気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

海の額と夜の頬  山下泉 

2012-12-07 18:47:03 | つれづれ
サンダルをはいて出ずれば夜は優し夜の大きな頬に入りゆく

中庭に置かれしままの一瞥を拾えば若き父と出会えり

父の遺品にピンセット欲る人ありぬ入り日を受けて光るであろう

仏壇にあいさつをして弟はケーララへ行く蛇を調べに

うしろむきに耳殻はひらき遠くから運ばれてくる足音(あおと)を待てり

湯葉鍋をよろこび掬う初春の族(うから)の集い死者もひらめく

言葉にはうぶ毛がありて光りつつ夜の枕にひとひらは落つ

先生の机上は昼も点りおり 露草いろのインクの香り

黄葉の散りて小暗し帽子ぬぐ兵士のように暮れゆく窓は

帽子が重いと鏡を出ずる母ありて帽子の影は過去に落ちたり

(山下泉 海の額と夜の頬 砂子屋書房)

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塔短歌会所属の山下泉の第二歌集『海の額と夜の頬』を読む。
この作者独特のものの把握の仕方、感性の繊細さと感じさせる歌が並ぶ。
三首目から想像するに、お父様は歯科医で、最近亡くなられたようだ。作者の感情は歌に出ていないが、そのお人柄がわかる。それでいて、ピンセットというものに託して、距離を置いた詠い方をしているのが魅力。
七首目の言葉の把握も独特で面白い。
九首目、十首目は帽子のうた。昔は多くの人が、その職業や立場に応じた帽子をかぶって暮らしていたと聞く。「帽子ぬぐ兵士」が、一日の終わりを巧みに象徴している。
十首目の母は、老齢のためか病気なのか、通常の生活から「降りた」ことを帽子に託して詠っている。全体に静かで透明感がある。



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