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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ゆれる」

2006-10-07 08:07:53 | 映画の感想(や行)

 新進女流監督・西川美和の第二作は、デビュー作「蛇イチゴ」と同じく兄弟(前回は兄妹だったが ^^;)の葛藤を取り上げ、相変わらずの人間観察力を見せつける。

 東京で気鋭のフォトグラファーとして優雅な生活を送る二枚目の弟と、山梨の片田舎で家業のガソリンスタンドを継ぎ、気難しい老父と暮らす風采の上がらない兄。弟には自分だけ成功したという負い目が、兄には如才ない弟へのコンプレックスが渦巻いている。そんな二人が法事で再会し、それに幼なじみの女が絡んできたことで事件の幕が上がる。

 渓谷の吊り橋から転落死した女は事故だったのか、それとも他殺か。映画は黒澤明の「羅生門」のように、複数の事件関係者の証言によって多面的な展開を見せるが、「羅生門」とは違い真相をラスト近くに披露する。ただしそれは実際的な事件の真相が明かされるカタルシスよりも、よりいっそう登場人物達の内面の屈託の奥深さを垣間見せるトリガーになり、観賞後の感銘度を押し上げる効果をもたらす。

 スリリングな裁判シーンや沈んだ過疎の町の描出等、西川監督の仕事の確かさが光る。弟役のオダギリジョーにとってはキャリアを代表する演技になるだろうし、人生を放り投げてしまったような暗さを漂わせる香川照之も絶品だ。伊武雅刀や真木よう子ら、脇のキャストもスキがない。本年度を代表する秀作だと思う。

 しかし、オリジナル脚本も手掛けたこの女性監督の、若さに似合わない力量が、今後すべてにプラスにはたらくかどうかは未知数だ。なぜなら、前作と同じ兄弟ネタ(しかも今回は父親の兄も登場してのダブル仕様)で、またしてもボケ老人が出てくるし、ラストもああいう扱いで、要するに“題材を見切ってしまった余裕”みたいなものが感じられるからだ。これはヘタをすればマンネリ化と紙一重。いかにして多様な切り口を見つけていくかが今後の課題だろう。
コメント
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