気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

あめつちの哀歌 高尾文子 本阿弥書店

2020-11-17 11:32:25 | つれづれ
『クオ・バディス』少女雑誌に読みし日の挿絵の道に立つてゐた人

歌ふごと覚えし助動詞の活用形<らりりるれ>小さな鈴がころがる

孤独死をなぜに哀れむと詠みし人よひとたびの死をひとりで逝きぬ

息子へ送るメール件名<母>一字 それ以上以下の言葉持たねば

返信は<了解>二文字 たまづさの文ならねどもほんのり灯る

ガス室に消えし幼女の遺す靴 くつひも結ぶちさき手も視ゆ

たぶん小声にかしこきことを言つてゐる藍色微塵けさのつゆくさ

今日ありてあすは炉に燃す野の花の一生紡がざるものを恋ふべし

群れのなかの孤独はひとりの孤独より寂寥あるや広場の鳩よ

かくも長き戦後を写真の廃墟にて立ちつづけゐる裸足の男の子

(高尾文子 あめつちの哀歌 本阿弥書店)

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かりん所属の方の第六歌集。長く修練を積まれたことがわかる整った歌に学びは多い。2015年以降の歌が収められているが、その都度作られた時事詠が適切で感心した。孤独死をなぜに哀れむ、の歌は雨宮雅子さんの歌ではないか。老いと孤独ということが避けられない時代になった。コロナの影響でこの問題は加速することだろう。

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