気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

てまり唄

2009-11-17 17:14:01 | つれづれ
貧乏籤からりと引いて引き捨ててれんげ明かりの道帰るのみ

盗人も願かけに来るゆふぐれやおもひおもひに咲く桐の花

かぞへうたかぞへかぞへて石段をくだればおのがこころの中ぞ

仕事にも飽きて閉ぢたるまなうらにれんげが咲いてゐるではないか

てまり唄手鞠つきつつうたふゆゑにはかに老けてゆく影法師

(永井陽子「てまり唄」砂子屋書房)

音律の美しさにうっとりします。
画像は宝ヶ池公園にて。

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五年近く前の記事ですが、再び掲載します。
きょう、「短歌人をよむ会」の第一回の会合が東京であります。

以下、花鳥佰さんからのメールの引用です。

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発起人は依田仁美さん、有沢螢さん、花鳥佰(かとりもも)です。

会の内容は、「短歌人」の先輩方の歌集を読みましょう、という
もので、第一コースとして、永井陽子さん、高瀬一誌さん、
仙波龍英さん、小中英之さんを読む予定にしています。
私はどなたにもお目にかかったことがないので、楽しみに
しています。
2か月に一度開催の予定です。
すべて予定です。

第一回目には、永井陽子さんの『てまり唄』をとりあげます。
レポーターは名古屋にお住まいの青柳守音さんです。
場所は青山の東京ウィメンズプラザです。
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わたしは京都から応援しています。




今日の朝日歌壇

2009-11-16 21:25:43 | 朝日歌壇
大き羽根纏(まと)い階段降りてくる夢は叶うとタカラジェンヌは
(茨木市 瀬戸 順治)

日本の水のやさしさやわらかさ時差まとう身にシャワー浴ぶれば
(舞鶴市 吉富 憲治)

分断の国を憂えし歌手逝きぬ「イムジン河(ガン)」を歌い広めて
(大阪府 金 忠亀)

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一首目。実は宝塚歌劇を見に行ったことはない。テレビですこし見たくらい。あの夢のような華やかさにハマる人はとことんハマるらしい。四句五句の倒置が効いている。
二首目。時差ボケという言葉があるが、あまり感じのいい言葉ではない。この歌の「時差まとう」という表現に納得した。「やさしさやわらかさ」がひらがな表記になっているのも適切。外国から日本に帰ってきてほっとされている心情がよくわかる。
三首目。先日亡くなった加藤和彦氏への挽歌。コミカルな「帰ってきたヨッパライ」が大ヒットしたので、次はどんな曲?と思っていると、分断された朝鮮半島の歌で驚かされた。当時ハングルの歌は、途中で放送禁止になったのではなかったか。イムジン河をテープ(オープンリール式)に録って、カタカナで歌詞を覚えた記憶がある。フォーククルセダーズが活動したのは、ほんの短い期間だったが、深く記憶に残っている。その後も音楽の世界で安定してさまざまな活躍をされていたので、まさかこんな別れになるとは思っていなかった。いつも、おだやかで優しそうだった笑顔が忘れられない。

場所の記憶 小林幸子 

2009-11-15 01:04:51 | つれづれ
蚕棚の三段ベッド、壁際に立棺のごとき戸棚がならぶ

生き延びて故国に還り指導者となりたる人らの写真が並ぶ

みひらきてなにもみてゐぬ顔写真、収容日、処刑日を記せり

いちまいの写真残りぬ晴着着て楽器かなづるロマの家族の

すずかけやポプラの苗木植ゑたりし囚人たちはみなころされき

人体を杭のかたちにひしひしと詰めたる立牢 たつたまま死ぬ

ひとつだに眼(まなこ)はここに残されず眼鏡とめがねにぶく照り合ふ

ゆるやかに広げありたりにんげんの髪で織られし生成(きなり)の布地

この門を潜りし人らのただひとつの出口でありし煙突が立つ

洋服をきちんとたたみ母と子の入りゆきたり<シャワーを浴びに>

忘れないで下さい ひとりづつふりむきていふ口だけがうかぶ

ここにただ仰ぎてゐたり青空を剥がれつづける場所の記憶を

(小林幸子 場所の記憶 砂子屋書房)

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塔短歌会の小林幸子の第六歌集を読む。
2005年に訪れたベルリン郊外のザクセンハウゼン強制収容所、翌年訪れたアウシュビッツ収容所での作品が中心になっている。
単なる旅行詠でない重い内容に心を衝かれる思いで読んだ。ほかにもお孫さんの誕生の歌や、生地である奈良県宇陀郡室生村を訪ねた歌など、惹かれる作品は多かったが、とにかく収容所の一連の衝撃が大きかった。
ここにすべてを載せることはしないが、ぜひこの歌集を手にとって読んでいただきたいと思った。