元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

伊藤たかみ「八月の路上に捨てる」

2006-10-13 06:47:33 | 読書感想文
 つまらない。妻との離婚を目前に控えた30歳間近の主人公のやるせない日々を綴った第135回芥川賞の受賞作だが、実に稚拙な出来である。

 何より思わせぶりな状況描写を延々と続けた後に、ただちに自分の心情を直截的にあらわすフレーズをくっつけるというパターンの繰り返しには脱力した。プロの小説書きにとって“彼は○○だと思いました”などという“説明文”は鬼門のはずだが、作者はそのへんを恥とも感じていないらしい。隠喩や暗示という言葉とは無縁であると思われる。

 主人公と妻、愛人、そして同僚のオバサンとの関係性も、ただ漫然と弛緩した情景を何の工夫もなく並べるのみ。特に愛人とのからみの場面において、底の浅い“幻想シーン”を得意満面で書き連ねているあたりは失笑してしまった。

 ハッキリ言ってこんな話、昔のロマンポルノなんかでよく見たような気がする(小説と映像というメディアの違いはあるが)。そしてロマンポルノの方が潔いというか、無為を無為として、だらしなさをありのまま受け入れる覚悟はあったように思える。対してこれは、だらしなさに対して言い訳ばかりしている。これじゃダメだダメ。話にならない。

 作者の実生活でのパートナーが直木賞受賞者だったから、夫婦で受賞した方が話題になるので進呈したんじゃないかと、穿った見方さえしたくなる。とにかく、最近読んだ中では一番の駄作だ。
コメント
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