気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

光るグリッド 大森千里 青磁社

2020-08-18 01:21:49 | つれづれ
この春が最後かも知れぬひとのためお膳につける蕗の薹ふたつ

生ハムを一枚一枚めくっては盛りつけている静かな怒り

声あげて笑わぬ夫と子のために今夜もつけるひょっとこの面

私にもこんなパワーが欲しいのよ 乾燥わかめ三倍となる

木綿派と絹派に分かれる冷奴冷蔵室で二列に並ぶ

扇風機右に左に首振ればおくれて動く猫の黒目よ

ためらわず生八ッ橋はふたつ取り三十五キロの壁を超えたり

霙ふる四角い空を積みあげてジャングルジムは広場に立てり

人の死に慣れてしまってわたくしの右手左手てきぱき動く

信号が赤から青に変わるときわずかに跳ねるわたしの踵

(大森千里 光るグリッド 青磁社)
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第一歌集。感性が若い。看護師、主婦、母親の顔のほかにマラソンランナーであり、水泳も得意らしい。今では、生、老、病、死の「生」以外は家庭と離れたところでなされる事となってしまったが、作者は職業として向き合う。その姿勢が妻、母としての生き方を分厚くしている。家族のために生きるのではなく、家族とともに生きる。「ひとかけの氷」「釦をさがす」の三十首が圧巻。

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