気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

白蛾 森岡貞香

2008-04-20 02:43:42 | つれづれ
うしろより母を緊めつつあまゆる汝は執拗にしてわが髪乱るる

拒みがたきわが少年の愛のしぐさ頤に手触り来その父のごと

生ける蛾をこめて捨てたる紙つぶて花の形に朝ひらきをり

月させば梅樹は黒きひびわれとなりてくひこむものか空間に

うつそみにしたたるばかり月させり掬はむとすれどむなしきひかり

月のひかりにのどを湿してをりしかば人間とはほそながき管のごとかり

(森岡貞香 白蛾 短歌新聞社文庫)

************************

森岡貞香の第一歌集『白蛾』を読む。
森岡は、大正5年生まれで。今年92歳になる。
終戦後の混乱の時代に、若くして未亡人となり、ひとりで子を育てながら、短歌を作りつづけた。
わが子を「少年」と呼んでいるのが、新しい。少年は、作者の大切な愛の対象であるが、夫ではない。しかししばしば表現の中に亡き夫への思いと重なるものを感じさせる。自らを蛾に譬えて、生きる苦しみを表現しているのが新鮮。また、月の歌も多い。
四首目。普通は梅の樹が闇のなかの空間に立っていると感じるが、森岡は空間を黒いカーテンのように捉えて、そのひび割れに梅の樹が食い込んでいると詠う。不思議な感覚である。
戦後、未亡人として生きることがいかに困難であるか、それにめげずに生き抜いてきたことにも尊敬の念を感じた。
拙作は、2006年宮中歌会始の召人になられたときの様子をテレビで見て作ったもの。

品性の良き招き猫の居住まひに召人森岡貞香笑まはむ
(近藤かすみ)


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (かすみ)
2008-04-22 00:12:29
ohiraさん こんばんは。
森岡貞香さんは、ご病気で肋骨を切除しておられるので、その影響もあると思います。この歌は某歌会に出して、点の入らなかった歌でした。不遜だったのでしょう。
返信する
Unknown (ohira)
2008-04-21 22:18:01
森岡氏の歌は、「詩」そのものですね。
ご高齢でおられるゆえ、少し猫背でもいらっしゃる様な・・・
招き猫の居住いは、そこを捕えられたのですね。

返信する