿をロングショットで捉え、明るくはないが決して悲観的ではない家族の未来を暗示する終盤のシーンは十分感動的だ。

 ジュゼッペ・ランチのカメラによるストイックな映像。モチーフとして扱われるブライアン・イーノの音楽の何と効果的なことか。しみじみとした佳篇であり、ナンニ・モレッティ作品としては最上の部類だろう。ただし、平易な語り口の良心作ながら才気走った部分がほとんどないこの映画が、カンヌ映画祭の大賞受賞作だという事実は少々首を傾げざるを得ない。
コメント
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