船酔ひにくるしみて着く暑き日の陸(をか)は海よりわづかに高し
図書館の廃本コーナーに置かれあり『薔薇の名前』の上巻下巻
遠山ゆひとすぢの水ながれくる二枚続きの夏の襖絵
女川(をながは)を遠くはなれて庭に咲く馬酔木の泪をわれは見る人
手の窪にかかる重みのここちよし梨の実ひとつ剝くをためらふ
生存者の手書き名簿のかたすみに父の氏名の蹲りをり
ひと粒の宵の灯(あかり)のかがやける生家を見たり最後と知らず
雪の日に母にならひし機結(はたむす)び空気ふるはれひしと緊まりぬ
少年のためにマドレーヌを週一に焼きたる頃は菓子期と言はむ
白き苞を十字に開き雨を欲る衛生兵のやうなドクダミ
(越田慶子 海に向く 六花書林)
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短歌人所属の越田慶子さんの第一歌集。ふるさと女川への思い、震災に生き残った父への愛情、慎ましく愛おしい日々の暮らし。短歌があればこそ残っていくことの尊さを思う。
図書館の廃本コーナーに置かれあり『薔薇の名前』の上巻下巻
遠山ゆひとすぢの水ながれくる二枚続きの夏の襖絵
女川(をながは)を遠くはなれて庭に咲く馬酔木の泪をわれは見る人
手の窪にかかる重みのここちよし梨の実ひとつ剝くをためらふ
生存者の手書き名簿のかたすみに父の氏名の蹲りをり
ひと粒の宵の灯(あかり)のかがやける生家を見たり最後と知らず
雪の日に母にならひし機結(はたむす)び空気ふるはれひしと緊まりぬ
少年のためにマドレーヌを週一に焼きたる頃は菓子期と言はむ
白き苞を十字に開き雨を欲る衛生兵のやうなドクダミ
(越田慶子 海に向く 六花書林)
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短歌人所属の越田慶子さんの第一歌集。ふるさと女川への思い、震災に生き残った父への愛情、慎ましく愛おしい日々の暮らし。短歌があればこそ残っていくことの尊さを思う。