気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

樟の窓 大辻隆弘 ふらんす堂

2022-07-21 17:47:43 | つれづれ
 一月五日 岡井隆の誕生日
亡きひとの生誕の日を嘉(よみ)せむはさびし遙かに川明かりして

 三月六日 軽装の歌集ばかり流行る
てのひらの丘をページに圧し当てて今日届きたる歌集を開く

 四月二十五日 ワクチン不足
神託のごとくにも聞こゆこの秋に来む飛ぶ鳥のアストラゼネカ

七月一日 短歌日記折り返し
さやさやと浮かむ夕合歓これの生(よ)の復路半ばのあたり気だるし

 七月十二日 偶成
追憶は細部に及び火のなかに籐ほどけつつ燃えてゆく椅子

八月六日 秋隣
思つたより夏はみじかく餡蜜の半透明に沈んだ小豆

 八月十四日 Z00m選考会
大いなる手があらはれて緘黙の声のミュートを解(ほど)かむとせり

 八月十八日 休暇明け
葉の影が幹の裏よりまはり来て樟(くす)の木は夏の午後となりたり

 九月二十日 敬老の日
鍵束の鍵かろらかに触れあひて涼しく朝に韻(ひび)くその音

 十二月二十三日 述懐
おもほゆれば歌にかかはる友のほか友と呼ぶべきひとりだになし

(大辻隆弘 樟の窓 ふらんす堂)

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大辻隆弘の第九歌集。2021年を通して一日一首をふらんす堂のホームページに掲載し、一冊の歌集となった。ここに十首を選ぶことは難しいけれど、好みの歌を取りあげる。どのページを開いても大辻さんがいる。見るもの聞くもの触るもののすべてが短歌となって出てくるという短歌製造マシンである大辻隆弘の向こうにはアララギの長い分厚い歴史がある。なお、大辻の辻の之繞の点は一つ。

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