気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

黒砂糖 今井千草歌集

2006-03-03 22:58:13 | つれづれ
サンボンネット・スーの帽子は永遠にスーちゃんの顔隠し続けん

壁であったか橋であったか礎であったか瓦礫の元の名前は

枯草を銜えて庭を横切るは雀であった頃のわたくし

黒砂糖とろりろ溶けて夫も子もおらぬ一夜のフランス映画

明日は晴れ上手に使えと真顔にて予報官言いニュースは終わる

(今井千草 黒砂糖 ながらみ書店)

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短歌人会の同人でお友達の今井千草さんの歌集批評会が東京であり、錚々たるメンバーが意見を交換されたと聞く。近くなら参加したかったのに残念。ともあれ歌集を読み返す。

一首目。パッチワーク、アップリケの図案の定番の図柄は知っていたが、サンボンネット・スーという呼び名は忘れていた。でもこの歌を読むと、あああれかとわかるのだ。手芸に関心のない人にもわかる。あの誇張はなんだろうなと思いつつ、歌の力でわかってしまう。
二首目。結句まで読んで、そうか瓦礫の元は壁か橋か・・・と思って、また最初に戻る歌。作者の発見を言葉にしている。
三首目。庭の雀に仮託して、作者が雀になっているところに妙味がある。
四首目。この歌集の題になった歌。夫や子を十分愛しているのに、ひとりになるとなんとも言えない幸福感に浸るという女性の危うさ。フランス映画の甘美さをうまく借りている。しかしこれが毎晩になると、恐ろしいのだが・・・
五首目。明日が晴れなら、主婦は住まいに風を通し、洗濯をして、家事をこなすのが当然という予報官の真っ当さを癪に障っている作者。晴れなら散歩して、昼寝して、すきな本をパラパラ見て・・・その方がいいじゃないですか。家事ができてなくても(今井さんはしているだろうが)生き生きしている妻、母が家族にはありがたいはずだ。間違いない!

電話機に、ドアノブにカバー奥さまの心づくしの「私の部屋」
(近藤かすみ)


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