気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

内山晶太 窓、その他 つづき

2012-10-29 00:13:10 | つれづれ
海に来て菓子をひらけば晩年はふと噴水(ふきあげ)のごとく兆しぬ

乾きたる冬の日差しのように散り古き映画のなかに雨脚

自販機のひかりのなかにうつくしく煙草がならぶこのうえもなく

布のごとき仕事にしがみつきしがみつき手を離すときの恍惚をいう

ひよこ鑑定士という選択肢ひらめきて夜の国道を考えあるく

うすくらき通路の壁にリネン室げにしずかなり布の眠りは

新しきめがねを掛けたるときのよう秋は細部がつるつるとして

いちにちにひとつの窓を嵌めてゆく 生をとぼしき労働として

壊れそう でも壊れないいちまいの光のようなものを私に

ガスコンロの焔は青き輪をなして十指をここにしずめよという

晩年の花火しだれて人毛のごときくらさを帯びたれば消ゆ

(内山晶太  窓、その他  六花書林)

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内山さんは、1977年生れなので今年35歳。それなのにもう晩年を意識している。不思議な感じがする。親に近い年齢のわたしは、まだまだ「若さ」に固執しているというのに。余裕があるから生じる逆転現象だろうか。相聞らしき歌もない。すべて、淡く清潔で坦々としているように見える。
八首目の「いちにちにひとつの窓と嵌めてゆく・・・」、次の「壊れそう でも壊れない・・・」は彼の代表作になると思う。

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